162:桃色の瞳の女ヒルダ
『ユージィン、みんなは逃げられたの?』
イシュタルの身体はところどころ凍って怪我を負っていたが、自分のことよりも他人を気にかける様子が優しい彼女らしいとユージィンは思った。
「あと少しかな?だけど竜騎士達が結界を張ってくれているから多少は信用してよ。」
そういうと、ユージィンはお道化たようにイシュタルにウインクをした。だが、次の瞬間ユージィンの表情は一変した。冷めた眼差しを青玉の竜ヴェリエルに向けていた。
「ったく、いくらイシュタルが優しいからといって、つけ上がり過ぎじゃないかな?」
ユージィンはかなり怒っていた。ほとんど抵抗できなかったイシュタルを痛めつけられ、ヴェリエルに対して怒りを顕わにしていた。イシュタルがユージィンを唯一無二と言うように、それはユージィンも同じ気持ちで、自分のかけがえのない存在を痛めつけられて、容認できるはずがなかったのだ。
『姉君の番・・・ドラゴンスレイヤーのマスターだな。』
「悪いけど、イシュタルの弟といえど、慈悲をかけるつもりはない。」
ユージィンはそういうと、ドラゴンスレイヤーを構えた。
『・・・望むところだ。』
ヴェリエルもユージィンに標的を変え、二人は対峙していた。
時刻を少し遡って・・・
ビェリーク村では、意識を取り戻したハインツの前に、またもや桃色の瞳の金髪の女が現れたのだ。
「どうだ?思い出した気分は?」
「!!君は・・・?」
ハインツは、何か手がかりがあるかもしれないと、自分が意識を失った診療所の裏手に来ていたのだが、まさかこんなに直ぐに会うことになるとは思っていなかったので驚いていた。
「ハインツ、前世を思い出しただろう?」
「不本意ながらね・・・それがどうしたんだ?」
桃色の瞳の女はしばらく凝視してハインツを見ていたが、興がそれたようだった。
「ふむ・・・前世に引っ張られるかと思ったが、そうでもないようだな。つまらん。」
「はぁ?それは一体どういう意味だ?!」
「出来れば仲間に引き入れたかったが、思っていた以上に緑の竜の加護が効いていたようだ。ここは大人しく退散するとしよう。」
言うや否や、桃色の瞳の女は、面白くなさそうに踵を返した。
「待て!君は一体?! それにこの間は魔王とか言ってたけど、スタンピートも君の仕仕業じゃないのか?!!」
ハインツは証拠も何もないが、魔王が現れるときにスタンピートが起こるという状況から、目の前の桃色の瞳の女が元凶だと疑わなかった。
「ヒルダだ。」
「え?」
「我はヒルダというのだ。前魔王よ、スタンピートは今更隠しても仕方がないからな。その通りだ。」
桃色の瞳の女はそういうと、ニヤリと笑った。
「なら、このまま行かせる訳にはいかない!大人しく投降してもらおうか?」
「ふふ、我を止められるとでも?」
桃色の瞳の女は、ハインツの投降という言葉を無視して、背を向けたまま歩いて行くので、ハインツは慌てて腕を掴もうとした。
「な!待てって!」
バシッ!!!
だが、ヒルダとハインツの間に何かが飛んできた。
「?!!」
ハインツは慌てて後ろに下がったが、足元には弓矢が刺さっていた。そしてそれは普通の弓矢ではない魔力で練り上げた矢であったのは一目瞭然であった。
「ふふ、上から失礼するよ。悪いけど主を迎えにきたのでね、邪魔しないでもらいたいな。」
そこには幻獣グリフォンの背に乗り、天雷弓を携えたイリスがいた。
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