第10話 炎に忍び寄る影
(お嬢様……、先日からずっと暗い顔をされているわ。どうしたのかしら)
ベルタは何も話さず暗い顔をしているアリアベルが心配だった。
これから学院へ向かう時間だができることなら行かせたくない。そんな気持ちもベルタにはどうにもすることができない。駐車場につきノアとアリアベルが車に乗り込む。
「お嬢様、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
アリアベルに鞄を渡す。アリアベルは受け取りベルタに微笑んだ。
「えぇ、ありがとう。行ってくるわ」
車は走り出した。
アリアベルは授業中集中出来ないでいた。以前の出来事がぼんやりと頭の中で繰り返し流れる。憂鬱で仕方がなかった。
その様子を見てカリアーナとフィリーシャが心配して声をかけた。
何気ない会話をしているうち、暗い気持ちだったが二人の空気が少しずつアリアベルの気分を晴れさせていった。
(いつまで考えたって、今更どうにもならないわ。……いっそのこと受け入れて開き直ってしまった方が楽かしら)
カリアーナとフィリーシャだけでなく周りの人達が自分の事を気にして心配の声をかけてくれることが段々と申し訳なく思えてきた。
気が紛れ、残りの授業を必死にこなしていく。
「今日は図書館に行かれるんですか? もし行かれるなら私もカリナ様も御一緒しますよ」
フィリーシャがアリアベルに聞く。
「ありがとうございます。ですが、今日は車が来たらすぐに帰ります」
今日一日、アリアベルはなるべく教室から出ないようにしていた。会いたくない人と鉢合わせないためだ。幸い何事もなくカリアーナとフィリーシャも話しかけて来てくれたおかげで気持ちが落ち着いている。
車が着くまで時間が空いていたので授業で新しく勉強した内容を復習して過ごした。
時間が過ぎ、外に出ていようと荷物をまとめて教室を出た。玄関に向かう途中、あと少しでそのまま帰れるところに聞きたくない声で名前を呼ばれた。
「アリアベル様!!」
体が引き攣る。
「……っ」
不意に体が動かなくなる。ゆっくりと振り返るとマーガレットがこちらへ走ってきていた。
今シリウス以上に会いたくなかった人物だ。だが無視するわけにもいかず仕方なくマーガレットと向き合う。
「何でしょうか、そのように大声を出されて。周りの方々に迷惑ですよ。スカートを翻して走るのも淑女のとる行動ではありませんよ」
アリアベルは冷たく言い放つ。
「っ、すみません、アリアベル様!先日は申し訳ありませんでしたっ」
マーガレットはアリアベルの苦言を聞いていないのか、構わず大きな声で謝罪し頭を深く下げた。急なことでアリアベルは驚き目を丸くするが、すぐにまた冷たい声で返した。
「……その先日というのは、私とシリウス様とのことですか?」
「は、はい」
「でしたらもう終わったことですので結構ですよ。私もシリウス様のお言葉を受け入れ、国王陛下も承諾済みですから」
そう言って話を終わらせてその場を去ろうとしたがマーガレットはアリアベルの腕を掴み引き止めた。
「待ってくださいっ」
「っ!」
「あ、すっ、すみません…」
マーガレットはアリアベルの腕を放した。
「私、あの時殿下があんなにもお怒りになられている姿を初めてみたので……、怖くて何も言えなくなってしまったんです。ですがっ、どうしても殿下の誤解は解きたいんですっ」
「シリウス様はもう殿下ではありませんよ。私との婚約は解消されましたから。今更誤解を解いたところで」
「アリアベル様が何とおっしゃられても私は嫌です!」
マーガレットはアリアベルの言葉を遮って言い放った。
「これから卒業までまだまだ日があります。そんな残りの学院生活をお互い気まずい思いで過ごしたって、お二人共嫌な気持ちで終わるだけです! 私のせいでこんなことになってしまったことは承知しています。だからこそシリウス様には誤解を解いてもらい、お二人に誠心誠意、謝罪をさせていただきたいんですっ」
次第にマーガレットの目から涙が零れだす。マーガレットの強い気持ちと泣く姿にアリアベルは押される。それになにより周りの視線もある。これ以上は何を言っても無駄だと察し、諦めてマーガレットの話を聞き入れた。
マーガレットは教室に残ってもらっているというシリウスの元へ、アリアベルを引っ張って歩き出した。さっきから続く失礼な行動にも不満を抱きつつ足早にその場を移動した。
「……」
遠くで様子を伺っていたノアは不信感を抱いた。
(なんだ、この妙な感じは。シリウスといいあの女も……。人間の割には変な空気を纏っているな)
これから三人で集まるとなると警戒が強まる。
ノアはアリアベルの元まで、葉の中に身を隠しながら近寄る。木から木へと飛び移りながら徐々に距離が縮まっていく。
「!!」
ノアがぴたりと動きを止める。一瞬のことだった。
アリアベルとマーガレットの気配が消えた。
(どういうことだ……)
今まで二人が居た場所に駆けつけて辺りを見渡すが、二人の姿はどこにもなかった。
アリアベルはマーガレットに手を引かれるまま歩いていく。
「あの、マーガレット様っ。ちゃんと後をついていくのでそろそろ腕を話してくださいっ」
マーガレットは急いでいるのだろう、掴む手に力が入り痛みを感じる。だがアリアベルの言葉にマーガレットは返事をすることなくひたすら歩き続けていく。
もう一度声をかけようとした時、不意にマーガレットが口を開いた。
「そういえば。教授と話している時、アリアベル様のことを凄く褒められていましたよ。苦手な魔法学も努力を積んで頑張ってらっしゃるって」
「え? ……そうなんですか」
急な内容に素っ気ない返事をする。
「私、意外だなって思いました。何事においても優秀な成績を出されているのに。……魔法、苦手だったんですね」
妙な空気が漂う。アリアベルは様子のおかしいマーガレットに警戒する。
「マーガレット様……、手を離してくださいっ」
「きっとアリアベル様は気づいてらっしゃらないのね。霊力が強いせいで魔力が著しくなってしまったのでしょう」
アリアベルの警戒心が警報を鳴らし、危機感が全身を震わす。
「だって、こんなにも特別な力を秘めてる魂……。放っておけないもの」
マーガレットの声が低く鈍い音の混ざったものに変わる。
咄嗟にアリアベルはマーガレットの手を力一杯振り払った。後退りしてマーガレットを睨む。
「あなたっ、何者なの。マーガレット様ではないわねっ」
「ふふふ、少し緩めただけで気付けるんだもの。期待した通りだわ」
「何が望みなの。マーガレット様の体から出ていきなさい!」
アリアベルは強く言う。だがマーガレットに取り憑くものは不気味な笑みを浮かべている。
「私が欲しいのはね、この娘じゃなくお前の魂よ。お前が素直に差し出すならこの娘からはすぐに出てってあげる!!」
瞬く間にアリアベルに接近し首元に掴み掛ろうとする。
アリアベルは咄嗟に光魔法を放った。
「浄化の盾(スリアフォール)!」
「っく!!」
敵が怯んでいる隙にアリアベルは走って逃げる。光は数秒の間輝きを放ち魔物の動きを止める。外に出ようと玄関へ降りるために階段を下るが一階、一階、降りていっても一向に最下階に辿り着けない。
「どうなってるのよ!!」
混乱するアリアベルは再び廊下に戻り走る。恐怖で焦りが出てくる。必死にどうするべきかを考えながらとにかく敵から逃れようと走り続けた。教室の前を通り過ぎかけた時、扉が開き腕を掴まれ引き込まれた。
「っ!!」
恐怖のあまり叫びそうになる口元を手で覆われる。
「僕だっ! 落ち着けっ」
声を聞いた瞬間に体が凍る。
「え……、シリウス様?」
口元を塞いでいた手が離れる。助けてくれたのはシリウスだった。以前の事もあり、かなり気まずい空気ではあったが今はそれどころではない。
「なぜ、こんなところに……」
「メグに言われて教室で待ってたんだ。それでもなかなか戻ってこないし、探しに行こうと階段を下りてもずっと同じ階を行き来するばかりで様子が変なんだ。それで外に助けを呼ぼうとこの教室に入ったとき足音が聞こえたから」
罰の悪い顔でシリウスは言う。
「そうだったんですか。とにかくここから何とかして出る方法を見つけないと! マーガレット様も何かに取り憑かれていて大変なんです!!」
そう言ってアリアベルは窓の方向へ向かう。窓に手をかけて開いた。その瞬間、先程まで見えていた外の風景が何もない真っ白な世界に切り変わった。
「なに……、どうして? どうなってるの」
「アリア、とにかく冷静になるんだっ」
シリウスは冷や汗を流すがアリアベルを落ち着かせようと言葉をかける。だがアリアベルは落ち着くどころか恐怖が増していった。
「どこかに出口が絶対あるはずっ。別の場所を探してみましょう」
そう言って扉の方へ歩いていく。
「アリアベル、駄目じゃないか。アイツに気づかれるだろう? 大人しくしてないと……」
「え?」
耳のすぐ近くで聞こえるシリウスの言葉にアリアベルは振り返る。
そこには顔があった。シリウスではない顔が。
目はぽっかりと黒い穴が開き、口は耳元まで裂け、唇の端から赤黒い涎の様な液が垂れている。
「あっ……あぁ……」
恐怖は絶頂に達する。声が出ない。目の前の顔が口を開き、中からは花弁が悍ましく溢れて醜く咲き乱れる。花の中心には不揃いに並ぶ牙が鋭く光る。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」
恐怖が一気に弾ける。叫びと共に魔物は両腕をゴムのように伸ばし、アリアベルの体を捕らえ縛り付けた。
「っ!!っく、う……」
「だから大人しくしなさいって言ったでしょう」
言葉が響いて聞こえてくる。
「私達悪魔にとってはね、お前のような強い魂が欲しくて仕方ないの。それ一つで膨大な力を得られるんだもの」
ほくそ笑み、目を細くして、物欲しそうに見つめる。
アリアベルは締め付けられる苦しみで声が出ない。力が込められていき徐々に意識が薄れていく。
だがその時、大きな音と共に扉が破壊され体に感じていた痛みが引いていった。
そして次に感じたのは、体温。
目を開くと視界に入ったのはノアの顔だった。
ノアはアリアベルを地面に下ろし、悪魔の前に立つ。
「っく、こんなに早く気付かれるなんて」
敵はすでに腕を切り落とされている。深手を負っているようだ。ノアの腕は黒い鱗で覆われ、鋭利な爪には赤い液体が付いている。
ノアはその腕を素早く横に振ると、瞬く間に悪魔の体に大きな傷ができた。
「「ぎいやあああああぁぁぁぁぁっっっ!!」」
耳に突き刺さる叫び声。切られた衝撃で大量の血が噴き出す。
ノアは長く伸びた髪を掻き上げ悪魔を睨みつけた。
「うるさい」
ぼそりと呟く。そしてもう一度腕を振った。抵抗も虚しく更に切られた傷は抉れ、血ではない黒い煙が舞った。そしてすぐに悪魔の体は蒸発し消え去った。
それからノアは、アリアベルの元へ歩み寄り腰を下ろした。
「おい、大丈夫か」
アリアベルの体は未だ震えている。
「マ、マーガレット様と……、シリウスっ、様はっ。一体どうなってしまったの」
やっとの思いで言葉を紡ぐ。
マーガレットは時空の裂け目の付近で倒れているところを発見し、すでに外に助け出していた。シリウスはというと、姿こそはシリウスだったが正体は魔物がシリウスに化けていたものだった。
アリアベルはそれを聞き、マーガレットは救出済みという事に一先ず安心する。
「私たちは、ここから出られるの……?」
不安気に聞く。
「当たり前だ」
そう言い立ち上がる。そこでノアは何かが気になりアリアベルに手を伸ばした。段々と近づく顔。ノアの手がアリアベルの頬に軽く触れた。アリアベルは急なことで驚くが、それと同時に恥ずかしくなった。
「な、なに?」
「いや……。気のせいだった。何でもない」
(頬の血、怪我じゃなかったのか)
ノアは手を離し再び立ち上がる。アリアベルもすかさず立ち上がる。
「これ、何かしら」
アリアベルが地面に落ちている物を拾う。それは焦げた紙切れだった。
「そいつは身代わりだ。ただの魔物にしてもさっきの奴は弱すぎだ。そいつを送り込んだ張本人が別にいる」
ノアはアリアベルからそれを受け取る。紙をよく見ると赤色で模様が書かれている。
「これはっ」
「どうかしたの?」
アリアベルが聞く。
「……こいつは普通とは違ってなかなか面白い。とにかくここにはもう何もないだろう、さっさと出るぞ」
ノアは紙をポケットに入れ、その腕を前に出した。剝き出しになった爪で空を切った。すると目の前に亀裂が入った。ノアは亀裂に手を差し込み広げると、暗い空間がぽっかりと開いた。
「入れ、ここから出られる」
言われてアリアベルは穴の前に立つ。ここに入れば帰れる。ノアが言うのだから間違いはないのだろうが、さっきのことと言い未だ恐怖心が消えず動けないでいた。
足が震える。
「どうした?」
ノアが声をかける。その声でアリアベルは意を決し、無我で穴に飛び込んだ。
どうなるのかも分からず、落ちているのか宙を飛んでいるのかも分からない感覚に堪らず鞄に顔を埋めてきつく目を閉じた。
後から時空に入ったノアがアリアベルの元まで追い付く。ノアはアリアベルの肩を引き寄せ、アリアベルの体はノアの胸の中に納まった。アリアベルの頭がノアの胸元にあてられ、まるで抱き締められているような体勢に胸が高鳴る。
ノアの胸の内はひどく安心できて心地よく、アリアベルは自身がノアに対して特別な気持ちを持ってしまっていることを理解した。
辺りが明るくなって真っ白になる。
そして遠くから呼ばれているような微かな声が聞こえたと思うと、次にははっきりとしたノアの声が聞こえた。
「着いたぞ」
目を開くとそこは玄関前だった。ノアの姿はすでに戻っていて、二人はそのまま外に出て迎えに来ていた車に乗り込んだ。
ノアはすぐに寮へ向かう。事前に知らせを受けたダリアも急いでノアを追う。
「何があったんだ!」
「敵の正体がようやく掴めそうだ。会議室で詳しいことを話す」
アリアベルの元へベルタが荷物を受け取りに来た。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
アリアベルは頷くが、顔色が悪いことにベルタは不安になった。
「皆様なんだか険相になられてますが、お嬢様も……。ひどくお疲れのようですが、何かあったのですか?」
ベルタが言うようにアリアベルはかなりの疲労が溜まっていた。元の世界に戻るためノアに誘導されるまま時空に入ったが、人間であるアリアベルにはノアたちとは違い体への負荷が倍に掛かる。
「えぇ、今日はかなり体を動かしたから疲れたわね」
アリアベルは困り顔をしながらも笑いながら言った。最近のアリアベルはずっと暗い顔をしていた。今も無理をして笑みを見せているのだとベルタは感じる。
「でしたら疲労によく効く薬草茶をすぐにお持ちしますね」
「ありがとう」
(私にはお嬢様の悩みを解決することはできないわ。とにかくっ、少しでも何かできることを考えるのよ)
「ふう……」
アリアベルは机に並べていた教材と向き合っていた。
(もうこんな時間か)
時刻は日付の変わる数分前。
教材を片付けベッドに入った。
「はぁ」
溜息をつき、冴えた目を無理に閉じる。
何をやっていても上の空だった。昼間の出来事がどうしても頭の中で何度も映し出されるのだ。
考えないように深呼吸を繰り返していると、いつの間にか眠りについていた。
目を覚ました。
そこは真っ暗な世界で、ぼんやりと目が慣れてくる。辺りの見えない暗闇に、地面に薄く白色が続いている道に立っていた。
「ここは、どこ」
フラフラともたつく足取りで進んでいると、背後から音がした。
振り返ると何もない。気のせいかともう一度前を見た時、目の前にはあの悍ましい『顔』があった。
全身の血の気が引き声を上げようとした。だが声が思うように出ない。逃げようとしたが体にツタが絡んできて身動きができなくなっていく。
そのツタが、首元に触れた。
「いやああああっっ!!!!」
アリアベルは飛び起きた。ぜぇぜぇと息を切らしながら首元を触る。
確かに触れた感触が体を震わす。
「だ、誰かっ」
辺りを見る。そこは自分の部屋だが、暗いその空間がアリアベルの恐怖心を余計に刺激する。ベッドから出てカーテンの隙間から入る月明りを求めて窓を開けた。
バルコニーに出ると、夜風が優しく吹いていた。その夜風がアリアベルに少しの安心を感じさせる。落ち着こうと疲れ切った体を手すりに寄りかけ、腕をつき顔を埋めていた。
「こんな時間に何してる」
急に声をかけられた。アリアベルは驚きのあまり後ろに倒れそうになる。その手を咄嗟に掴まれなんとか転ばずに済んだ。
「ノ、ノア……」
月明りが淡くノアを照らす。
「何やってるんだ、お前は」
アリアベルはハッとする。
「あ、えっと。嫌な夢を見て……、眠れなくって」
ノアは小さく溜息をつく。
(昼間のあれのせいか)
「余計なことは考えるな。変な心配はいらないから早く部屋に戻って寝ろ」
「う、うん」
ノアにきっぱりと言われアリアベルは仕方なく部屋に向かう。ノアはそのまま下へ降りていき、アリアベルは再びベッドに向かう。
「……」
月明りのある夜がこんなにも暗く感じたことは無い。不安が残ってどうにも眠れそうにない。
アリアベルはベッドに戻らず、壁に背中を当て座り込んだ。疲労と精神的緊張の圧迫により不安定になりつつある。きつく目を閉じ顔を埋めた。
コンコン。
不意に窓を叩く音が聞こえた。
顔を上げると、そこにはノアが立っていた。アリアベルは疲れ切った虚ろな目でノアを見つめる。体と脳が反応できていなかった。
ノアは窓の前に手をかざし、閉められていた鍵を魔法で開け中に入った。
「ノア……?」
ノアはアリアベルの前まで来て腰を下ろす。目の前に来てアリアベルは少し困惑する。
「えっと、あの……」
「まじないをかけてやる」
「えっ」
ノアは唐突に言った。持って来た花を手の中で握り、よく擦ってからその手をアリアベルの目を覆うように添えた。
近づく手に体がびくりと反応するが、背後には壁が。間もなくノアの掌がアリアベルの顔に触れ緊張する。
「ゆっくり深呼吸しろ。深く、長く」
視界が消え、聴覚だけが研ぎ澄まされる。ノアの行動に対して動揺はあったが低く響くノアの声に、どこか心地良さを感じ言われるがままに従った。
深く息を吸い、長く吐く。次第に体の力も抜けていく。息を吐き終えるのと同時にノアはアリアベルの顔に添えた手に浅く、優しく、一吹きする。
蜜の甘い香り。
掌から感じる体温。
風の梵のようなノアの一吹き。
その一吹きに蜜の香りが乗り、頭から足先まで体を包む。まるで全身が大地の息吹に抱かれているような感覚だ。
心地良さに体がふわふわと軽くなるような感覚で意識が遠のいていく。
「あ……」
アリアベルは強烈な眠気に抗えずそのまま気を失った。
ノアの持って来たタゴラという花は、疲労回復効果のある蜜が特徴でニサの屋敷でも栽培されている。それにノアの魔力を混ぜたことで効果が最大に引き出されたようだ。
深い眠りに入ったアリアベルを抱きかかえ、ベッドに寝かせる。
人間は少し寝なかっただけですぐに体に悪影響が出る生き物だ。
ノアは不便なところに面倒さを感じつつも、これでアリアベルの体の状態も良くなるだろうとみた。
眠るアリアベルの顔を眺め、ノアは部屋を出た。
異世界奇譚Ⅰ 冷徹な竜に恋をしたのは悪と謳われた女王でした 雪村 亞麻斗 @ato-tachi
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