208:『竜の祖』の妊娠事情~前編~
セレスティアの休日の昼下がりに、イシュタル・アンティエル・ラーファイルがセレスティアの家に訪ねてきた。『竜の祖』の妊娠について教えてもらうためだ。そして、テラスに案内した。
「セレスティア、その後はどう?体に変調はあったかしら?」
イシュタルは言いながらセレスティアのいれたお茶を飲んでいた。
「言われた通り、今までと変わりなく日常をこなしていますよ。だけど特に変わった様子はあれからなく、自分が妊婦だという実感はわきませんけどね。」
あれから、というのは、イリスの攻撃を交わす際に聞こえた声のことだ。
「ふふ、それでいいのよ。それに妊娠期間は人間の十月十日ってわけでもないからね」
ん?とセレスティアは思った。今ものすごく聞き捨てならないことが聞こえたのではないかと。
「イシュタルさん、今十月十日じゃないって聞こえたんですけど、どういう意味ですか?」
「そうそう、それをちゃんと説明しないとだものね。」
イシュタルは飲んでいたお茶をテーブルに置いた。まずはアンティエルが切り出した。
「セレスティア、我々『竜の祖』は子供ができにくいというのは知っておるかや?」
「あ、はい。それは聞きました。」
カイエルから、『竜の祖』は妊娠しにくいというのは聞いていたが、カイエルも子ができたのは初めてだったことから、詳しいことはわからないということで、セレスティアも今日の話を楽しみにしていたのだ。ちなみにカイエルは黙って話を聞いている。
「うむ、妾も子を産んだことはあるが、二回じゃ。イシュタルも二回だったかの?」
「えぇ、私もそうよ。ラーファイルは1回よね?」
「そう、僕は1回だね。」
セレスティアはどういう意味かと一瞬悩んだが、ラーファイルは性別の事情が異なることを思い出した。(そういえば、ラーファイルさんは男でもあり女でもあったんだったわ。
「まずね、子ができにくい原因は竜精にあるのよ。」
「竜精が?」
「ええ、私達と交わることで、身体的に向上するのは、知っているわね?それだけ影響力のある竜精が強力だけあって、それは番にとって妊娠の妨げになるものなのよ。」
「え?どういう意味ですか?」
「つまり竜精が強力だから受精がしにくいのよ。番が女性であった場合は、卵子が耐えられないの。」
「あぁ!」
セレスティアはやっと意味がわかった。
「そういうことよ。逆もまた然りでね。私達のように番が男性だった場合には、精子が卵管まで辿り着くのが人の種族よりも、さらに難しいものになるの。だからなかなか妊娠しないのね。」
「そんなに確率の低いことだったんですね。」
自分が望んでいなかったといえ、セレスティアは子を宿したことが奇跡的なことに感謝していた。
「そうよ、だからセレスティア、貴方のように初めてで妊娠するなんて、今まで初めてのことなのよ!ほんっとーにすごいことなのよ!」
イシュタルは興奮気味に話していた。だが、初めてという言葉にセレスティアは赤面していた。
「うむ、ほんに目出度いことじゃ。」
アンティエルはうんうんと頷いていた。
「でも、普通に動いていいっていうのは?」
一番聞きたかったこちを、セレスティアは聞いてみた。
「そうね、妊娠は確かにできにくいけれども、妊娠したら話は変わってくるのよ。」
「どういう言意味ですか?」
「加護がつくのじゃ。」
「加護?」
「実際聞いたって言ってたでしょ?あれはセレスティアのお腹の子の声なのよ。」
「え?!もう話せるんですか?!」
さすがにセレスティアは驚いていた。
「クフフフフ、違うよーそういう意味じゃないよ。」
ラーファイルは笑いながら、説明した。
「受胎した子にはね、防衛反応があるんだよ。」
「防衛反応?」
「自分を宿した母体を守らんとする、防衛本能みたいなものかな?ようは母親の身に危険が及べば、自動的に反撃というか防御するんだよ。だから今のセレスティアはある意味無敵なんだよね。」
「え?もしかして私赤ちゃんに守られているの?」
「うん、そういうこと。だから出産までは、余程の事がない限りは大丈夫だよ。今のところは動きを制限されることもないしね。」
セレスティアは驚いた。何か不思議な力があの時に動いていたのはわかってはいたが、それが今になってやっと理解することができたからだ。
「そっか・・・私とカイエルの子が・・・」
セレスティアはそれを聞いて、お腹に手を当てた。
「あ、それとね。妊娠期間なんだけど・・・」
「さっき十月十日じゃないって言ってましたね?」
言われてみれば、確かに『竜の祖』の血が入った子供だ。普通の妊娠期間ではないと思い、セレスティアは身構えた。
「7年なのよ。」
「へぇー7年。」
・・・・んっ7年?セレスティアは一瞬間が空き、聞き間違いかと思ったが、
「そうよ。7年」
イシュタルはニッコリと笑顔でもう一度言った。
やはり聞き間違いではなかった。それを理解したセレスティアは、
「えーーーーっ!!!」
絶叫せずにはいられなかった。
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