166:紫水晶

 『あったわ!!』


 イシュタルはついに龍穴を見つけた。その場所は港町テル・ホルストのさらに東にある、海辺にそびえ立つ崖の上にソレはあった。イシュタルは人の身体に戻り、龍穴の傍にしゃがみこんだ。岩に隠れてはいたが、そこには膨大なエネルギーがあるのはわかった。だが、何かに吸収されているのか、エネルギーの流れが滞っていることも同時に分かったのだ。


 (なるほどね、この水晶に龍脈のエネルギーを集めていたのね。)


 岩陰にあった龍穴の傍には、紫色の水晶が地中に埋まっていた。イシュタルは、これが龍穴のたまったエネルギーを吸収している元凶だとすぐにわかった。すぐに取り出そうとしたが、イシュタルが手を伸ばした瞬間、


 「痛っ!」


 紫水晶に触れようとしたが、イシュタルは見えない何かに弾かれた。


 「・・・そうよね、結界くらい張ってあるわよね。私としたことが不用心だったわ。」


 イシュタルが言うように、紫水晶の周りには結界があったのだ。イシュタルは水晶を凝視していた。


 (ん?これ・・・どこかにエネルギーを送っている?)


 紫水晶が、エネルギーを吸収しているだけでなく、どこかにそのエネルギーが転送されていることに気が付いた。

   

 「・・・これは、ここで破壊してしまった方がいいようね。」


すると、頭部には角が生え、背中には翼、腕には赤い鱗と鋭い爪を携えていた。人の姿のまま、上半身の一部を竜化させるハーフチェンジをし、手に魔力を込めていた。


 (龍穴のエネルギーを使って魔王化の促進を図ろうとしていたのね・・・)


 ユージィンと同じく、イシュタルもヴェリエル達の目論見に気が付いた。

 

 (ヴェリエル・・・貴方は本来こんなことを望む子ではなかったはず。一体何が・・・)


 イシュタルがそんなことを考えながら、紫水晶を破壊するべく魔力を放出しようとした、その時に、


 バシュ!!!


 「あぁああっ!!」


イシュタルの右腕の肩が後ろから何かに射貫かれたのだ。

  

 「危なかったなー。困るんだよねぇ。せっかく溜めているのに、破壊されると。間に合って良かったよ」


 苦痛を伴いながら、イシュタルが後ろを振り向くと、少し離れたところに、天雷弓を構えたイリスが微笑んで立っていた。

    

 「イ・・リス!!」


 イシュタルは憎々し気にイリスを睨みつけていた。


 「せっかくの美人さんなのに、そんな怖い顔したら勿体ないですよ?まぁ、美人は何しても美人なのは変わりはしませんがね?」

 

 イリスはそう言いながら、イシュタルに近づいていった。


 「かなり痛いでしょ?これはドラゴンスレイヤーと同じ材質でできている弓矢だからね。『竜の祖』である貴方でもかなりのダメージだと思うよ。まぁハーフチェンジ中だったのが、俺にとっては幸いでしたけどね。」


 「・・・・」


 イシュタルは痛みのあまりしゃがみこみ、射貫かれた右肩を左腕で抑えて俯いていた。天雷弓はドラゴンスレイヤーと同じく、伝説の武器でドラゴンスレイヤー同様『竜の祖』の固い鱗を断つことができる代物だった。そして災いしたのがイシュタルはハーフチェンジだったために、本来の『竜の祖』の持つ強度を保っていなかったことが余計に災いし、天雷弓の弓矢がイシュタルの肩を貫通してしまったのだ。


 「あ~痛そう~可哀想だねー。だけど、邪魔するなら例え『竜の祖』でも排除しなくちゃいけなくてね。悪いけど消えてくれる?」


 「!!」 


 痛みに蹲っているイシュタルの頭に、イリスは天雷弓の照準を合わせた。

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