171:黒金剛石の竜カイエルの復活

 古より『竜の祖』達は、呼び名にそれぞれの色にちなんだ宝石類の名を冠して称されていた。


 白金の竜 聖なる力を司るアンティエル

 翠玉の竜 風の力を司るラーファイル

 紅玉の竜 火の力を司るイシュタル

 青玉の竜 水の力を司るヴェリエル

 琥珀の竜 土の力を司るダンフィール

 黒金剛石の竜 闇の力を司るカイエル


 ちなみに、イシュタルであるイールは飛竜に擬態していた時から他の飛竜にはない、その赤い鮮やかな鱗から『竜の祖』の火を司る『紅玉の竜』を連想させることから『紅玉の飛竜』と呼ばれていた。だが結局のところ、元から本人であったというのは余談である。


 そしてカイエルが数ある黒色の宝石の中で、本来なら無色である金剛石の名を冠しているのには理由があった。


 「なっ?!!」 

 

 イリスは驚愕し、カイエルは不敵に笑っていた。


 「悪りぃけど今の俺ではお前の攻撃なんざ効かねぇんだよ。」  


 カイエルがわざと結界を無くし、天雷弓から放った弓矢が、竜化しているカイエルの腕に当たったが傷をつけることは適わなかったのだ。

  

 「バカな?!天雷弓の弓矢は、固い『竜の祖』の鱗でも傷をつけられるはずだ?!」


 イリスは驚いていた。ドラゴンスレイヤーと匹敵する天雷弓を持って攻撃しているのに、カイエルには効かなかったのだ。むしろ矢は弾かれていた。


 「黒金剛石の名は伊達じゃねぇ!俺は姉弟の中で、一番強度の高い鱗持ちなんでな。そんなもので、俺を貫くなんざできねぇんだよ!!」


 飛竜であった頃のカイエルであれば伝説の武器と言われるドラゴンスレイヤーや天雷弓で、傷どころか致命傷を負わせることも可能だったかもしれないが、今のカイエルは本来の『竜の祖』に戻ったことで、伝説の武器による死角はなくなったのだ。


 (まさかこのタイミングで黒の竜が復活するとは!)


 今まで割と飄々としていたイリスも、珍しくかなり焦っていた。黒の竜が封印されていたことは、以前からイリスも知ってはいたが、まさかこのタイミングで封印が解除されるとは思っていなかったのである。これには、500年の年月が経っていたことである誤解が生まれていたからであった。

 





 「どうですか?イシュタルさん?」


 セレスティアとイシュタルは、龍穴の場所に戻っていた。


 「ありがとう。ここが龍穴だったことが幸いしたわ。」 


 龍穴は竜にとって、癒しのスポットであることから、イシュタルはヴェリエルやイリスから受けた傷を癒すことができたのである。


 「・・・凄いですね。こんな一瞬で傷が治っていくなんて・・・」


傷だらけであったイシュタルの傷は、龍穴のエネルギに―当てられ、金色の粒子のようなものがイシュタルの身体にまとわりつき、見る見るうちに傷を治していった。


 「さてと、身体は治ったことだし、やっちゃおうかな。」


 イシュタルはそう言うと、紫水晶の隣に立った。


 遠目ながらそれに気が付いたイリスではあったが、カイエルによって紫水晶から離れた場所に誘導されてしまったことと、カイエルの猛攻からイリスは戻ることは適わなかった。


 「くそっ!(このままでは結界を破壊されてしまう!)」


 珍しく、彼にしては悪態を付いていた。




  

 パァアアアアン!!

弾かれた音と共に、紫水晶の周りにあった結界はイシュタルによって瞬時に破壊された。 


 「セレスティア、結界を破壊したから、あとは貴方がそこにある紫水晶を破壊して頂戴。2回目ならやり方はわかるでしょ?」

 

 「えぇ、それはできますけど、イシュタルさんは?」 


 「ユージィンとヴェリエルのところに。」


 「ヴェリエル・・は、カイエルのお兄さんでイシュタルさんの弟でしたよね?」


 「そうよ。早くいかないと、ユージィンに半殺しどころか、本当に殺されちゃうわ。だから止めないとね。」


 そういうと、イシュタルはウインクした。こんな事態を招いたヴェリエルとはいえ、イシュタルが放っておけないことに、セレスティアは自分の知らない事情があるのだろうと察した。


 「わかりました。こちらは任せて行ってください!」


 「お願いね!」


 そういってセレスティアは、竜に変身して飛び立ったイシュタルを見送った。


 「さて・・・と・・・」 


 セレスティアは颯爽と剣を抜き、破壊すべく紫水晶と向き合った。

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