167:カイエル参上

 まさに、イリスが矢を放たんとした瞬間、ソレは起こった。


 ザッシュ!!!


 「ぐううううっ!!」


 突如、イリスはするどい痛みに襲われた。自分がイシュタルにしたように、イリスもまた何者かに後ろから攻撃されたのだ。そして、その攻撃した人物は、 


 「なっ?」


 イリスはすぐに後ろを振り返った。


 「てめぇ、姉貴に何してんだよ?」


 そこには、カイエルが怒りの形相で立っていた。カイエルの腕は竜化しており、その鋭い爪先には今しがたイリスの背中を切り裂いた血が滴っていた、


 「カ、カイエル?」


 イシュタルは驚いていた。何故ならカイエルはセレスティアと共に、ここテル・ホルストとは真逆の方角にあるメルシャ村に遠征に向かっていたはずであったからである。


 「ど、どうして?あちらの魔物は大丈夫なの?!」


 イシュタルは駆けつけてくれたカイエルについて嬉しくは思うものの、同時に魔物に襲われていたメルシャ村の事を思えば、手放しでは喜べなかったのである。

 

 「あー、あっちは大丈夫。詳しいことは端折るけど、俺の加護を付与してるからちょっとやそっとなことではびくともしねぇよ。」


 と、カイエルは先程の怒りの形相とは一転し、ニカっと笑顔でイシュタルに説明した。


 「・・・こんなすぐにこちらに来るとは思っていなかったよ。気付いたとしてももう少し時間がかかるかと思っていたんだけど。今の飛竜の君ならね。」


 イリスは痛みのため、苦痛を滲ませた表情をするも、わざわざカイエルが飛竜であることを付け加えた。まだ『竜の祖』の力を取り戻せていないカイエルへの嫌味である。


 「ふん、てめぇごとき、力を取り戻していなくても俺の敵じゃねぇからな。」


 だが、カイエルは余裕の表情で返していた。


 「ふ・・言うね。だが君が飛竜であるなら、この天雷弓の威力には適わないよ。『竜の祖』であるなら、多少耐えることは可能だろうが。」 


 ドラゴンスレイヤーや天雷弓は伝説の武器で、竜の中でも特に固いとされている『竜の祖』の鱗でさえ断ち切れる代物だ。『竜の祖』ではない飛竜であるなら、それらの武器で攻撃されれば一溜りもないのだ。実際、カイエルはメルシャ村で体験済みである。


 「まぁな。けどそれも当たればだろ?」


 「なら、避けられないようにするまでだ!」


  いうや否や、天雷弓を構えたイリスはカイエルに向かって弓矢を放った。すぐさま、カイエルは手をかざして結界を展開した。


 「ははっ!この間合いなら結界をしても意味をなさないぞ!!」


 メルシャ村の時は結界で防いだものの、距離があったことで少しだけ猶予があったが、今は状況が違うからでた言葉であった。


 「まずは一匹!!!」


 何本も放たれた弓矢ではあったが、結界は全然弱まる気配がなかった。


(?おかしい。とっくの昔に結界が破られていてもおかしくないのに、何故?)


 イリスは気が付いた。カイエルの結界がメルシャ村の時とは強度が違うことに。そして思い至ったのだ。


 「!まさか?!」


 「へぇ~気が付いたようだな。」


 カイエルは、余裕の笑みを浮かべていた。

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