202:イリスの出生
「お前に・・・」
イリスが握る拳には力が入りすぎて、ぶるぶると震えていた。
「お前に何が分かる!!」
イリスは怒りを顕わにし、結界の内側から結界の壁を拳で叩いた。
「知ったような口を聞きやがって!!俺が、俺が今までどんな目にあったなど、わかる訳がないだろうがっ!!」
イリスは思い出していた。自身が幼い時に迫害を受けていたあの頃を_____
イリスはそもそも生まれが異端であった。魔人とエルフの子であったからだ。
魔人は男だけの種族だ。子を成すには他の種族との交配となるのだが、生まれてくる子は必ず黒髪と赤い瞳の男子だと決まっているのだ。一方のエルフだが、エルフと一口に言っても、ハイエルフ・ダークエルフ・ウッドエルフなど種族は少数ながらも多様にあったのだ。また同じエルフといっても種族が違えば、それは別種族となるので、仲間意識はあくまで同じ種族にのみ向けられるものだった。そして仲間の絆が強いエルフは他の種族との交流を進んで行うことはしなかった。住処もひっそりと森の奥や地下だったりと、人の目に付きにくい場所を好んで生活していた。その為、婚姻も同じ種族間で行うのが、彼らの当たり前だったのだ。それゆえ、仲間意識の強いエルフは稀に他の種族と交配の末の混血児に関しては、受け入れがたいものとして、疎まれ苛まれるのが常であった。
イリスは、本来であれば生まれるはずのないハイエルフの水色の髪と魔人の赤い瞳を持った色彩で生まれてきたのである。魔人としては髪は黒ではなく、ハイエルフとしては耳は尖っていなかった。
そして当然のように、魔人の中でもハイエルフの中でも、その容貌は受け入れられることはなかった。イリスは物心つく頃には、母の生まれであるハイエルフの村に住んでいた。
「なんだよこいつ!耳も尖ってないし、目は赤いし、気味悪りーの!」
「なんでお前ここにいるんだよ!さっさと出て行けよ!」
「本当に気持ち悪い、まるで血を思わせるような赤い目だ。こんな子が私達の間で生まれるなんて一族の恥だわ!」
「よりによって、闇に近い魔人となどと・・・我らハイエルフの面汚しめ!」
「お前の母さん、魔人とだなんて恥知らず!」
「忌み子め!!汚らわしい!」
出生の経緯などイリスはどうしようもない。ただ父と母との間に生まれただけのこと。イリスはそこに存在しているだけで、ずっと虐げられていたのだ。時には罵声であったり、不当な暴力だったりと、謂れのない虐待を受ける辛い日々を送っていたのだ。
イリスは幼少期のことを思い出し、ユージィンを憎々し気に睨みつけていた。だがそんな視線をむけられたユージィンは、また大きく溜息をついた。
「・・・君さぁ・・・バカなの?」
「なにぃ?!」
ユージィンはやれやれといった仕草をして、言葉を続けた。
「当たり前だろ?僕は君じゃないんだからわかる訳ないじゃないか。」
ユージィンは何を言ってるのだと、呆れていた。
「何だと?!」
イリスの憎しみのこもった目に、少し動揺が混じった。
「大体ね、君だけに言えることじゃないけど、なんで自分が辛い目にあったからって、他の関係ない人まで巻き込むのかな?だったら自分を迫害した人だけにやり返せばいいだろ?さっきも言ったけど、無駄にスケールがでかくなってさ。手間もかかるだろうし、当事者だけの方がよっぽど楽だと思うけどね。」
それを聞いていたセレスティアは、ユージィンの後ろでその通りだと言わんばかりにウンウンと頷いていた。
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