132:遠征⑥
エイブラムの負傷により、メルシャ村にある空き家を借りて、そこで養生することになった。そこには竜騎士達が集まっていた。エイブラムは意識ははっきりしていたが、重傷であることから身体を休めるためにベッドに横たわっていた。そして先の戦いの中で、イリスが話していた『番』や『竜の祖』に関することで、セレスティアは説明を求められていた。
「セレスティア、君は先ほどの男と面識があったようだ。伝説の武器のことといい、説明をしてもらえないか?」
「それは・・・」
セレスティアは言い淀んでいた。何せ『竜の祖』のことは箝口令を布かれていることから、個人の判断で話してもいいのかと、悩んでいたのだ。
「セレスティア・・・」
ルッツは心中は穏やかではなかった。『竜の祖』よりも『番』という言葉の方が気になって仕方がなかったからだ。
「・・・申し訳ありません。私からは今は申し上げることは致しかねます。」
「・・・そうか。」
エイブラムは、セレスティアがこう言ったことで察したのだ。イリスが言っていたセリフでも思い至っていた。恐らく上層部が絡む内容で、セレスティアはそれを話すことができないのだろうと。だから追及しなかった。
「た、隊長!そ、それでいいんですか?!」
「相手は伝説の武器や幻獣を扱うやつなんですよ!少しでも手がかりが欲しいではないですか!」
だが、全員が物分かりが言い訳ではなく、納得できない輩も出てくるのは当然であった。
「よほどの理由があるのだろう。今は時期ではないのだ。」
エイブラムは、今は言えないのかもしれないが、事態がそういう訳にいかなくなれば、セレスティアはきっと話してくれるだろうと。エイブラムはセレスティアとの今までの付き合いから、そう判断したのだ。だから今はこれ以上セレスティアを追及することはしなかった。
「しかし!!」
「だーーっ!!うるっせぇな!!!」
そこへ、いきなりカイエルの声がした。
黒ずくめの服装でカイエルは突如ドアの前に現れたのだが、これには全員が驚いた。何せ、全員が竜騎士だ。気配を察することなく、声を出されるまで気付かなった事自体が普通なら有り得なかったからだ。
「な、何者だ?!!」
「隊長をお守りしろ!」
瞬時に、セレスティア以外の全員がエイブラムのベッドの前で、隊長を守るべく、臨戦態勢をとったのだ。エイブラムでさえ、短刀を手にしカイエルを警戒していた。
「・・・皆さん、大丈夫です。この男は敵ではありませんから。」
セレスティアは、大きな溜息をしながら皆にそう告げた。
「・・・信じていいのか?セレスティア?」
「はい、それは断言します。」
その言葉にエイブラムは片手を上げ、それを合図に皆が武装を解除した。しかし、ルッツはカイエルを見て気が付いた。
「あれ?君は・・・確か以前、踊り子の上演の時にVIP席にいた人じゃ?」
「え?あ、そうだ!あの時いたイケメンだ!」
4年も経てば普通なら顔を忘れ去されても不思議はなかったのだが、何せあの時いた『竜の祖』は全員ずば抜けて容姿がいいことから、あの当時かなり目立っていた。それゆえインパクトのある出来事として、記憶に残っていたのだ。
「あー、そんなこともあったな。」
カイエルはぶっきらぼうに答えながら、頭を掻いていたが、セレスティアは頭を抱えていた。(せっかくこの場を切り抜けようとしたのに、なんで出てくるのよー!)セレスティアはこの後、どんな言い訳をしようか悩んでいた。
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