87:セレスティアは実はモフモフに弱かった。

 「単刀直入に言いますね。アレは貴方が持っていても仕方のないものです。返していただけませんか?」


 豹の獣人の女、ディアナは直球で用件を伝えてきたが、『アレ』という意味深なワードは残したままであった。


 「へぇ・・・なぜ僕がそのアレとやらを持っていると?」


 ユージィンも敢えて『アレ』については、突っ込みをいれず、質問を返した。


 「あの遺跡の周りは森です。森の中には私達獣人の祖達である、獣たちがいます。私の眷属に聞けば、なんてことはなかったです。」


 「なるほどねぇ、そういえば君たち獣人は元となる同じ種であれば意思の疎通ができるんだったね。」


 獣人は、同じ種族、例えば犬族であれば、動物の犬との意思疎通が可能なのである。だが、稀に他種族と意思疎通ができるものもいるのだ。


 「えぇ、だから貴方が持って行ったことは知っているの。だから返して欲しいのです。」


 ディアナは表情はニコニコとして、やんわりと言いつつも主張ははっきりとしていた。


 「んー、返せっと言われてもねぇ。そもそも『アレ』とやらが君のだっていう証拠はあるのかい?」


 ユージィンも笑顔を崩さす聞き返していた。 


 「あの遺跡の場所に辿り着いたのが何よりの証拠だと思いますけど?あそこは普通では行けませんから。」


 「はは、それでは証拠にはならないよ。そんなこと言ったら、トレジャーハンターは全員自分のモノと主張することができるじゃないか。」

 

 「も~しょうがないですね、ならこれ見てください。」


 ディアナはちょっと拗ねたような仕草をしつつも自身が持っていた鞄から、とあるアイテムを取り出して、テーブルに置いて見せた。


 「ほぅ・・・これは?」


 ユージィンも興味有り気に、そのアイテムをマジマジと見つめていた。

 




 王都___



 「獣人・・・だったんですね。」


 セレスティアは実は獣人を見たのは初めてであった。兎族と名乗った彼女エメリーネは、兎特有の長い耳を持ち、赤茶色の長い髪を二つにおさげをして眼鏡をかけていたが、眼鏡の奧の瞳の色はマーブル模様、虹彩色を持つ特徴的な瞳であった。


 「はい。あの・・それでお名前を教えていただけませんか?」


 「あ、あぁ失礼。獣人を見たのは初めてだったもので。私はセレスティア・ローエングリンと言います。」


 「セレスティアさん・・・ステキなお名前ですね。」


 そういうと彼女はニッコリと笑ったのだが、セレスティアは堪らなかった。何せ目の前にある耳は兎の耳なのである。(可愛い!!モフモフしたい!)実はセレスティアは動物好きであったので、目の前にいる兎の耳を持つエメリーネに少々興奮していた。(注:断じて性的な意味ではない)


 「?あのセレスティアさん?」


セレスティアは声をかけられ、自分が少々取り乱したことに気が付いた。


 「あ、あぁ、何度も失礼しました。それでは、私はこれにて、「あの!」へ?」


 セレスティアは自分が仕事中だということに我に返り、本来の目的(お菓子を買う事)を遂行しようとしていたのだが、エメリーネに呼び止められてしまった。そしてエメリーネの顔をよく見るとなんだか思い詰めていた。


 「えっと、まだ何か?」


 さすがにセレスティアも様子がおかしいことに気が付き、もしや厄介なことを持ち込まれるのでは?という予感めいたものが働いた。


 「あの、助けてもらったばかりな上、こんなことを言うのは図々しいのを承知の上で言うのですが、どうか、私に協力を・・・ご助力いただけないでしょうか?!」


 「!」


 やっぱり!と思ったものの、エメリーネは瞳はウルウルと涙目になって懇願しており、その姿は正に小動物を彷彿するもので、セレスティアの琴線に触れていた。(か、可愛いーー!だ、だめよ、セレスティア!兎の可愛い姿に惑わされちゃあ!)彼女の中で厄介毎は勘弁したいという気持ちと、ほっとけないという気持ちがせめぎ合っていたのであった。


 「ど、どうして私に?」


 「すみません、すみません!私ここまで一人ぼっちで来たのはいいんですが、知り合いもいないしどうしたらいいか、途方に暮れていたんです。そこへ助けてくれたセレスィアさん貴方を見て、ピンと来るものがあったんです。信じてもらえないでしょうが、うちの家系は代々『直感』は信じろという家訓があるんです!」


 なに、その信憑性の薄い話!とセレスティアは思ったが、思いのほかエメリーネの顔は真剣で今にも泣きそうになっている様子を見て、セレスティアは溜息を付いた。


 「わかりました。お話しだけでも伺いましょう。」 


 セレスティアは結局ほっとくという選択肢を選ぶことはなかった。 

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