199:ヒルダの生い立ち~中編~

 「私が14歳になった頃です。母は、相変わらず碌でもない男と付き合っていましたが、その男は特に最悪でした。先程お伝えしたように、私は他のことで、身を立てることにしていました。ですがその男は私を母と同じ仕事を強要したのです!」


 憂いを帯びた表情をしていたヒルダが初めて怒りの表情が垣間見えた瞬間だった。

 

 「私は当然断りました・・・が・・・だけど・・・無理やり・・娼婦をすることに・・・」


 「「「「「「!!!」」」」」」


 ヒルダは嗚咽を含み言い淀んではいたが、その場にいたものは、ヒルダの様子で何が起こったのか察することはできた。(ひどい!)セレスティアはヒルダへの同情とやり場のない憤りを感じていた。そしてハインツはこの時、やはりと思った。自分の前世を見せたのは、同じ痛みを経験した者だったのだろうと推察していたことが明確になったからだ。


 「ごめんなさい。取り乱しました。・・・私はその男が言うがままにそこから私も客を無理やりとることになってしまったのです。」

 

 「・・・逃げ出そうとはしなかったんですか?」


 エメリーネは、悲しそうな顔をしてはいたが、疑問に思ったことを口にした。


 「思いました。だけど当時は・・・母を見捨てることはできなかったんですよ。今思えば馬鹿だったと思います。」


 ヒルダの自虐的な言葉の意味は、その続きにあった。






 「ふふ、しかしあいつもバカだよなぁ。」


 ヒルダの母親フランカと、その男クヌートの二人は部屋でお酒を飲んでいた。


 「何がだい?」


 「お前の娘のヒルダだよ。」


 「あぁ、今更だろ?」


 「まぁそうだけどよ。まさか母親の泣き落としが、演技だと知ったらショックだろうな~」


 クヌートはそう言いながらも下卑た笑いでお酒を飲んでいた。


 「ちょいと演技だなんて、失礼な!!」


 「違わねぇだろ?」


 「何いってんだい!実際お金には困ってたじゃないか!まぁ、多少多めには借金額は盛っちゃったけどさ、だけどね?実際あの子を育てるのにあたいは、苦労したんだ!それ相応のお返しはしてもらって当然だろ?あたいだって楽したいんだよ!」


 「だからって娘にまで娼婦させるなんてなぁ。」


 「はん!悔しいけどね、こういう世界は若い女の方が客が付きやすいんだ!せっかくの稼ぎ時を、他の安い賃金の仕事で働いてどうすんだよ、勿体ないだろ?!それにあんただっておこぼれあずかっていたくせに、よく言うよ!」


 「がっはっはっはっはっ、ちげぇねぇ!」


 二人は酔いからか、ヒルダが家に帰宅したことに気が付かず、ベラベラとあざ笑いながら真相を話していたのだ。


 

 え?何?私は何を聞いているの?

 私が今聞いたのは、何だったの?

 だってお母さんは、私を育てるのにお金がいっぱい使ったって・・・

 それで借金したって・・・

 それで借金の取り立てがくるからって・・・

 だからてっとり早く稼げるのに娼婦になれって、あの男に言われて・・・

 私は違う仕事で稼ぐからって何度も言ったのに聞いてくれなくて・・・

 母さんは私に泣いてお願いしてたよね?「ごめんねごめんね苦労かける」って・・・

 あれは・・・演技?じゃぁ全部・・・嘘?


 「そ・・んな・・・」  


 ヒルダは絶望した。まさか母が無理やりではなく、むしろ率先して、自分に娼婦をさせていたことに。そしてあざ笑っていたことに。自分の今までの我慢と苦労は何だったのだろうと、絶望したのだ。

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