114:引っ越しからの??
「へぇ~セレスティアは一人暮らしをするんだなぁ。俺が寮を出るときは結婚する時かな。」
ノアベルトは今のとこ、家事は面倒だと捉えていた。寄宿舎に居れば、食事や洗濯などは、寮母さん(寮母は既婚経験のあるご年配の女性と決まっている。若い女性を雇うと、若い竜騎士達と恋愛事情に発展しトラブルになりかねないからだ。)にやってもらえるからだ。
「俺は、当分予定はないな・・・食事とか身の回りのことで時間とられたくないからな・・・」
ケヴィンは趣味もあってか、家事の類で時間を取られることを嫌っていた。
「僕は、5年縛りが終わるまではここにいるよ。」
ハインツはそれとなく、予防線を張っておいた。ハインツは5年縛りが終われば、ラーファイルと暮らすからである。
「ま、別に職場で会えなくなるわけじゃないからね。」
テオはまだ下に兄妹がいることからできるだけ実家に仕送りをしたいと決めていたから、寄宿舎から出る選択はなかった。
「そうか、なんだかちょっと寂しくなるね。だけど女性だから、男ばかりの寮よりもその方がいいかもしれないけどね・・・。」
ルッツは、そうは言ったものの少し寂しそうな顔をしていた。何となくセレスティアが遠くに行くような気がしたのだ。実際寄宿舎での生活では、食堂で一緒になったりすることも少なからずあり、職場とは関係のない場所で少しでもセレスティアに会えた時は嬉しかったのだ。そういう機会がなくなることは、とても寂しく残念に思ってはいたが、当然ルッツがそれを口にすることはなかった。
「えぇ、職場では会えるからね。じゃ行くわね!」
こうして、セレスティアは飛竜のカイエルに乗って、新しい住居に飛び立っていった。
新しい住居は、飛竜がいることから、住宅街から少し外れていた。少し寂しいところではるあるが、カイエルの人化のことを考えると、人の目に触れないひっそりとした場所をわざと選んだのだ。中古物件ではあるが、二人で暮らすには充分な間取りもあり、飛竜が乗り降りできる、広い庭もあった。周りには木々もあって、自然を感じられる場所であった。
「ふふ、我ながらいい物件が見つかって本当に良かったわ!」
セレスティアはご満悦で、部屋の中をうろうろと見回っていた。
「ふーん、俺にはよくわからないけど、セレスティアが満足してるならそれでいいや。」
カイエルも住居の中では人化していた。カイエルは部屋にさほど執着はないようであった。
「なによ、張り合いないわねぇ~」
セレスティアはそう言いつつも可笑しそうであった。
「だってよ、そんなん気にしてたら竜厩舎で寝泊りなんかできねーだろ?」
「・・・言われてみれば、そうね。」
確かに、言われてみて納得した。
「えーと、ま、とにかく!」
セレスティアはそう言うと、カイエルの真正面に立った。
「?」
「カイエル、これからは同居人として、よろしくね。」
セレスティアはニッコリと笑い、カイエルに握手を求めた。
「お、おぅ。」
カイエルもセレスティアに握手をしたものの、ジッとその握手をした手をしばし眺め・・・そしてそのまま自分の方に引っ張った。
「!!」
その勢いでセレスティアはカイエルに抱きしめられる形になった。
「ちょ!や、約束が違う!!」
まさかそんなことをされるとは思ってもみなかったセレスティアは真っ赤になって抗議したが、カイエルはセレスティアを離さないとばりにしっかりと頭を抱えこんでいた。
「そう?俺前に言ったよね?」
「え?」
「遠慮はしないって。」
「!」
確かに思い起こせば、そんなようなことをカイエルが行方不明から帰って来た時に言ってたことを思い出した。
「で、でも・・・5年縛りが・・・」
セレスティアはしどろもどろになりながらも、規則である、5年縛りのことを告げていた。
「ん、知ってる。だから恋人になるのはあと4年弱くらいだろ?それは待つ。」
「だ、だったら!」
「恋人になるのは待つけど、こういう事まで待つとは言ってないから。」
「へ、屁理屈っていうのよ、そう言うのは!」
セレスティアは尚も抗議したが、カイエルは落ち着いた声で言った。
「セレスティア」
「何よ!」
セレスティアはちょっと怒っていた。
「セレスティアが本当に俺にこうやってされるのが嫌ならもうしない。」
「え?」
「俺にこうされるの、本当に嫌か?」
すると、カイエルは抱きしめていた手をセレスティアの顔に添えて、自分に顔を向けさせた。真正面には距離感の近いカイエルの端正な顔があり、その表情は真剣ながらも金色の目は色気を含んでいた。
「そ、それは・・・」
セレスティアはそんなカイエルの顔を直視することができず、真っ赤になって慌てて下を向いた。
「どうなんだ?」
だが、下を向いたにも関わらず無理やり上げられてしまい、セレスティアは、もうどうしたらいいのかわからなかった。
「うっうっう~」
こういったことに免疫のないセレスティアは既に半泣きになっていたのだ。
「ご、ごめん!!」
カイエルはセレスティアを泣かすつもりはなかったので慌てて、目に溜まっていた涙を拭った。
「すまん、ちょっと俺も焦ったみたいだ。ごめんな。」
カイエルはセレスティアの顔が見えないように、抱きしめた。
「次からはこういうことはしない。だけど・・・今だけはしばらくこうさせて欲しい。」
「・・・・わかった。」
セレスティアはカイエルに抱きしめられたまま、しばしその体勢であった。
引っ越し初日だというのに、急な展開に今後やっていけるのかと、セレスティアは不安な思いではあったものの、カイエルに抱きしめられた時、セレスティアは本当は嫌ではなかった。だけどそれを口に出すことは、今の自分の竜騎士である立場から憚られたのだ。
カイエル、ごめんね。あと4年、あと4年だから待って・・・
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