131:遠征⑤
ルッツと後輩の一人が、エイブラムに治癒魔法をかけていた。竜騎士の今在職しているメンバーの中では治癒魔法に長けているからだ。勿論本職の治癒師や神官ほどの回復力はないが、それでも応急処置的であれば充分なため、二人は術を施していた。それを横目に見ながらセレスティアは剣を構え、イリスと対峙していた。
「あぁ、不思議そうな顔をしているね。君は知らないだろうから、仕方ないだろうけどね。大抵は覚えていないからね。」
セレスティアはこのフレーズに聞き覚えがあった。
「もしかして、前世のことを言ってるの?」
以前にイシュタルやアンティエルから、前世を覚えていることは稀だと聞かされていたために、思い至ったのだ。
「!凄いね。これだけで察することができるなんて・・・ふふ、伊達に『器』ではないね。」
「『器』?一体何のこと?」
「そうだね~詳しく教えてあげてもいいけど・・・。」
『グゥルルルルルル!!!!』
唸りと共に飛竜のカイエルがセレスティアとイリスの間に入ってきた。
(くっそ!あの女が邪魔しなきゃもっと早くに来れたのに!!)カイエルはディアナの相手をしていた為に、介入が遅くなったのだ。そしてディアナは少し先で倒れていた。
「おやおや、か弱い女性に酷いことをするねぇ。」
イリスは倒れているディアナに目をやり、カイエルを咎めたが、その言葉は上辺だけであるのは、セレスティアもカイエルにもわかっていた。
「よく言うわね、わかっててカイエルの相手をさせていたんでしょ?それより、『器』ってどういうことなの?」
「んー詳しく教えてあげたいけどね、ディアナを放っておくことはできないし、退散するよ。まぁあのいけすかない団長でもいいし・・・」
イリスは、カイエルをジッと見つめて、
「そこに黒の『竜の祖』も事情は知っているはずだよ。先に知りたいなら聞いてごらん?勿論他の『竜の祖』でも構わないよ。」
意味深なことを言い残して、イリスはディアナを横抱きにしながら口笛を吹いた。またもや幻獣のグリフォンを呼び寄せた。
「では、また近いうちに合おう。」
グリフォンの背にディアナを乗せ自身は跨り飛び去っていった。
「待ちなさい!逃がさないわ!」
当然それをみすみすと見過ごす訳もなく、セレスティアはカイエルに跨った。
「カイエル追いかけて!!」
言うと同時にカイエルは飛び立っていた。
「ん~今回は易々と流石に見逃してくれないようだねぇ。まぁ当然といえば当然かな。」
イリスはカイエルに乗ったセレスティアを振り向き様、『天雷弓』で攻撃してきた。
「!!カイエル結界を!!」
弓矢が到達するまでに、カイエルはセレスティアを含めた自身の周りに結界を展開して、矢をはじき返した。だが・・・
「これは?!」
矢をはじき返したのは初めだけで、あとになれば、矢は結界を姦通する勢いであった。このままでは、結界が持たないのは、火を見るよりも明らかであった。(くそ!さすがは、伝説の武器ってところか、結界がこのままでは壊される。俺が・・・まだ本本調子じゃないから・・・)カイエルは現在飛竜ではあるものの、他の飛竜よりは魔力はずば抜けている。そのカイエルの結界を持ってしても、防ぎきれないということは、他の飛竜であるならとっくの前に墜落させられているのだと、セレスティアもカイエルも理解していた。
「カイエル引き返しましょう。」
『ギャウ?!』(なんで?)
「正直、今のところ勝算がないの。『天雷弓』とやらで、これ以上攻撃されたら、こちらが持たないのは、カイエルもわかるでしょう?」
『・・・ギャウー』(わかった。)
セレスティアは断念した。現時点での深追いはこちらに分が悪いとセレスティアは瞬時に理解したのだ。
「へぇ~追ってこないんだね。・・・さすが瞬時の分析力と決断力。やはり伊達に資質がある訳ではないねぇ。」
イリスはセレスティアは追跡をやめたことを高く評価していた。
「にしても、ディアナには可哀想なことをしちゃったな。飛竜のままとはいえ、『竜の祖』と渡り合ってもらったしね。」
そう言うと、意識の失ったディアナの頭をなでてやり、
「あとで、ご褒美をあげなくてはね。君が喜びそうやつを・・・」
だがその声はボロボロになったディアナには届いていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます