140:ハインツの前世~④~
あれから・・・
イベルナの様子を見ていて、いろいろとわかったことがあった。
ここは、数百年前のアーベンレックという国だということ。そしてイベルナは庶子だったのだ。父親である伯爵が、メイドに手を出して火遊びでできてしまった子供だったのだ。子供ができたことに激怒した正妻はそのメイドを屋敷から追い出したが、結局メイドであった母親が死んでしまったから、仕方なく引き取られたようだった。
だが、そんな彼女は当然のことながら、正妻をはじめ、正妻の子供たちである腹違いの兄姉から疎ましい存在として扱わられていた。半分血は繋がってはいるものの、ほんとど使用人と同じ待遇であった。しかし辛辣に当たられる分、使用人よりも立場はきついものだったのだ。それでもイベルナは衣食住があるだけマシだと思っていたので、理不尽な八つ当たりや要求にも逆らうことなく従順であったのだ。
(よく、こんな状況で耐えているな。まだ10歳にもなっていないだろう?なのに・・・)ハインツはそう思っていたのだが、イベルナは実際のところ12歳だった。本来の子供としての発育ができていないことと痩せていることも相まって、実年齢よりも幼く見られていた。
ハインツが見ている場面は抜粋されたかのようなものだった。全部を見ている訳ではなかったので、唐突に場面が切り替わるのだ。だが、ソレのどれもがイベルナが正妻や腹違いの姉弟、そして父親からも理不尽にいびられているものばかりだった。
(なんで、なんでこんなところを見せられているんだ?可哀想だろ!)ハインツは自身が干渉することができない存在に今はなっていることはわかってはいるが、手伝うことも助けてあげることもできない状況に歯がゆく思っていた。そしてそれらは数年が経ったようで、イベルナが16歳になった時にそれは起こった。
イベルナはほぼ毎日いびられていたところへ、突然転機が訪れたのだ。
「縁談・・・ですか?」
「そうよ、有り難く思いなさいな!あんたのような庶子でも貰ってくださるっていう物好き・・・あら失礼?寛大なお心の方が申し出くださったのよ。」
正妻であるインジュシカは、なぜか下卑た笑いを含ませながら、説明をしてくれたが、イベルナもインジュシカの様子が可笑しいことに気が付いてはいた。気が付いていたものの、自分に拒否権がないことも彼女は充分にわかっていたのだ。
「・・・わかりました。謹んでお受けいたします。」
「ふふん、わかってるんじゃない。あんたには拒否するなんて選択はないのだから。追い相手はね、まぁ格はうちよりは落ちるけど・・・お金持ちなんだから、今よりは暮らしはよくなると思うわよ?」
「あの・・お名前は?」
「ボドラーク男爵よ。御年、65才歳だったかしら?」
「65歳!!」
イベルナは余りに年が離れているので、さすがに驚いて声に出てしまった。
(おいおい、ほぼ50歳近くの年の差なんて・・・普通に孫の歳だろ?一体どういう了見だ?)傍で聞いていたハインツも驚いていた。
「あら?何か問題でもあるのかしら?」
インジュシカはイベルナをジロリと睨んだが、当然逆らうことはできないイベルナは何でもありませんと、話を終わらせた。
(なぜ、あんな歳の差で結婚なんて・・・恐らく政略結婚なんだろうけど・・・)先程インジュシカが言っていたお相手がお金持ちという言葉から相手のお金を当てにした、政略結婚であることは想像に容易かった。
(これだから、貴族は・・・)ハンイツは汚いものを見るかのように、インジュシカを一瞥していた。
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