88:旅の理由

 セレスティアとエメリーネは話を聞くために、個室のあるカフェに入った。



 「本当にごめんなさい、ごめんなさい!ご迷惑になるのは、わかってはいるんですが、本当に私一人ではどうしたらいいのか、わからなくて・・・」


 そういうとエメリーネは、またグスッと泣きそうになっていた。


 「いえ、お話しを伺うと決めたのは、私なので。ただ一つだけ、念を押しておきますね。」


 「は、はい!」


 「あくまでお話しを伺いますが、必ずしもご協力できるとはお約束できませんので、そこはご了承いただきたいです。」


 当然だが、セレスティアは万能ではない。ぶっちゃけると『竜の祖』であるカイエルが番にいるし、懇意にしている『竜の祖』であるイシュタルやアンティエル、ラーファイルがいることから、何とかできるかもしれないが、まだ親しくもない相手に(いくらモフモフが可愛くても)安請け合いしたくないこともあるし、変に当てにされても困ることから、事前に予防線を張っておいた。それを聞いたエメリーネは何度も頷き、 


 「も、もちろんです。まずは私がなぜここフェリス王国まで来たのかお話しします。ただ、もし知っていることがあれば、教えて欲しいのです。」


 セレスティアは、エメリーネは恐らく本当に手がかりがなくて、藁にもすがる気持ちで自分に打ち明けるのだろなと思った。


 「・・・わかりました。」


 「あ、ありがとうございます!」


 パァッと明るい笑顔になったエメリーネであるが、必ずしも役に立てるか確約できる話かどうかもわからないだけに、セレスティアはの良心はチクリと傷んだ。


 「え、えと私はシェスティラン共和国にあるラパルという村から来ました。」


 シェスティラン共和国、それはアルス・アーツ大陸の五大国家のうちの一つで、獣人の国である。首都と呼ばれるバーナビーには、様々な種族の獣人が集っているが、基本的に獣人は、同じ種族で街や村が形成されていることが多いのだ。だが近年では首都を中心に各地で他種族同士で暮らす街や村も増えてきているのが昨今の状況である。それでも、人族に対しての偏見はまだ残っていた。そういう意味では、エメリーネのように初対面から低姿勢であるのは珍しかった。

 また専制政治ではあるものの、世襲制ではないのが、この国の特徴でもあった。獣人らしく、決闘をして王を決めるのが習わしであったからだ。つまりは実力のない物は統治せずに能わず、ということである。


 「私の村では、代々伝わるあるモノがあったのですが・・・」


 「代々伝わるあるモノ?」


 「はい、それについては後で詳しく話しますが、それが先日盗まれてしまったのです。」


 何となく話が見えてきたなと思ったセレスティアは、


 「もしかしてなんですけど、ソレがここフェリス王国にあるってことですかね?」

 

 「凄いです!まだ全部お話していないのに、どうしてわかったんですか?!」


 エメリーネは心底感心して驚いていた。

 

 「・・・・・」


 いや、今の話の流れなら誰でもわかると思う、とセレスティアは突っ込みを入れそうになったが、敢えて伏せていた。


 「続きですが、私の村で占いに長けている者がいまして、その者の占いによると、ソレはフェリス王国にあるというのです。」 


 「ですが、どうして貴方がここに?失礼ですが、旅慣れもしていなさそうですし、女性よりも男性の方が任務としては適任だったと思うのですが・・・」  


 セレスティアは疑問だった。いくら獣人で身体能力が高いとはいっても、やはり女性だからだ。それに彼女は獣人にしては控えめな性格なようなので、本当にここまでよく辿り着けたと思ったのだ。というのもシェスティラン共和国はフェリス王国とは国を三つは挟むほどの距離があるので、通常であれば10日、獣人の足でも1週間以上はかかる距離にあったからだ。故に女性一人に捜索をさせるという行為に疑問だったのだ。


 「は、はい仰ることは、ごもっともだと思います。ですが、その占いによりますと、奪還するには、私一人で赴かなければいけないということだったのです。だから一人できました。」


 セレスティアには理解できないが、エメリーネの住む村では、占いとやらが重要視されているようであった。


 「それは、・・・女性一人で大変でしたね。」


 セレスティアは、先程の粗暴な輩に絡まれていたのを目の当たりにしていただけに心底同情していた。


 「はい、本当に、先程のような荒くれ者に絡まれるのも一度や二度や三度ではなかったので・・・」


 エメリーネは泣きべそをかいていたので、うんうん、そうだろうな、とセレスティアは思ったが、んんっ?と同時に疑問も沸いた。絡まれたのは一度や二度どころか三度ではない。ならばどうやってその場面を切り抜けたのだろうと思ったのだ。


 「えーと、そんなに何度も危ない目にあったのですか?」


 「はい!村を出てから、あんなに絡まれたのは初めてでした!そのたびに武術で撃退していましたが、私加減がいまいち掴めなくて、つい相手に必要以上に重傷を負わせてしまうのです。だからとっても怖かったです。グスッ」


 そう言いながら、エメリーネはまた泣きべそになっていた。

 えーと怖いの論点が少し違うのでは?とセレスティアは思ったが・・・あれ?もしかして私助けなくてもよかったのでは?と今更ながらに気付いてしまったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る