103:朱炎の舞~前編~

 「獣人の舞姫かぁ、どんなんだろ?俺初めて獣人を見るかも。」

 「おい、誰だよ?団長の横にいる、あの美女軍団?」

 「あそこだけ、俺の目の錯覚かキラキラのエフェクトが見えるんだが。」

 「禁欲生活にめちゃくちゃ目の毒じゃねぇか!」

 「眼福過ぎて、目がもげたらどうしよう?」

 「あの男共誰だよ?」

 「てか、王子も来てるのはなんでだ?一介の踊り子の上演だろ?」

 

 ここは、竜騎士団支部にある会館の中であった。ここで、エメリーネの踊りを披露してもらうことになったのだ。そこで竜騎士達やデスクワークをしてる後方支援部にも『舞姫の踊り』があると声をかけたところ、思いの外反響があり想定以上の人数が集まったのだ。当然のことながら、ガヤガヤと騒がしくなっていた。


 そして、その中には


 「ふむ、中々に想像しいのぉ」


 「ふふ、君の美しさに騒がずにはいられないんだよ。」


 「そういうことなら、致し方あるまいな。」


 『竜の祖』である、アンティエルと番のフェルディナント王子も観覧しにきていた。そして他の姉弟である、


 「あ、いたいた!見て見て!ダン!あそこにいる、ちょっと目立つピンクブラウンの髪の人が僕の番なんだよ!」


 「ちっ、姉貴はいいな。俺なんか・・・」


 ラーファイルはハンイツは離れたところにいるのを見付けてはしゃいでいた。ダンフィールは絶賛失恋によって落ち込み中である。


 「しつけーな。番でもない女に何時まで引きずってんだよ。」


 「なんだと?!」


悪態をつくカイエル、そして、


 「カイエル、そんな言い方しちゃダメよ。ダンフィールはその時その時、真剣な思いなんだから。」


 とイシュタルはカイエルを窘めていたが、


 「姉貴、どの口が言ってるんだよ。この間、『番でもない女にいつまで未練たらたらなのよ!!』っとか言ってたじゃねぇか!」


 「・・・そういえば、そんなこともあったわね。」


 イシュタルは明後日の方向を見てシレっと流していた。隣のユージィンは声を押し殺して笑っていた。


 ちなみに、『竜の祖』とフェルディナント王子の観覧場所は別途に設けられていた。さすがに王子がいるとなると、同じ場所に騎士たちと並んでという訳にいかなかったからだ。それでも会館の中なので、距離感としてはさほど離れてはいない。


 「・・・想像以上に盛況になっちゃったわね。」


 セレスティア会館の舞台袖から、広間の様子を見ていた。今回の『舞姫の踊り』の上演には、セレスティアが取り仕切ることになっていた。だが、こんな規模になるとは、全くの予想外だった。


 「エメリーネさん、なんだか思ってた以上に人が集まってしまったんだけど、大丈夫?」


 「だ、だ、だ、だ、だ大丈夫です!」


 明らかに、エメリーネ緊張していた。既に舞姫の衣装に着替えをすませ、今はガウンを羽織っていた。


 「ご、ごめんなさいね。私もまさかこんなに人が集まると思わなくって・・・」


 セレスティアは、想定よりも大事になってしまい、ちょっと申し訳なく思っていた。


 「い、いえ!本当に村ではどうせたくさんの村人の前で踊るんです!予行練習だと思えば!」


 完全に彼女は自分に言い聞かせていた。


 「あ、あとはこの『炎舞の腕輪』を装着して・・・」 


 そういうとエメリーネはガウンを脱ぎ、腕に腕輪を装着した。その瞬間、エメリーネは赤い炎のような光に包まれた。


 「ちょっ!エメリーネさん?!」


慌てるセレスティアはとは真逆にエメリーネはホッとしていた。


 「・・・良かった。腕輪に認められたみたいです。」


 「認める?」


 「はい、確かに舞姫は占いによって決まるんですが、合否はこの『炎舞の腕輪』が決めるのです。ふさわしくないと光ってくれないんですよ。びっくりですよね。」


 「なかなか、気難しい腕輪なんですね。」

 

 「はい。」


 そういうと、少しはにかんでエメリーネは笑った。


 「では、呼びかけたら、舞台にお願いします。」


 「は、はい!」


 エメリーネは、腕輪に認められたことで、自信がついたようだった。







 その頃_____


 「なっ!!!」


 ダンフィールは、当然雷に打たれたような衝撃を受けた。


 「あれ?この感じ?」


 カイエルも何か感じたようだ。


 「まさか?!」


 ラーファイルも驚いていた。


 「い、今まで何も感じなかったのに、どうして?」


 イシュタルも驚いていた。


 「ふん、まさかこんな間近にいるとはのぉ。」


 アンティエルは口角を上げ、面白そうにしていた。

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