第7話 お願いルーク、無事でいて

ルークが姿を消してから一週間が経ち、捜索は完全に打ち切られる事になった。ルークは行方不明者として報告された。


警備兵は、これだけ捜してみつからないのだから、ルークはおそらく街を出たのだろうという結論であった。


街を出るのに、商隊の馬車に潜り込んで行った可能性は高い。ルークが居なくなったあの日も早朝から商隊の馬車が何台も出発していったそうだ。


もしそうなら、ルークは隣町に無事に着いているかも知れない。


アマリアは居ても立ってもいられず、隣町まで自ら確認に行った。


しかし、隣町の教会(孤児院)にルークの姿はなく、また街で聞き込みをしても、それらしい子供の姿を見たという話はなかった。


アマリアはなけなしのへそくりをすべてはたいて、冒険者を護衛に雇い、街の外を捜索した。だが、金はすぐに尽きてしまい、冒険者達は力を貸してくれなくなった。


そこでアマリアは、自分一人でルークを探す事にした。


だが、それは大変危険な事である。街の外には野生の動物や、もっと危険な魔物が彷徨いているのだ。


特に、オークやゴブリンなどの人型の魔物に見つかったら、女は大変な事になる。オークやゴブリンは雌が少なく、他の種族(主に人間の女)を “苗床” にして子供を産ませるのだ。


だが、アマリアはルークを探す事しか頭になかった。


一度、孤児院に戻ったアマリアは荷物をまとめると、書き置きを認め残した。アマリアは孤児院を出る事にしたのだ。


アマリアはルークを見つけ出すまで戻らない覚悟であった。ルークが生きていることを願っていたが、仮に、たとえ死体であっても、ルークを見つけて街に連れ戻し丁重に葬り、天国へ行けるよう祈ってやりたいと思ったのだ。


もしルークが、天国へも行けず、アンデッド化して未来永劫彷徨い歩くような事態にでもなったら、申し訳なくて、アマリアは死んで侘びても許されないと思うのであった。(ルークがアンデッド化して死ぬ事もできなくなっているのに、自分が死んでも謝罪にもならない。)


だが、街を出ようとしたところで、神父様とシスター長が現れ、アマリアは止められてしまったのであった。




  * * * * *




洞窟の中のベッドを整えたルーク。とりあえず雨露を凌げる寝床は確保できた。翌日からは洞窟の外を探検である。


ルークには確かめておきたい事があった。それは、自分の【ドライ】の魔法が、野生の動物や魔物にどこまで通用するのかである。


通常、【ドライ】というのは濡れた手や髪、洗濯した衣服を乾かすために使うものだが、熟練の域に達していたルークの【ドライ】は、蛇などの小動物であれば殺してしまう事ができる。それは、孤児院にいた頃から実証済みであった。


だが、森の中には大型の動物もいる。そのような相手にどこまで通用するかどうかは試してみないと分からない。限界を知っておかないと、命に関わる事になる。





洞窟を中心に、周囲を探り始めたルーク。森を歩いていると、一角兎が現れた。


額に鋭い一本角を持つ兎である。これは普通の野生動物ではなく、魔物の一種である。好戦的で、強い脚力で体当たりのように角で攻撃してくるのだ。年に一人二人はこの一角兎にやられ、死人が出る事もある。


一角兎はルークを獲物だと認識したのか、狙いを定め飛びかかってきた。慌てて飛び退くルーク。かなりギリギリであったがなんとか躱す事ができた。そしてルークは、すれ違いざまに【ドライ】を放っていた。


一角兎は着地した後、そのまま倒れて動かなくなった。突然身体の中の水分がなくなってしまったのである。脳に酸素を送る血液がなくなり、一瞬にして意識を失って倒れてしまったのだ。


ルークは死んだ一角兎を洞窟に持ち帰る。これを捌いて干し肉を作るのである。【ドライ】で余計な水分がなくなっているので血抜きも不要である。さらに【クリーン】を掛けて雑菌も着いていない状態にできるので、かなり日持ちするはずである。


“干し肉” は、【クリーン】と【ドライ】が得意なルークの定番の処理方法なのだ。





洞窟の周辺を探検しながら、蛇や兎、鳥などを仕留めては戻り、干し肉を作っていくルーク。洞窟の奥にあったカメに塩が貯蔵されていたのを発見した時は飛び上がって喜んだ。これで干し肉作りが捗る。塩なしでもルークならば干し肉を作れるが、味気ないものとなってしまう。


塩はもともと鉱物なので腐ったりはしないが、長く放置されていたため埃や土をかぶっていた。しかしルークならばクリーンがあるので何も問題ない。


森で見つけた果物なども収穫して洞窟の奥の涼しい場所にせっせと貯蔵していく。これも、クリーンで常に雑菌がない状態をキープできるので、とても長く持たせる事ができるのだ。


しばらくそんな事をしていたルークであったが、ある時、森の中でオークに遭遇してしまった。





オークはかなり危険な魔物である。群れで活動し、初心の冒険者では手こずるような相手である。子供一人では手に余る。


だが、オークははぐれ・・・だったようで、一匹だけであった。それなら……


ルークはチャンスだと思った。初めて出会った高レベルの魔物である。果たして自分のドライが通用するか、確かめて見る必要がある。オークは確かに危険だが、森の奥に行けばきっともっと危険な魔物が出てくるはず。オークごとき倒せないようでは、森で生きて行くことなどできはしないだろう。


ナイフを抜き、構えるルーク。それを見たオークも敵だと認識したのだろう、攻撃体制に入った。


見れば、オークははなんと剣を持っていた。


ナイフだけで渡りあうのは危険かも知れない。


しかし、もはや後には引けない……


ルークはオークから距離を取りながら、遠距離から【ドライ】を発射する。だが、距離があるため効果が弱く、オークは倒れない。とは言え、まったく効いてないというわけでもない。オークの目が血走り、苦しそうな表情をし始めたのだ。


ルークは距離を保ちながらさらに【ドライ】を連発した。何度も何度も……


だがそれでもオークは倒れる事なくルークに近寄ってくる。そしてついに剣が届く距離にまで近づいてきた。


オークは剣を振りかぶる。だがその剣が振り下ろされる事はなく、オークはバタリと倒れたのだった。


連発したドライはかなり効いており、オークの動きはかなり鈍くなっていたのだ。そして、距離が近づくほどに魔法の効果が高まっていくので、剣が届く距離に入った時には、ルークの【ドライ】が致死量に達したのであった。





ルークの【ドライ】はオークに通用した。これなら多少危険な魔物に出会ってもなんとかなるだろう。もちろん、数が多ければ危険であるので、囲まれないように注意が必要であるが。


こうして、ルークはオークの肉と剣をゲットした。


オークを解体し、せっせと洞窟に運び、さっそく塩を振って乾かし、干し肉にしていく。オークの肉は美味いのだ。これを旅人に売れば金が稼げるかも知れない。なんとか生活の目処も立ちそうであった。



だが、そんある日のこと、ルークはオークの群れに襲われてしまう……



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