186:ヒルダの暴走~前編~
一行は『竜の祭壇』の傍にあるヒルダを閉じ込めた洞窟に到着した。
『竜の祭壇』は元々飛竜が降り立つ神聖な場所として扱われているため住宅地から離れた場所にある。捕り物騒動が起こったものの、民間人の被害がなかったことが幸いであった。
「アン!」
フェルディナントは到着した一行の中からアンティルを見かけて駆け寄ってきた。
「そっちは大丈夫だったのかい?」
フェルディナントはテル・ホルストに向かったアンティエルの安否を気にはしていたが、アンティエルの元気そうな姿を見て杞憂だったと秘かに胸をなでおろしていた。
「うむ、最悪な事態はギリ避けられたの。まぁ多少のおいたは・・・仕方あるまいな。」
「多少のおいた?」
フェルディナントは何のことかよくわからなかったが、アンティエルはヴェリエルがユージィンにこっぴどくやられたことを遠まわしに言っていたのだ。その場にいたテル・ホルストから来た者は全員わかっていた。
「キルンベルガー公爵この度は急なことで駆り出してしまい、申し訳ない。」
ユージィンはフェルディナントに頭を下げたが、それを制止し首を横に振った。
「いや、謝らないでくれ。さすがに魔王降臨という重大かつ急を要する事案だからね。元王子が動かないわけにいかないし、むしろ動いて当然のことだ。それに僕も『竜の祖』の番だからね、気にしないでくれ。それよりも強行軍となってしまってすまないな。」
「いえ、移動は『竜の祖』に乗ってきていましたからね、お陰様で体力は温存できていますよ。」
ユージィンは暗にいつでも動けますよ、ということを含ませていた。
「それで、ヴェリエルの番は?」
「あぁ、こちらにある洞窟ですよ。付いて来てください。」
一行は、ヒルダが洞窟ごと結界で閉じ込められているヒルダの元へ向かった。
周りは岩肌がむき出しになっていた洞窟で、入口は結界で半透明になって向こうは透けて見えていた。豪奢な緩いウェーブかかった金髪の女性が中にいる姿を確認することができた。
ユージィンによって腹に風穴を開けられたヴェリエルであったが、竜穴の治癒の効力により、短い時間であったため完治とまではいかなかったが、ほとんど傷は塞がっていた。そして、ヴェリエルはよろよろと自分の番が閉じ込められている結界の近くまで行った。
「ヒルダ・・・」
「ヴェリエル!!」
ヒルダはヴェリエルに気が付いて、すぐさま結界の近くまできた。二人は結界を隔てたところで面と向かう形になっていた。
「ヴェルエル!ひどいのよ、こいつらが私をこんなところに・・・・?!」
ヒルダはよくよく周りの状況を見ておかしいことに気が付いた。本来であればヴェルエルは自分の味方で、他の者は敵であるはずなのに、ヴェリエルの周りには殺伐とした雰囲気がなかったからだ。
「・・・どういうこと?何故こいつらと一緒にいるの・・・まさか?!私を裏切ったの?!!」
「違う。俺は君を裏切ったりしない!」
「嘘だ!でなければ、なぜ安穏としていられる!ドラゴンスレイヤーのマスターは、ヴェリエルには危険だと言ったのに、それでも自分が行くと言ったのは・・・!もしや私を油断させるためだったの?!!」
ヒルダは憤慨していた。ヒルダがそう思うのは無理からぬことで、この場ではヒルダとヴェリエル、そしてカイエルの結界に閉じ込められているイリスを除けば周りは敵だらけのはずであったからだ。
「違うんだヒルダ!話を聞いてほしい!」
「・・・番なのに・・・」
ヴェリエルは何とかヒルダを落ち着かせようと話かけるも、ヒルダは興奮状態に陥っていた。
「番なのに番なのに!!私はお前の番なのにぃ!!!我を裏切るなんて許せないいいい!!!」
ヒルダは取り乱し、怒りの形相となっていた。体からは異様な黒いオーラが滲み出ていた。すると結界からミシっと音が聞こえた。
「!!不味い結界が壊れっちまう!!」
結界を作った一人であるダンフィールが叫んだ。そして瞬時に『竜の祖』達は自分の番を守った。
パァアアアアアン!!!
ヒルダは負の感情のエネルギーを使って結界を破壊してしまった。
その場に立ち尽くしていたヒルダはヴェリエルに裏切られたと思ったことで、絶望していた。そして瞳は桃色だったものが赤くなってきていた。
「ふむ、これはまずいのぉ。魔王化の兆候が濃くなってしまったの。」
アンティエルはヒルダの瞳が桃色から赤色に変わったことで危険であるとわかったのだ。
「姉貴、何呑気に分析してるんだよ!やべぇだろ!」
ダンフィールは結界を作ったのが自身も関わっていたことから焦っていた。
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