196:力の代償

 「くぅ、なかなかしんどいね?」


 ラーファイルは結界を展開し張り続けるのに少し疲れはしていたが、表情は余裕であった。それはこの後どうなるのか、カイエルの言葉から『竜の祖』達にはわかっていたからだ。アンティエルはイリスを見据え、警告した。


 「お主・・・イリスとやらか。それ以上力を使うのはやめるのじゃ。」


 「ははは、今更懇願しようっていうのか?竜の長よ?」


 イリスは、アンティエルの警告を、警告とは思わずむしろ自分の力に恐れをなしたのだと勘違いしていた。


 「思い違いをするでない。お主の為に言っておるのじゃ。先程カイエルも忠告したであろう?」


 「はっ何をほざいてやがる?!実際お前らの結界は弱まってきているだろ?!そうだな・・・俺に仕えるなら考えてやってもいいんだぞ?」


 闇の力は他の火・風・土・水よりも強いため、イシュタルらの結界は闇の攻撃の前に結界は段々と小さくなっていたが、アンティエルとカイエルの結界は少し小さくなっている程度に留まっていた。アンティエルは闇と相対する聖なる光の力を司る為、闇に対して抵抗力が強く、カイエルは闇であり同種の力であることから、他の属性とは結界の防御値が違っていたのである。しかしイリスはそこまで注意が至らず気が付いていなかった。そして、アンティエルやカイエルが言っていたことはすぐ現実となった。


 ピシッ


 「なに・・・?」


 突如、イリスの腕にひび割れが入ったのだ。 


 「あーあ、だからわざわざ言ってやったのに。」


 カイエルはイリスの様子に言わんこっちゃないという態度であった。 


 「な、なんだこれは?!」


 イリスの腕に入ったひび割れはピシピシッと音を立てて次第に増えていった。 


 「・・・元々魔王の力である『魔王の欠片』はお主の力ではないからの。それ故に力を使いこなすにはお前が持っていた生命エネルギーをいわば寿命を削っておっただけの話じゃ。それが枯渇すれば、当然力を制御することはできん。後は・・・」


 「ば、ばかな!俺は・・・寿命だって長いはず?!」


イリスは目に見えて焦っていた。慌てて力の放出をやめ、腕のヒビを何とかしようと足掻いていた。しかし、ひびは腕だけに留まらず全身に広がっていったのだ。


 「そうじゃの、お主は長寿のエルフと魔人のハーフだからの。通常の人族に比べて寿命ははるかに長かったのであろう。だがのぉ、それを持ってしてでも竜の『魔王の欠片』を本来持つ者ではないものが使うとそういうことになるのじゃ。それくらい危険な物であったのに・・・過信しすぎたようじゃの。」


 「「「「「エ、エルフ?」」」」」


 セレスティアを初め、アンティエルの口からでた『エルフ』という単語に驚いていた。『エルフ』は、ただでさえ希少種である『魔女』や『魔人』よりもさらに珍しい人種で、もはや絶滅危惧種であると言われていたからだ。


 「へぇ~アン姉さすが、よくわかったね。ハーフはわかったけど、僕組み合わせはわからなかったよ。」


 ラーファイルは感心していたが、アンティエルの次の言葉で納得した。


 「うむ、たまたまじゃが、あやつの属性は光だったのでな。それでわかったのじゃ。」


 「あぁ、だから姉さんさっきあの男をジッと見つめてたのね。」

 「なるほどなぁ。俺はさっぱりわからなかったぜ。」


 イシュタルもダンフィールも姉アンティエルに感心していた。


 「バカなバカな!!!!」


 「い、イリス様?!」


 その間にも、イリスの身体は力を放出していた腕からヒビがどんどんと広がっていき、ディアナはイリスを何とかしたいと思うもどうすればいいのか手立てがさっぱりわからず、狼狽えていた。 


 「くっ・・・そ!!」


 イリスはこの原因が『魔王の欠片』が原因であるなら、それを取り除かねば自身の身体が手遅れになると瞬時に判断したのだ。


 「ディアナ・・・今から玉を取り出す。だから、すぐに治癒魔法をかけてくれ。」


 「え?」


 イリスは飲み込んでしまった玉を取り出すのに、やむを得ず、自身の体の腹部に己の手を突き刺した。

 

 「い、イリス様――!!!」




※次回更新は4/18になります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る