197:収束へ
イリスは己の体の腹部に手を突き刺し、腹の中から先程飲んだ力の結晶の玉を取り出した。力を使った分だったのか、玉は先程より少し小さくなっていた。そして、取り出してからは、イリスの変化した姿は一部を除き元の状態に戻っていった。自傷したイリスは血だらけになり、そしてディアナの治癒魔法で何とかイリスは持ち直した。しかしその一連の流れはイリスの精力をかなり奪ってしまい、イリスの髪の色は真っ白になってしまっていた。
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
「良かったわね。その程度ですんで。もう少し遅かったら完全に自滅していたところよ。」
そう言いながらイシュタルはイリスが取り出した玉を拾った。
「本当に、一応考えての事だったと思うけど、これに懲りたら二度と『魔王の欠片』に手は出さないことね。」
「・・・く・・・そっ!」
イリスは真っ白な髪になってしまったが、赤い目でイシュタルを睨みつけていた。しかしそれも一瞬のことで、イリスはイシュタルの視界から消えた。
「あら?」
「グブッ!!!」
ドガッ!!
イリスはヴェリエルに渾身一撃をくらい、洞窟の壁まで飛ばされ激突していた。
「い、イリス様ーーー!!!」
慌ててディアナはイリスの元に駆け付けた。ヴェリエルは憎しみの目で、殴り飛ばしたイリスを見つめ言い放った。
「本当はお前を八つ裂きにしてやりたいところだが・・・・」
そこまで言うと、ヴェリエルは一瞬ヒルダを見たが、ヒルダは首を横に振った。
「腸が煮えくり返る思いだが、せめて一発は食らわせないと、俺の溜飲が下がらないのでな。これ以上は勘弁してやる。俺の番に感謝するのだな。」
ヴェリエルの番、ヒルダは目を覚ましていた。そして今にも飛び出しかねない怒り狂っていたヴェリエルを宥めていたのだ。そしてヒルダの瞳は桃色ではなく、新緑を思わせる鮮やかな緑色の瞳に戻っていた。
「ヴェリエル・・・ごめんね。」
イリスとディアナは別々に今度は念のためと、カイエルだけではなく『竜の祖』達全員の力を集結させより強固な結界で閉じ込められた。そして今回のあらましが、ヒルダの口から語られることになった。
「皆様、本当にごめんなさい。いえ、謝って許されないこともわかっています。だけど、それでも、謝罪させてください。」
ヒルダは過剰な龍脈の力と『闇』が体から抜けたせいで本来の自分を取り戻していた。元来は尊大な態度をとる性格ではなかったようで、むしろ礼儀正しい女性であった。ただ今までいろいろと負荷がかかっていた影響で疲れが見えていた。
「俺からも謝罪しよう。皆迷惑をかけてすまなかった。」
「本当に本当にすみませんでした!」
ヴェリエルもヒルダに習い、二人揃って皆の前で頭を下げていた。
「さて、二人共疲れてるところ悪いけど・・・そもそもどうしてこんな騒動になったのか教えてもらえるかな?」
ユージィンは皆が疑問に思っていたことを口にした。
「それは・・・」
ヒルダは少し言い淀んでいたが、そこにハインツは口を挟んだ。
「団長、それは後で僕が・・・」
と、言いかけたが、ヒルダは心を決したように、目を真っ直ぐと向け、
「いえ、ハインツさん。ちゃんと自分の口から言います。気遣ってくれてありがとう。」
ヒルダは儚げにハインツに微笑んだ。
「ヒルダさん・・・・」
「有耶無耶にしていい話では勿論ありませんから・・・上手くお伝えできるかわかりませんが、お話します。」
ヒルダは事のあらましを説明しはじめた。
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