222:ニコラスの推察
少し時間を遡ること、医師ロジャーにソフィアの姑であるキャリーナことパトリクソン侯爵夫人に対して一芝居を売ってもらった、その日の夜のことだった。
パトリクソン家、寝室にて__
寝室のベッドにソフィアは昼間の状態のまま横になっていた。ニコラスはベッドの端に座り、
「容体はどうだい?」
「・・・もう知ってるくせに。」
今ソフィアがベッドにいるのは、一芝居の名残であることから、実際は具合が悪い訳でもないことをニコラスも知っていたからだ。
「はは、ごめんごめん。まぁさすがにもうこんな時間だから大丈夫だろ。」
「うん。」
そしてソフィアはニコラスに並んでベッドに座った。そして思い詰めた表情をしたかと思えば、話を切り出した。
「・・・あのねニコラス、聞いて欲しいことがあるの。」
ソフィアは、まるで教会で懺悔するかの如く、今までのセレスティアに対する仕打ちについて堰を切ったかのようにニコラスに吐露していた。それを時折相槌を打ちながら、ニコラスは聞いていた。
「・・・ソフィアはそれで、これからどうしたんだい?」
泣いて話をしているソフィアにニコラスは優しく問いかけた。
「あ、謝りたい!とにかくセレスティア姉さまに謝りたいの!」
「例えそれが自己満足だったとしてもかい?」
「!」
ニコラスに指摘されて気が付いたのだ。今更謝って何になるのか。ただ自分の気持ちを楽にするためだけの、独り善がりな謝罪ではないのかと。
「そうかもしれない・・・確かにやってしまった過去はもうどうしようもないもの。だけど、それでも今までのことちゃんと謝りたいの。」
ニコラスは、優しい眼差しをソフィアに向け、
「うん、僕もそれには賛成だよ。」
「本当に?!」
「あぁ。だけどセレスティア嬢は許してくれないかもしれない。それでもいいのかい?」
ソフィアは少しだけ考えた後、顔を上げ話し出した。
「・・・許してもらえるなんて、思っていないわ。私はそれでも謝りたい。それに今後は二度とあんなことはしないって意味も込めて。それも約束したいの。」
ソフィアの目に迷いはなかった。
「わかった。ソフィアの決意は固いようだね。それなら僕は応援するよ。」
「ありがとう!ニコラス、私ちゃんと謝るわ!」
ソフィアはニコラスに抱き着いた。ニコラスもソフィアの頭を撫でていた。
「あぁ、それに僕の見立てでは彼女はきっと・・・・」
ニコラスはなんとなくわかっていた。セレスティアとは結婚式の時にしか会ってはいないが、話に聞いた人物像のセレスティアならば、ソフィアが謝ればきっと許してくれる人だろうと。
「え?」
「いや、何でもない。とにかく一生懸命に謝っておいで。」
「はい!」
そして、それはニコラスの予想通りとなったのだ。
「ニコラス!ただいま!」
「ははっ、おかえり。ソフィアのその顔見たらわかるよ。お姉さんは許してくれたんだね。」
「そうなの!」
ソフィアはよほど嬉しかったのか、満面の笑顔になっていた。
「今すぐは難しいかもしれないけど、お母さまにも仲直りしてもらいたいわ。」
「そうだね・・・・」
しかしニコラスはソフィアの母ジョアンナについては、ソフィアとは同じようにはいかないだろうと思っていた。まだ小さい子供であったセレスティア嬢に辛辣に当たるなど、何か彼女にしかわからない思うところがあってのことだろうと、想像することができたからだ。
「そうだね。そうなるといいね。」
だが、これは今は言うまいと、ニコラスの心に留めておくことにしたのだ。いずれは言わなければいけないだろうが、それも近いうちに。だけど今はソフィアの笑顔を曇らせたくないと思ったのだ。
そして、間もなくソフィアは懐妊した。
※次回更新は5/30になります。
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