128:遠征②
カイエルは、当然のことながら、人目があるので飛竜の姿であったが、この村に来た時から、少し不思議な気分であった。
『・・・なぜ・・・俺の鱗が?』
各家の玄関の上、屋根近くには竜が弧を描いたような模様があり、そしてその真ん中にあるのは自身の鱗だとわかったからだ。
カイエルは、村長の話に聞き耳を立てており、そしてわかったのだ。
『・・・あいつら、ここだったんだな。』
カイエルにはわかった。500年前にカルベルス王国から逃がした神父と孤児たちが作った村だということが。なぜなら、カイエルは逃がす際に、自身の鱗を神父に渡していたのだ。
「カイエル、これは?」
数十枚の大きなの黒い鱗を神父はカイエルから渡された。
「俺の鱗は加護になる。雑魚の魔物くらいは追い払えるお守りにはなるからな。餞別にくれてやるよ。」
「カイエル・・・」
「俺の鱗は下手な神官の書いた護符より効果があるのは保証してやるよ。」
「わかった・・・有り難くもらっていくよ。」
神父は、これをカイエルが自分に渡したということは、自分達と一緒にくるという選択はないのかもしれないと思っていた。
そして、その後結界に入れられた神父達は、やはり自分達と行動を共にするのではなく、悲しい選択をしたのだと神父は悟ったのだ。
カイエルは、記憶が戻ってから神父たちの行方が心配になっていた。自分で安全な国とやらに飛ばしたものの、実際は国というよりは、結界にある種の条件を組み込ませて神父たちが住みやすいところへ飛ぶようにしていた。それで姉たちに自分が記憶を無くした500年の間に神父たちに足取りを聞いていたのだ。だが、姉たちは封印で記憶を無くしたカイエルに何があったのか記憶を辿っただけなので(魔法で何があったのか過去の記憶を探られた。)神父達のその後はわからないと聞かされていたのだ。
だが、思いも寄らない形で、神父たちの足取りを掴めた。神父たちはその後、カルベルス王国からこのフェリス王国にまで来ていたことがわかったのだ。そしてここ、メルシャ村を開拓でもしていたのだろう。カイエルの鱗をお守りとして、先祖代々扱っていたことが、まさか500年後にわかるとは思ってもみなかった。
「この村は竜を信仰しているのですよ。権力には屈せずに、悪しきものを受け入れない崇高な心を我々は信奉しているのです。」
カイエルはこの村長の言葉に恥ずかしくなっていた。だが、これは違う意味で恥ずかしいのだ。実際のところは、当時のカイエルはエレノアを失った悲しみで、闇に飲まれそうになっていたのに、村長に崇高などと言われて実は居た堪れなくなっていたのだ。かといって当然今更訂正をするつもりはないけれど。
『・・・ま、何にせよ、あいつらが無事だったことがわかったから、よかったけどな。』
カイエルは、ずっと気になっていた神父たちがここにいたこと、そして自身を信仰されているとには驚いたが、実のところ満更でもなかった。そして神父と子供たちの子孫が困っているなら、力を貸すのもやぶさかではないと思っていたカイエルであった。
※次回の更新は12/20(月)23:59です!
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