第6話 住むところを探す

ルークを犯人扱いしたトール爺は、自分は知らんと捨てゼリフを残し、ソソクサと逃げるように帰ってしまった。(その後は完全隠居を決め込み、ルークの捜索にも協力しようとはしなかった。)


ヒボル「…俺だって、そうかも? って言っただけだよ。日頃から そこう・・・ が悪いから疑われるんだ、ルークが悪いんだよ!」


ルークがやったと嘘をついたヒボルも言い逃れをしようとした。


だが、それについては、他の孤児たちから異論が上がった。


中でもメアという少女が激しくヒボルを攻撃した。ヒボルに虐められていたメアをルークが庇ってくれた事が度々あったのだ。


メアを庇ったせいで、ヒボルのルークに対するイジメはその後さらに酷くなったのだが、ヒボルが怖くてメアはただ見ているしかできなかった。


だが、ルークが孤児院を飛び出してしまい、もう我慢できないと、メアも(他の子供達も)ヒボルの悪行を訴え始めたのだった。


シスターたちは、子供たちの証言で初めて、ヒボルがルークをイジメていたのを知った。ヒボルは大人の前では実に巧妙に “良い子” を演じ、ルークが悪く思われるように誘導してきたため、ルークは大人達の間では “時々酷い悪戯をする悪い子” と思われていたのだ。


だがそれは全部ヒボルがやった事で、ヒボルがその罪をルークに擦り付けていたのだと子供たちは口を揃えて言ったのだ。


子供達の訴えを聞いて、シスター達も混乱した。


相変わらずヒボルの言い訳は上手い。子供たちの訴えはうまく纏められておらず分かりにくい。このままヒボルの言い訳を信じてしまえば、シスター達は自分達の認識の甘さ・過ちを認めないで済む……


だが子供達の必死の訴えは、嘘をついているようには見えなかった。


また、子供たち以外にもシスターたちを見ている眼差しがある。神父様とシスター長である。


いつも優しくそれでいて厳しい神父様。

いつも厳しい事ばかり言うけれど、それはすべて自分達と子供達のためを思う深い愛情ゆえであるシスター長。


子供たちと神父様、シスター長の眼差しの前で、シスター達は自身の中にある欺瞞と向き合あうしかなかった。


神父「己と向き合い、神に恥じぬ道を選びなさい」


そう言われ、シスター達は己の未熟と過ちを認め、償いを恐れるのをやめた。悔い改め、欺瞞を捨てて冷静にすべてを振り返って見れば、おのずから真実が見えてくるのであった。






それ以降、シスター達からのヒボルの信用はゼロになった。


あらためて冷静に観察してみると、このヒボルという少年はなんとズルく歪んだ言動をするのだろう? なぜ自分達は騙されていたのだろうかと不思議になるほどであった。


だが、シスター達はヒボルを見捨てはしない。シスター長や神父様が自分達を見捨てなかったように。神はヒボルもまた、慈悲をもって導こうとするはずである。


ヒボルもなんとか正しい道に戻れるように手助けをするのが人の道、そして神の道であるとシスター達は思ったのだ。






以降、シスター達はヒボルにやたらと口煩くなった。ヒボルにとっては鬱陶しいことこの上ない。ヒボルはまた上手く口先で騙して逃れようとするのだが、しかしシスター達は今までのようには騙されてはくれないのであった。


それどころか、ヒボルが本当の事を言っている時でも、いちいち真実かどうか確認されるようになってしまったのである。それは酷くヒボルのプライドを傷つけた。


また同時に、ヒボルは、孤児院の子供達からも無視されるようになったため、孤児院は、ヒボルにとっては大変居心地の悪い場所になってしまった。


それもまた、ルークのせいだとヒボルは密かに逆恨みをしているのであったが。




   * * * * *




森の中で一人で生きていく事にしたルーク。


食・衣・住。その三つが充足されれば、人はなんとか生きていける。


まず緊急性があるのは【食】の問題。


幸い今は緑豊かな季節である。森の中では食べられる植物や木の実、果物も豊富であった。


飲み水だって、汚れた水でも【クリーン】で美味しく安全な水に変えてしまえるので困る事はない。森の中には食べられる果物や植物も豊富だ。中には毒があるものもあるかも知れないが、それも【クリーン】で浄化してから食べるので問題ない。


野生の動物や魔物に遭遇しても、大物でなければ【ドライ】で倒す事ができそうである。赤子の時から使い続けてきた【クリーン】と【ドライ】の魔法は、かなりの腕前なのである。






次は【衣】の問題。


これも当面は問題ない。【クリーン】が使えるので、常に服も身体も清潔な状態を保てる。洗濯も風呂も必要ないのだ。


サイズも、子供はすぐ成長するので、それを見込んで修道院ではかなり大きめの服が与えられていた。今ルークが着ている服はかなりブカブカで、袖や裾を折りたたんで着ているのだ。おかげで当分は衣服の変えも要らない。


ただ、【クリーン】の魔法は汚れは落ちるが新品に戻るわけではない。破れたりしたら魔法では直せない。服はどんなに清潔を保てても、いずれ擦り切れてしまうだろう。それまでに替えの衣服を用意する必要があるが……まだ時間はある、なんとかなるだろうとルークは思っていた。






あと足りないのは【住】である。


ルークは、森の中を進むと、丘の中腹にほどよい洞窟を見つけた。分かりにくいが、よく見ると洞窟の前には焚き火の痕跡のようなものがあった。人が住んでいたのだろうか?


先客が居ると困るが、どうもそういう雰囲気ではない。


ルークは慎重に洞窟の中を探検してみた。どうやら誰も居ないようだ。ただ、間違いなく人が住んでいた形跡があった。家具などもある。ただ、随分長いこと放置されていたのだろう、家具も苔が着き始め、蔦に覆われて始めているものもあった。


蔦をナイフで払ってみると、箱の中には衣類や食器のようなものもあった。さらに洞窟の奥に隠すように置いてあった箱には、多くはないが金が入っていた。もしかしたら盗賊のアジトだったのかも知れない。盗賊は捕らえられ、アジトが放置されてしまったのだろうか。


なににせよ、金があったのはありがたい。どうしても買う必要があるものが生じた場合は、街に行って購入するという選択肢も考えられるようになる。


ルークは以前の住民に感謝し、ここをとりあえずの拠点とする事にした。




   * * * * *




シスター・アマリアは後悔していた。


ルークは確かに変わったところがある子ではあったが、しかし決して悪い子ではなかった。それは最初から分かっていたはずなのに……




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