116:ソフィアの片思い~前編~

 「えーとお嬢さん、どういったご用件で?」


 ソフィアは何故か、竜騎士団支部の門の付近でウロウロとしていた。軍施設に貴族の婦女子が来ることなど、家族以外では普通はあまりないのである。何せ飛竜を扱う軍部であることから、未婚の女性は家族と婚約者以外は本来訪問することも禁じられているからだ。


 「こ、ここに黒髪で金色の目の背の高い男性がいたと思うの。その方に御目通りさせていただけないかしら?」

 

 ソフィアは思い切って門番に聞いてみた。だが先にもあるように、竜騎士団支部は仕事以外では身内と婚約者以外の面会は許可できない。それによくある話だったのだ。若い女性が竜騎士に懸想して凸してくることは。門番はソフィアも、そういった類なのだろうと思い、


 「あー悪いけど、お嬢さん。ここではそういったことは受け付けていないんだよ。ここにはまして飛竜もいるからね。危ないから帰りなさい。」


 「くっ」


 けんもほろろに追い返されそうになった。だが、ソフィアには秘策があったのだ。







 「・・・で、どうして貴方が私に会いに来たのかしら?」


 セレスティアは怪訝な顔をソフィアに向けていた。

 ここは竜騎士団支部の中にある、面会室である。門番から、セレスティアの身内であるソフィアが面会に来たと知らせがあり、ここでご対面となった訳であるが・・・

 ソフィアは確かにセレスティアとは名目上では姉妹ではあるものの、今までの経緯から仲は決して良くはない。セレスティアもまさかソフィアが訪問するなど有り得ないと思っていた。それ故、ソフィアが自分に面会をしにわざわざ来たのは何か裏があると確信していた。


 「・・・・別にたまたま近くを通ったから見にきただけよ。」


 「たまたまねぇ・・・」


 竜騎士支部は軍部施設である故、繁華街からは離れている。到底たまたま近くを通ったというには少々無理があるのだ。意図的に来たとしか考えられなかった。


 「単刀直入に聞くけど、何の目的でここに来たの?」


 「も、目的なんて?!」


 ソフィアは明らかに動揺していた。思い切りわかり易いくらいに。


 「た、たまたまって言ったでしょ!」


 「私が学生の頃に寮に入っていた時でさえ、一度も来たこともない貴方が?わざわざこんなところまで?たまたまで?へぇ~」


 セレスティアは明らかに、何か意図をもってここに来たであろうソフィアに容赦はなかった。


 「くうっ!」


 「何の目的があってか知らないけれど、私もこう見えて忙しいの。何も言えないならお引き取り願えないかしら?」


 ソフィアが何か意図があるのわかるが、口を割る気はないようだ。であれば、セレスティアとしてはいつまでも付き合ってやる義理はないゆえ、セレスティアは早々に見切りをつけた。


 「会いたかったのよ・・・」


 「え?」


 セレスティアはこの場から立ち去ろうと、椅子から立ち上がったのだが、話す気はないだろうと思っていたソフィアが何かを口走ったことで、その動作は止まった。


 「会いたかった?一体誰に?」


 この中でソフィアが知っていると言えば、自分と叔父であるユージィンくらいだ。その他だと誰の事なのかと思ったら、


 「あんたが、この間家に連れてきていたでしょ?!黒い髪の金色の目の背の高い男性よ!!その人に会いに来たのよ!!」


 ソフィアは顔を真っ赤にしながら一気にまくし立てた。


 「え・・・まさか・・・」


 さすがにセレスティアも誰の事を言っているのかわかっった。ソフィアがわざわざここまで来たのは、カイエルに会いにきたのだと。そしてそれがただならぬ感情を持っていることにも、ソフィアの赤くなった顔を見て、合点がいったのだ。

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