130:遠征④
結局、朝になってもグレイウルフの群れが現れることはなかった。
「ふむ・・・毎日襲撃に来ている訳ではないようだからな・・・しばらく張り込むしかあるまい。」
明け方、エイブラムはそう結論付け、各々に休憩を取るように言いつけた。朝になれば魔物の群れは現れないからだ。しかし事態はそう簡単に行くはずはなく、思わぬ方向から声がした。
「ふふ、やぁ久しぶりだね。あの時の竜の番のお嬢さんと黒の『竜の祖』だね。」
村の出入り口前に前にある森から、朝焼けを背に現れたのは、イリスとディアナであった。
「「「「「!!」」」」」
「総員、臨戦態勢!!」
エイブラムは突如現れた男イリスと獣人の女ディアナに警戒を現した。エイブラムも竜騎士になって、10年のキャリアがある強者だ。突然現れた、この男女が只モノではないことを瞬時に見破ったのだ。
「イリス・・・貴方だったのね・・・」
セレスティアはイリスを見て、理解した。魔物騒動はこの男が、裏で手を引いているのだと。
「セレスティア、あの男は知り合いか?番?それに『竜の祖』とは・・・一体何のことだ?」
イリスの不用意な発言により、この時点では詳しくはわからないものの、箝口令もののセレスティアが竜に番であること、そして『竜の祖』がいることが、表面化されてしまった。
「セレスティア・・・番って?」
「・・・・・」
ルッツもイリスが発した『番』という言葉を聞いてかなり動揺していた。番とは本来伴侶に使う言葉だからだ。
「あーごめんねぇ。もしかしてまだ内緒にしていたのかなぁ?」
イリスは竜騎士達の様子から、セレスティアが番であることを内緒にしていることわかったのだ。だが、意に介さず、言葉を続けた。
「あ~『竜の祖』だもんねぇ。公にできる話ではないよね。俺としたことがうっかりしたなぁ。まぁ・・・」
イリスはニコニコとして悪びれず、そして彼にとっては些末なことだったのだ。
「ま、そんなことはいいや。実はね、俺が来たのは他でもない。この村は俺が嗾けた魔物の被害が思うようにというか、計画通りではなくてね、なんでかなーって思って見に来たんだよ。」
「イ、イリス様、そんなこと言っては!」
ディアナは慌てていた。まさかイリスが馬鹿正直に言うとは思わなかったからである。
「んー?まぁいいじゃない。まぁでも現場は大事だよね。来て見てよくわかったよ。確かにね、ここは竜の気が充満している。グレイウルフ程度では作物を荒らすのが精一杯だったろうね。」
イリスは実際にメルシャ村に来てわかったのだ。竜の加護がある村だったことが。
「ほぉ、貴殿が黒幕…という訳か。」
エイブラムはリーダーとして、一歩前に出て剣を携え構えていた。
「そうだよ。まぁ理由が判明したから今日はもう帰るよ。」
イリスは手をヒラヒラさせて踵を返し、本当にこの場から立ち去ろうとしていた。
セレスティアを含む、竜騎士達は呆気にとられたが、エイブラムは違った。
「き、貴様ーーー!このまま返すとでも思っているのかぁぁ!!!」
背を向けて歩き出したイリスに向かってエイブラムは切りかかった。しかし、
「ったく、騎士たるものが背を向けている者に剣を向けるとは、世も末だな。」
突如振り返ったイリスは、突然現れた弓矢を用いて、矢を作り出しそれを放った。
「ぐぅあああああ!」
放たれた矢は一本ではなく、複数であった。それをまともにくらったエイブラハムは、ガードをしていたものの、ダメージは避けられなかった。
「「「「エイブラム隊長!!!!」」」」
セレスティア達は慌てて、エイブラムの元に駆けつけた。
「だ、大丈夫ですか?」
ルッツがエイブラムの血を拭っていた。
「ぐぅ・・・これしき・・・だが、痺れが・・・」
「痺れ?」
エイブラムはガードしたことが幸いして、重傷ではあったものの、命に別条はなかった。だが、全身を弓矢で掠めて怪我したところとだが、腕や足が数か所、姦通していていたのだ。
「そんな・・・さっきまで弓なんて持っていなかったのに・・・それに矢も・・・?」
セレスティアは驚きを隠せなかった。
「あぁ、これ?」
イリスは、手に持った弓を軽く持ち上げ、そして何てことないように告げた。
「君のところの団長と一緒だよ。」
「え?」
「要はね、ドラゴンスレイヤーと同じさ。」
セレスティアはその言葉で理解した。
「まさか・・・」
「さすがだね。」
イリスは心底嬉しそうにセレスティアに、笑顔を向けていた。
「そう、これらの伝説の武器は、所有者の身体が鞘になるからね。『天雷弓』というんだよ。ドラゴンスレイヤーと同じく伝説の武器で、俺がマスターなんだ。」
イリスは、そういうと瞬時に魔力で弓矢を作って見せた。
「ふふ、種明かしになるけどね、君にならいいよ。こうやって魔力を練り上げて矢を作ることができるからね、つまり矢がなくてもいくらでも生成できるってわけさ。」
イリスが伝説の武器を扱えることも厄介だとは思ったが、何よりセレスティアは不思議だったのは、気のせいではなく、イリスは本当にセレスティアに向かって嬉しそうに微笑んでいるからだ。
一体何故?セレスティアは何とも言えないモヤモヤしたものを感じていた。
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