139:ハインツの前世~③~

 暗い・・・真っ暗だ。だけど・・・何か聞こえる??

 あ・・・泣き声??




 ハインツは暗闇の中、落ちている感覚だった。そして落ちていく先に小さな光を見つけた。そしてそれは次第に大きな光となり、その中に吸い込まれた。 


 (ここは?)

ハインツはどこかはわからいが、恐らく見た感じでが貴族の屋敷にいるようだと気付いた。部屋に置いてある家具や調度品が一般のソレとはかけ離れていたからだ。(置いてあるものは高価な物だ。貴族の・・家だな?)そして、さきほどから聞こえていた声が部屋の隅から聞こえていたことに気付いて覗きにに行った。すると先程暗闇の中で聞こえていた泣いている女の子の姿があったのだ。


 「うっうっうっ」


 その蹲って泣いている女の子はハインツと同じピンクブロンドの髪をした子だった。ハインツはその子を慰めようと手を伸ばしたのだが、自分の姿にギョッとした。

(なんだ、これ?僕透けてないか?)


 ハインツは透けていたが、泣いている子を放っておくこともできず、そのまま声をかけた。

(大丈夫かい?何を泣いているの?)


 だが、その蹲って泣いている女の子は、ハインツの声に何も反応しなかった。

 (まさか・・・聞こえてない?)


 すると、ドアが乱暴に開いた。


 「ちょっと!!まだ窓拭けていないじゃない!!何を途中で放りだしているのよ?! 」


 いきなりやって入ってきたかと思えば、その女性は年の頃は14.5歳の明るい茶色の長い髪をハーフアップしている女の子であった。そして泣いているピンクブロンドの小さな女の子に、尚も怒鳴りつけていた。


 「何?あんた泣けば済むとでも思ってるわけ?」


 (やっぱり僕は見えていないんだ・・・) 

 ハインツは調度、泣いている女の子と明るい茶色の女の子の真ん中に立っていたのだが、ハインツに一切話題が触れられないことから、自分の姿も声も聞こえていないものだとはっきりと自覚することができた。


 「ち、違う・・んです。拭いていたんだけど、脚立が倒れて、それでそこから落ちてしまって、足を怪我したの・・・だから・・・」


 ハインツは、その泣いている女の子の言葉を聞いて、確かによくみれば、窓の傍に脚立は倒れていたのが目に入った。

 (あぁ、だから痛くて泣いていたのか・・・)


 ハインツは納得したのだが、明るい茶色の髪の女は、納得していなかった。


 「はぁ?だから何なのよ?だからできていないって?あんたって本当に役立たずね!」


 だが、女は声を荒げ、怒りを顕わにしていた。


 「ミカエラお姉さま、ご、ごめんなさい!」


 ハインツはこれを聞いて、あぁ姉妹だったのか、と関係性を把握をするも、


 「!!あんたなんかに、お姉さまなんて呼ばれたくないわ!いつも言うなって言ってるよね?!」


 そういうと、ミカエラはピンクブロンドの女の子の耳を持って引っ張った。


 「い、痛い!やめて!!」


 だが、女の子は抵抗はしないで、ただやめて欲しいと懇願するだけであった。そんな様子をハインツは無駄だとわかってはいたけれども言わずにはいられなかった。

(やめろ!!君よりも小さな子になんてことをするんだ!!)

だが、当然ハインツの存在を認識されていないところでは何の効果はなかった。


 「私のことは何て言うの?イベルナ?!」


 ミカエラは、イベルナの痛がっている様子をそれは残忍な微笑みを浮かべ眺めていた。 


 「ミ、ミカエラ様・・・」


 それを言った瞬間、ミカエラはイベルナを耳を離した。


 「ふん、わかればいいのよ。身の程をわきまえなさい!いいわね?!」


 「・・・はい申し訳ありませんでした。」


 「じゃ、もういいわ。さっさと脚立を片付けて、私の部屋から出て行って。」


 「はい・・・失礼します。」


 立ち上がったイベルナの出で立ちを見て、ハインツは少なからず衝撃だった。姉妹だというのに、あからさまに差別をされているのは、その来ている服からも容易に想像することができたからだ。

 姉である、ミカエラは貴族の婦女子ばりの普段着ではあるものの、上物のドレスを着用していたのに対し、イベルナと呼ばれたハインツと同じ髪色を持つ女の子は、地味で、薄汚れた使用人が着用するようなドレスを着ていたからだ。


 ・・・・まさか、これは?


 『お前の前世を我が教えてやる。』


 あの女はそう言っていた。信じがたいことだが、あの言葉の通りなら、自分は前世の様子を見せられていると、ハインツはショックを隠しきれなかった。

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