138:ハインツの前世~②~

 その豪奢な金髪の長い髪を持つ女は、珍しい桃色の瞳でハインツをジロジロと見ていた。そんな不躾な視線は当然気分がいい訳もなく、ハインツは切り出した。


 「あの、いきなり訳の分からないことを言われるわ、その値踏みされるような視線はやめてくれないかな。いくら女性からの眼差しといえど気分のいい物ではないし。」


 ハインツははっきりと「不愉快だ」と意思表示を示した。


 「あはははは、それは失礼したな。」


 女は一応詫びの言葉を並べるも、そのほくそ笑んだ顔には悪びれた様子はなかった。


 「だってそうだろう?今まさにこの瞬間が普通なら有り得ないことだから、つい・・ね?」


 「だから、一体何のことを言っている?」


 「言ったろ?前魔王に出くわすとはな、と。貴様の事だよ。ピンクブロンド頭。あぁ、今は『ハインツ』だったか?で、お前の番の竜はどこだ?あの翠玉の竜だよ?」


 「!!」


 ハインツは驚きを隠せなかった。まさかラーファイルのことを言われるとは夢にも思っていなかったから。ラーファイルは風を司る竜であるがため、その正体は美しいエメラルド色の鱗を持つ竜なのだ。当然番であるハインツは周知のことである。だがそれを知っているのはあくまで『竜の祖』を番に持つ者と極わずかな厳選された者たちだけだ。情報が洩れていたのかと一瞬思ってたのだが・・・


 「なぜ・・・?」


 「何故だと?わからいでか。」


 女は鼻で笑った。


 「我は、魔王になる者ぞ。そんなことくらい造作もない。」


 「女の・・魔王だと?」  


 勝手な思い込みであるが、魔王というと、男のイメージがあった為、目の前の女が自分を魔王と名乗ったことにまたもや驚いたが、女はまたもや鼻で笑った。


 「なんだ?女が魔王を名乗ることに不服そうだな。」


 女はハインツの言葉にゴクリと喉を鳴らした。女性蔑視のつもりではなかったが、そう受け取られても仕方ないと思ったのだ。そして普通なら自ら魔王になる者と名乗るなど、ふざけていると捉えられてもおかしくもない状況だったが、女の纏う只ならぬオーラと竜の事を知っていたことが、冗談ではないということが、ハンイツには理解できていたのだ。


 「アハハハハハ。面白いことを言うなぁ。」


女は本当に、心底可笑しそうに笑っていた。


 「な、何が言いたい?」


 ハインツは女の笑う意味がわからなかった。


 「だってそうだろう?前魔王、貴様も前世では女だったじゃないか?それにその時はあの翠玉の竜は男役を担っていたのに・・・自分のことを棚に上げて、よく言う。」


 女は不敵な顔をそして、ハンイツを見据え、ハインツは思いも寄らないことを言われ、ただ驚きと動揺の連続であった。 


 「僕が、前世女で、魔王だったと?」


 「ふん、大抵は前世の記憶など覚えてはいないがな・・・どれ、せっかくだから我が思い出させやろう?」


 女はそういうと、ハインツに手を伸ばした。


 「や、やめろ!」


 ハンイツは女と対峙しているのは危険だと察知し、その場を離れようとしたが、周りは暗闇に包まれた。


 「な、ここは?」


 「言ったろ?お前の前世を我が教えてやる。」


 女はそういうと、暗闇に紛れ姿が見えなくなった。

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