115:カイエルの意外な才能
それから、セレスティアとカイエルとの二人の生活が始まったのだが・・・
カイエルは、あの時自身で言ったように、初日こそはセレスティアを抱きしめたものの、それ以降は本当に何もしてこなかった。拍子抜けするほど、その後は普通にただの同居人として、穏やかに生活していた。家事の類は掃除や洗濯はセレスティアが担当し、料理はカイエルが担当するという役割分担によって回っていた。
と、いうのも・・・初めは、セレスティアは、はりきっていたのだ。特に料理をすることに。ところが蓋を開けて見れば・・・
「ごめんね、カイエル・・・私、自分が思っていたよりも料理の才能がなかったみたい・・・。」
何度かいろいろ作ってはみたものの、火加減を誤ったり、味付けが上手くいかなくて、どうにも納得した食事が作れなかったのだ。
今も食卓には消し炭なほどに真っ黒な肉の塊が皿の上に乗っていた。そしてサラダとパンの組み合わせである。
「そう?俺は食べられるよ?」
と、カイエルはさほど気にしていないように言うが、カイエルは野生の飛竜として過ごしてもいたし、竜の厩舎で普通に家畜用のエサを与えられて食べていたので、大概の(不味い)ご飯でも問題なく食べられるのだ。
「食べられる、じゃなくって美味しいって言ってもらいたいのよ!」
やはり女子としてはせっかく作ったお料理を美味しいと言って食べさせてあげたいものだ。だが、いかんせんクソ不味いとまではいかないけれども、美味しいという代物ではないことはセレスティアも嫌でも自覚する羽目になったのだ。
「うう~~思えば料理は今まで作った事なかったわ。ずっと寮生活だったし、野外で作ったことはあるけど、それも即席のモノだったし・・・味覚には自信があったから、料理もできると思っていたけれど、作るとなると全然違うものなのね。お料理をなめてたわ・・・」
セレスティアはショックを受けていた。思えば小さなときに、継母のジョアンナからは掃除を言いつけられたことはあっても、料理は言われたことはなかった。どうせならあの時、料理も言われていたら、今頃料理上手になっていたかもしれないなどど、どうにも思考が明後日の方向に向いていた。
「・・・美味い物が食べたいんだよな?」
「当たり前じゃない!」
「わかった。じゃ俺がやるから、セレスティアは休んでな。」
そう言うと、カイエルは席を立った。
「え?え?え?」
「とりま、あるものでやってやるよ。」
そういうとカイエルは手際よく、台所で食材を刻みはじめ、鍋に小麦粉や牛乳などを入れて何やら作っていた。そしてそこから漂う香りは食欲をそそる、香ばしいものだったのだ。
「いい香り・・・」
そうして、出来上がった物は、実に美味しそうなクリームシチューだった。
「ほれ、食ってみな。」
「う、うん。」
セレスティアの前に置かれたクリームシチューは見栄えよく緑やオレンジ等の色とりどりの野菜が白のクリームシチューの中で色鮮やかに映えて、より食欲を引き立てるものであった。
「・・・すごい!色合いも凄くキレイだわ。」
セレスティアは見惚れていたが
「おいおい、冷めたら美味しさが半減するんだから、猫舌じゃないんだろ?早く食えよ。」
「そ、そうね。」
セレスティアは慌ててスプーンでシチューを掬い、口の中に入れた。
「!!!」
その瞬間セレスティアの目が見開いた。
「どう?」
「美味しい!!!私が作った奴なんかより、すっごく美味しいわ!!」
「俺、料理は以前やってたからね、そこそこ自信あるんだよ。」
「そうだったの?やだ、本当に美味しい~~~」
セレスティアは夢中で食べた。その様子をカイエルは対面でじっと見つめ、セレスティアの満足そうな顔にカイエルも満足していたのだ。
「おかわりいるか?」
「いる!」
カイエルは受け皿をセレスティアから受け取り、おかわりをよそってきた。
「やだ、カイエルにこんな才能があったなんて・・・でも美味しい~」
本当に世辞ではなく、カイエルの作ったシチューは美味しかったのだ。まさかカイエルにこんな才能があるとは、セレスティアにとって思いも寄らない嬉しい誤算であった。
「なぁ。」
「ん?」
「ならさ、これから俺が料理を作ろうか?」
「!え・・・いいの?」
セレスティアはカイエルの提案に驚いた。
「あぁ、まぁ当初は家事は交代って話だったけどよ、役割分担で決めるってのはどうだ?」
「それはいいわね!私お掃除は得意だもの!」
「じゃ決まりな。俺が料理を担当してやるよ。」
「じゃ、私はお掃除担当ね!」
そんな感じで、二人は役割分担を決めることができた。セレスティアはテーブルにあった空になっている皿を見て驚いた。自分が夢中になってカイエルのシチューを食べている間、先程作った不出来な自分を料理をカイエルは既に完食していたのだ。
「・・・カイエル、私のご飯全部食べてくれたのね。カイエルの方がこんなに美味しいのに、ありがとう。」
自分が作った美味しくない食事をカイエルが完食してくれたことに、セレスティア恥ずかしくもあったが、何より嬉しさも込み上げていた。
「あ?なんだそんなこと当たり前だろ?番が俺の為に作ってくれた料理だぞ?残すなんてありえねぇし。」
カイエルは頬杖をついてぶっきらぼうながらにそっぽを向きながら言ってはいたが、顔が赤くなっていることをセレスティアは見逃さなかった。
ヤキモチ焼きだったり、時には強引だったり、照れ屋だったりと、一緒に住み始めてカイエルのいろんな顔を見ることができて、セレスティアは番がどういうものかは、まだよく理解はしていないが、カイエルを愛おしく思う自分に気付き始めていた。
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