第42話 ルーク、街で家を探す

バッケン「そんなに大きく動き回らなくていい、そういうのも必要だが、人間相手の時はもっと狭い範囲での動きも憶えろ。相手の視界から消えるような動きと、相手に分からないほどの数センチの移動、どちらも使いこなせるようになっておけ」


バッケンはルークに剣術も教えてくれた。立ち会いではルークが勝ったが、それでも対人技術に関してはルークの技は荒削りな面が目立った。それがバッケンは気になったのである。


ルークは森の中で魔物と戦うのが前提の技だったのだから動きが大きいのは当然である。どちらかと言えば、地球で言う闘牛に近いかもしれない。そして、相手がどんな特性を持っているか分からない魔物相手の場合は、むしろそれが正しいのである。


だが、人間を相手にする場合は、もっと繊細な動きが有効な場合もある。ルークのダイナミックな動きを、無駄のない対人用の技術にするためには、少し調整してやる必要があったのだ。


ルーク「だけど、知らない技を使う相手と戦う時は……?」


バッケン「そういう時は、どんな隠し玉があるか分からないから、なるべく距離を取ったほうがいいに決まってるだろう」


ルーク「だよねぇ……だったらやっぱりそんなギリギリの技はあまり必要ないんじゃ……?」


バッケン「馬鹿野郎、できて使わないのとできない・知らないのとはまったく違うんだよ」


ルーク「へぇ、そういうもんなんだね……」


またバッケンも、ルークの技を教わり以前よりもさらに強くなった。


ただ、特に隠す気もなくどんどん自分の開発した技を教えてしまうルークの無防備さに、バッケンは「他人に対しては、少し技術は秘匿したほうがいいぞ」とアドバイスするはめになるのであったが。


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そして半年後、一通り自分の知識と技術の伝授を終えたバッケンは、後は自分で練習を続けていけと言い残して旅立っていった。祖国に帰ったのである。


それほど若くはないバッケンがルーク達と一緒に訓練していたのは、己をもう一度鍛え直し、憎きドゴスに復讐を果たすためであった。






バッケンが旅立ち、森での訓練も一段落となったので、ルークはいよいよ、街に移住する決意をした。


森の家を片付け、しっかりと戸締まりし、三人で街に出る。


ルークと過ごした時間がポーリンは楽しく、いっそこのまま一緒に森で暮らすのもいいかなとさえ思ったのだが、ルークを森に閉じ込めておくのはいけないと思い直したのであった。




   * * * * *




街に住むなら、まずは、住む場所を探さなければならない。


住むのに良い場所が見つかるまでは宿に泊まるか、それとも森の家から毎日街に通うか、ルークがリスティと相談していると、ポーリンは自分の実家(ポーリンを養女にして育ててくれたブラハリ商会)に泊まればいいと言いだし、強引に事を進めてしまった。


ポーリンは冒険者になってからは極力実家に帰らないで一人で頑張ってきたのだが、今回実家に頼ったのは、ルークを親に紹介したいという狙いもあったのだ。


ブラハリ商会は街では二番目に大きい商会なので余裕もあり、娘の友人を喜んで泊めてくれた。(将来の商会を背負って立つ婿養子かも知れないのだから当然であるが。)


娘の命の恩人なのだからずっと居てくれてもいいとポーリンの両親は言ったが、そういうわけにもいかないと、ルークとリスティは、住む場所が見つかるまでの短い間だけということで、世話になることにしたのだった。




   * * * * *




『街に住んだことがないぃぃ~?』


街の不動産屋を訪れたルークとリスティ。


だが、不動産屋の店主は二人の話を聞いて渋い反応であった。街に住んだことないと言う少年と、街では非常に珍しいエルフである。何か問題が起きるのではないかと警戒しているのであった。



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