第5話 サバイバル 僕は自由だ

ルークは木の枝を拾いあつめると、近くを流れる川の辺りほとりへ降り、火を起こした。


火種も魔法を使う。だが、ルークは火属性の魔法は相性が悪いようであまり得意ではなかった。


いつか孤児院を出るつもりだったので、その準備として、いくつかの魔法を習得しようとルークは練習していた。だが、かなりがんばって練習したのだが、炎系の魔法は、指先にごく小さな炎を出す程度しかできなかったのだ。(この程度であれば生活魔法としてほとんどの人間が使える。)


この魔法をルークは【着火】と名付けた。武器にはならなくても、火種としては十分である。適当に拾い集めた木の枝は湿気っているものが多かったが、ルークは【ドライ】で乾燥させてしまう事ができる。完全に乾いてしまえば、火は簡単に着く。【ドライ】と組み合わせると【着火】も十分便利な魔法であった。


さらに、ナイフを使って細い枝を削ってササクレを作り、燃えやすくし、そこから徐々に大きな枝に火を移していく。


誰に教わったわけでもないのだが、ルークには自然の中でどうすればよいのかが何となく分かるのであった。


ナイフは、捨てられて居た時に一緒に持たされていたものだ。自分を捨てて行った親が、せめてもの餞別に持たせてくれたのだろう。つまり、親はルークを捨てたが、愛情がなかったわけではないと神父様は言っていた。きっと何か、止むに止まれぬ事情があったのだろうと。


孤児院に居る子供には、親が既に死んでいる事が分かっている者も多い。だが、ルークの親は死んだと決まったわけではない。生きていれば、いつか親にまた遭う事ができる日もくるかも知れないと神父様はルークを励ましたのだった。


ルークはそのナイフをずっと大事に持っていた。何度かヒボルに盗られそうになったりもしたが、必死に守り抜いた。時にはそれでヒボルに怪我をおわせてしまう事もあり、それでルークの立場は非常に悪くなってしまったのだが、それでも形見のナイフを奪われなくてルークはほっとしていた。






ヒボルは大人相手には媚を売り空気を読んで上手く立ち回る、ずる賢い子供であった。


一方ルークは立ち回りが不器用で、大人から誤解を受けやすい子供だった。(幼児なのだから当たり前なのであるが。)


そのため、ルークはヒボルの “罠” に嵌められて “悪い子” にされてしまう事がよくあった。そうして、孤児院の中でルークは “悪い子” のポジションへと追いやられて行ったのだ。


だが、それももう終わりである。ルークには、もう孤児院に戻る気はないのだから……。そう思うと、ルークはこれから一人で生きていかなければならないのにも関わらず、晴れやかな気持ちになるのであった。






喉が乾いたので川の水を汲んで飲む。川の水は澄んでおり、そのまま飲んでもおそらく大人であれば問題ないだろう。だが、身体の弱いルークである。赤子の時にくらべればかなり身体は丈夫にはなったが、基本的に、感染症に弱い体質は変わってはいないのだ。用心に越したことはない。


ルークは汲んだ川の水にも【クリーン】を掛けてから飲む。これで雑菌も毒に入っていない、飲んでも安心な水ができるのだ。


焚き火が十分大きくなったので、先程殺した蛇をナイフで捌き、木の枝に刺して焼いて食べる。完全に干からびるほどは乾燥させてはいない、適度に干し肉化している。この辺の手加減は、孤児院にに居る時に庭に出た蛇で何度も試していたのでバッチリである。


もちろん蛇はクリーンで毒や細菌や寄生虫も除去してあるので安全安心な食材である。空腹も手伝い、意外と美味しい。


食費がいつも厳しい孤児院で、少しでも腹を膨らませる足しになればと思っての事だったのだが、蛇を殺して干したり焼いたり煮たりして食べている姿をシスター達に見られたため、ルークは不気味に思われてしまったのだが。


(結局、シスター・プーリアが蛇が大の苦手で、孤児院では食材としては却下になってしまった。)


食後のデザートは川沿いの木に生っていた木の実をもいで食べる。これも美味かった。


この世界は自然が豊かだ。自然の中に居ると不思議とルークは落ち着く。


ルークはほとんど旅の支度と言えるものを持っていなかったが、【クリーン】と【ドライ】そして【着火】、それに親の形見のナイフ、そして【豊かな自然】があれば、一人でも生きていける気がしていた。




  * * * * *




食事休憩を終えたルークは、再び歩き始めた。のんびりはしていられない。


このまま街道を進んで隣の街を目指すという選択肢もあったのだが……ルークはあえて街道から逸れ、森の中に入る事にした。


街に行ってもルークが望む生活はないだろうと思ったからである。六歳の子供が一人で生活する事は難しい。おそらく孤児院に入れられてしまうだろう。


ルークは孤児院での生活に未練はなかった。孤児院にはあまり良い思い出はない。それは主にヒボルのイジメのせいだったのだが。


隣町の孤児院にはヒボルは居ない。だがきっと、別のイジメっ子が居る気がした。どこに行ってもおそらく同じである。なんとなく、直感的にルークはそれを理解していたのだ。


それに、隣町に行っても、窃盗や毒を入れた犯人として連絡が行っている可能性もある。


隣町では誰もルークの顔も名前も知らないだろうが、もし正体がバレたら、前の街の孤児院に連絡されラハールの街の警備隊に引き渡されてしまうかもしれない。


ならば、森で一人で生きよう、ルークはそう思ったのだ。森にはうるさい事を言う大人は居ない。自由に生きられる……


幼いが故の稚拙な考えもあっただろうが、ルークは自分にはその力がある事を直感的に理解していた。自分には【クリーン】の魔法がある。そして、不思議な事に、自然の中で生きて行く知恵が、なぜか必要に応じて沸いてくるのである。


ルークは赤子の頃から、大自然に呼ばれているような気がしていた。


城壁に囲まれた街は閉塞感が強かった。どこを見ても見えるのは塀ばかり。緑も少ない。(城壁の上に登れば外の世界が見えるが、危ないからとほとんど登らせてもらえなかった。)今は緑の中で、丘を登ればその先には草原が広がり、はるか遠くには山々が見える。


この広大な世界で一人、自分は自由なのだと思うと、なぜかルークはワクワクしてくるのであった。孤児院に居た頃には感じた事がなかった高揚感に、思わずルークは走り出していた。




   * * * * *




トール爺は、ルークの無実が判明した後、シスターに責められていた。


トール爺「知らん知らん、ワシはただ、可能性を指摘しただけじゃ。別にルークが犯人などと決めつけた覚えはないわい。犯人かどうかは警備隊が調べて、犯人でないならそう言えば良かっただけじゃろうが。ワシのせいにするな! ワシはもう帰る!」




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