223:医師ロジャーの言えない告白

 私は医師ロジャー・アンカー。元々は男爵の出ではあったが、三男であることと、ある能力から自分の将来については、医師として生計を成り立たせることに決めていた。もちろん、その為に勉強は努力をした。


 そして、私には誰にも言えない能力があった。 

 子を宿すことができる女性と子を作ることができる男性かどうかがわかるのだ。その対象者を目視すれば、将来子ができるのか、できないのか、また妊娠中なのかがわかるのである。

 見え方は変わっていて、例えば妊娠する可能性がある場合には植物の種のようなものが見え、懐妊すれば芽がでているといった感じに対象者の下腹部あたりを意識すればそれが見ることができるのだ。子供ができない女性はその種が全く見えないといった、植物に例えた形で見ることができる。ちなみにこれは男性でも同じことがいえる。そう言うわけで妊娠の相談をされたときは夫婦を一緒に見ないと診断しかねるものだった。

 


 こんな自分の能力を不思議に思っていたのだが、この能力は神から与えられる『祝福』と呼ばれる加護なのだと後から知った。国だけではなく、アルス・アーツ大陸において、希少な能力だと聞いたのだ。


 『祝福』という能力は一律した能力ではなく、個々によって違うのだという。私のような能力もあれば、動物が何を言っているのかわかる者、人の心が読める者など『祝福』と一言でいってもその能力はバラバラなのだそうだ。


 そして、本来であれば『祝福』持ちは優遇されることがどの国でも決まっており、国から報奨金等が配布されるので、食うには困らないお金が懐に入るのだ。それだけの好待遇である『祝福』を持つ者は滅多といる存在ではない。100年に一人か二人という極めて希少な逸材なのだ。


 しかしこれらはあくまで『申告』と『実証』するしかその能力は認めてもらうことはできない。何故なら魔力とは関係のない能力であることから、目に見える形でないと検証の仕様がないからだ。


 そして私が『申告』しなかった理由は私の能力にあった。実は授かる命の性別も芽の色によってわかる。特に貴族社会では、跡取りが重要視される問題であることから、私の能力はある意味危険だと悟ったのだ。だから敢えて誰にも言わなかった。それならばひっそりと役立たせることにしようと思い、医師になることに決めたのだ。


 私のように『祝福』の加護内容によっては『申告』しない者がいることを考えると、実際は確認されているより何倍もいるのではないか、と私は推測している。


 

 そんな私が最近とても驚く出来事があった。


 私が以前、嫁姑問題に一躍買ったことを知った、話題の女竜騎士の姉妹と会う機会があったのだ。その姉のセレスティア嬢は妹君が姑問題で悩んでいるので、力を貸して欲しいというものだったのだ。勿論それについての協力はやぶさかではなかったのだが、ソレよりも驚いた。


 セレスティア嬢は確か独身のはずだが妊娠をしていたのだ。女竜騎士という彼女が妊娠しているだけでも驚いたのだが。その宿っている命が今まで見た妊婦のモノとはかけ離れていたのだ。こんなに強い生命力を感じたことはないほどに。


 『なんだ?こんなの初めて見た・・・・?』


 私はあまりに力の強さにうっかり彼女の下腹部を凝視してしまっていた。


 「あの・・・なにか?」


 「い、いえ、すみません。うっかり考え事をしてしまいました。」


 「そうなんですね。」


 独身女性でも妊娠している場合はあるので、それについての違和感はないのだが、今まで見た誰よりも突出した眩しい光の芽に驚いた。本当にアレは何だったのか?性別さえもわからないのは初めてだった。

 だが、詮索することはしまい。こういったことに深入りしてはいけないのだ。安易に深入りするものではないと、私の経験から言えることなのである。




 そして決行の日、どこの姑も同じなのか、仮病ではあるものの、一応寝込んでいるレディソフィアに、姑であるパトリクソン侯爵夫人は気遣うことなく、聞くにも堪えない嫌味を連発していたのだ。ほぼ前回と同じように、私が辛辣な言葉を放つとパトリクソン侯爵夫人は、口をパクパクしていた。どうしてこの手のタイプの方は同じようなリアクションになるのか。私は笑いたくなるのを必死で堪えていた。


 そして実は私は嘘は言ってはいない。実際ストレスがあると、妊娠しにくい事例を私はこの目で見てきたのだから。だから私は自信を持って強気に出られるところもあるのだ。


 恐らく、このパトリクソン侯爵夫人の嫁いびりがなくなれば、レディソフィアが妊娠することが、私にはこの時見えていた。彼女がパトリクソン侯爵夫人のいびりによって、萎縮してしまい、せっかくの芽がなかなか発芽できないでいることに。それがなくなれば、やがて発芽し芽はでるであろうと。近い将来そうなるであろうソフィア夫妻に私は言った。


 「もう一つの憂いはきっと近い将来解決しますよ」と。


 レディソフィアから、パトリクソン侯爵夫人から言われるまでもなく、お子がなかなか宿らないことについては、かなり気にしていることも聞いていたからだ。

 




 そして、私の目視の通り、レディソフィアは妊娠された。


 今後も陰ながら自分の能力が、世に役立てればと思っている。





※『祝福』については、『夜は大人の時間~呪われた王女は真の愛を掴めるか?~』 というお話にも少し関連していますーちなみにこちらは完結しています。もし読む気になったらで結構なので、読んでくださると嬉しいですー|ω・)

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