104:朱炎の舞~中編~


 会館の壇上には、セレスティアが角に立ち、挨拶を始めた。


「この度は急な事にもかかわらず、お集まりいただきありがとうございます。私は司会・進行を務めます、セレスティア・ローエングリンです。」


 (ただ、お礼ってことで舞いを見せてもらうはずが、まさかこんな大事になるなんて・・・)



 

 あの時_____


 「うん!やっぱりイシュタルにも見せたいし、舞姫なんて見る機会も早々ないからね。どうせなら、大々的にイベントにしてしまおう!」


 「ええっ?!」


 と、ユージィンの鶴の一声で決まってしまった。


 「あ、あの、まずは本人に、エメリーネさんに確認してからでないと・・・」


 「はは、大丈夫だよ。言い方悪いけど、腕輪の恩人の頼みなんだよ?それに見る人が増えるだけでやることは変わらないんだし。」


 セレスティアは(叔父様、鬼です。)と心の中で突っ込みを入れていた。


 「で、でも、やっぱり。」


 「ね、セレスティア?」


 ユージィンは言うなり、セレスティアの両肩に手をかけ、説得しにかかっていた。

 

 「ぶっちゃけ、竜騎士団は野郎ばっかりだ。それはわかってるよね?」


 「はぁ、ま、まぁそうですね。でも今更のことじゃ・・・」


 「そこでだ!!やはり団長としては皆の士気(モチベーション)が上がる何かをしてやりたいんだよ。」


 「えーと、それはつまりエメリーネさんの舞いを見たら、皆の士気が上がるってことですかね?」


 「ふふ、飲み込みの早い姪っ子で嬉しいよ。」


 ユージィンは白々しい笑みをしていたが、結局、セレスティアとしては上官命令という事で、エメリーネの意思は関係なく急遽イベントになってしまったのが、真相であった。


 本当にそんなことで、士気が上がるのかと思っていたが・・・

 実際目の当たりにして、叔父ユージィンの言っていたことは、嘘ではなかったんだなとセレスティアは驚いた。この盛況振りをみれば、本当にモチベが上がっているように見えたからだ。(まぁ、恋愛5年しばりがあるから、たまには息抜きも必要なのかもしれないわね。)ここまで読んでいたとは、さすが団長だと思い、自分ももっと大局を見るように頑張らなければと心の中で拳を握っていたセレスティアであった。





 「てか、さぁ?」


 「何、ノアベルト?僕今微調整で忙しいんだけど?」


 「だってよぉ!舞姫だぞ!どうせなら向かい合って見たいじゃねぇか!」


ノアベルトは愚痴っていた。セレスティアを初め、今期の新人が裏方の照明や音楽などを担当しているからだ。そう言うわけで、裏方のメンバーは舞台裏にいた。


 「そぉ?僕は、ここはここで役得だと思っているけどね?」


 テオは喋りながら目は照明の位置を確認していた。

  

 「なんで、ハインツだけ無事だったんだ・・・」


 「だって、人数的に4人で事足りたからでしょ?」


 「だぁーーー!なんでお前はいつもそんなあっさりしてるんだ?!」  


 「煩いなぁ。だったらハインツと変わってもらえればよかったじゃん。」


 「そ、それは、まぁそこまでするほどじゃないかなっと・・・」


 ノアベルトは取り敢えず愚痴りたいだけで、そこまでは思っていなかったようだ。


 「なら、男ならグチグチ言わないでやる!セレスティアを見てごらんよ。一人で司会やってんだから。」


 ルッツに窘められ、ノアベルトもようやく落ち着いたようだ。


 「わかったよ。」


 「お前はまだいい方だ、俺は・・・」


 ケヴィンは楽器を持っていた。音楽担当だからだが・・・


 「!そうだった。ごめん。俺下らないことで愚痴ってた。」


 ノアベルトは自分よりもケヴィンの方が大変なことを思い出し、素直に謝った。


 「俺も、こんな人前でとはいっても、裏方だけど演奏する羽目になるとは思わなかったからな・・・」


 「まぁ、あれだけの腕前だからな。人選としては妥当だと思うよ。」


 ルッツは同情した眼差しを送りつつも、セレスティア人選は間違っていないと賛同していた。


 「まぁ、家で昔からやらされていた事だったけど、それが性に合ってたものでな。」


 実はケヴィンは素人とは思えないくらいの腕前を持つ、ヴァイオリンの奏者であった。

その事から、セレスティアから音楽担当を任命されてしまったのだ。ノアベルトとテオは照明、ルッツは幕引き担当である。ちなみに先にもあったように、ハインツは何も担当に当たらなかったので、他の竜騎士と同じように、会場にあたる広間で見物となった。だが、これはセレスティアなりの気遣いで、会場にいたほうがラーファイルとハンイツがお互い見えるだろうとの配慮からのモノなのだが、当然他の4名は知らない。


 「そんだけ上手いのに、プロにはなりたいと思わなかったの?」


 テオはケヴィンのヴァイオリンの腕前が素晴らしいことを知っていた。ケヴィンの飛竜ランカがヴァイオリンの音を気にいっていて、何度か竜の厩舎で引いていることを知っていたからだ。ちなみに言うと他の飛竜もケヴィンの引くヴァイオリンを気にいっている。


 「いや、俺は趣味の範囲でしたいだけだからな。これで食べて行こうとは考えなかったな。それよりも竜騎士になりたかったから、まぁ、ここにいるわけだが・・・」


 ケヴィンが珍しく、饒舌で語ったことに皆驚いたが、納得もしたのだ。


 「そうだな。だから俺達竜騎士になったもんな。」


 皆が揃ってニヤリと笑った瞬間、セレスティアの拡声器を使った声が聞こえてきた。





「それでは、お待たせしました。シェスティラン共和国より参られました、舞姫のエメリーネ・オルタさんの登場です。」

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