165:大津波
「なるほどね、龍穴を利用して、魔王化促進を図っていたってことか。」
『・・・・・』
龍脈自体は決まった地形にずっと留まっている訳ではなかった。時と共に龍脈は形や場所を変えて、常に存在しているのだ。
イシュタルは飛んで、港町テル・ホルストの上空から龍脈の気を辿っていた。
(まさか、魔王化のために龍穴を利用するなんて・・・これを・・・ヴェリエルは本当に考えたのかしら?)
イシュタルは疑問だったのだ。自らの番を魔王へとすることなど、できるのだろうかと。
龍脈は黄金期であることから、特にフェリス王国全体に根を張り巡らしているかのように延びていた。その為に、イシュタルたちはその状態が当たり前だったので、龍脈についてさほど気にすることがなかったので、気付くことがなかったのだ。
ユージィンはヴェリエルにイシュタルの元へ行かせまいと、攻防を続けていた。ドラゴンスレイヤーから放たれる剣のオーラで、実際ヴェリエルは足止めをくらっていたのだ。
「で、誰の入れ知恵だい?」
ユージィンは戦いながら、ヴェリエルに問うた。
『・・・どういう意味だ?』
「しらばっくれなくていいよ。『竜の祖』である君が、番に自ら進んで魔王化をお勧めしたとは思えないからね。」
『・・・番が望んだことだ。』
「ふ~ん?だけど龍穴を使うなんて、君の番が思い付いたとは思えないからね。大方イリス当たりだろう?」
『知っていたのか・・・』
「いや、知ってるいるわけではないけど、僕の知っている人物では彼ぐらいしか思い当たらなかったからね。」
『ふん、癪には触るが、その通りだ!!』
そう言うと同時に、ヴェリエルは海の大きな津波をユージィンに仕掛けた。イシュタルの結界がなくなった隙を見計らい、わざと広範囲の攻撃を放ったのだ。
「!」
辛うじて、竜騎士達の結界で、町の中心部への海水の侵入は食い止められてはいたが、波止場にあった船などは波に飲まれてしまい、もはや原形をとどめていなかった。そしてユージィンの姿も波に飲まれてしまった。
「だ、団長ーーー!!」
「くそー!助けに行けないなんて!!」
竜騎士達はユージィンを助けには行きたいものの、結界の役目を担っているため、持ち場をはなれることができなかった。
(とりあえず、邪魔者はこれで流されたな。番の邪魔をさせるわけにはいかない!姉君を追いかけねば。)
ヴェリエルは、イシュタルのいる方向に視線をやると、その方面に向かっていった。
が、
その瞬間、ヴェリエルは胴の辺りをかなり深く斬りつけられた。
『ぐぁ!!!』
今まで負った浅い傷とは違い、かなり深手を負わされ竜独特の緑の血がどくどくと流れ出ていた。
「行かせないっていったろ。イシュタルの傍に行っていいのは僕だけなんだから。」
ユージィンはドラゴンスレイヤーの剣気の結界で、流されることも溺れることなく、地面に踏みとどまっていたのだ。
「・・・僕はさっきのこともあるから、君を切り刻むことに抵抗はないんだけど、君に深手を負わせると、イシュタルが悲しむから今まで多少気を使っていたつもりなんだけどね。だけど君がイシュタルに対して深追いをするなら話は別だ。」
そういったヴェリエルを見る、ユージィンの目は冷たい眼差しであった。
※次回は2/28に投稿です。
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