82:兆候
竜騎士団支部、団長室___
「ふーん、遺跡ねぇ。」
ユージィンは机に肘を付いて、自身の手の甲に顎を乗せていた。デスクの前には、セレスティアが立っていた。
「はい、テオから聞いた時に、縦長の瞳の男、というのが気になったので、念のためお耳に入れた方がいいと思った次第です。」
団長室には、ユージィンと副官のライモンドがいた。ライモンドも今では『竜の祖』のことは知っているので、同席している。セレスティアは昨日聞いた話を、『竜の祖』絡みが濃厚だと思い、ユージィンに報告することにしたのだ。
「はい、憶測ではありますが、『竜の祖』つまりはイシュタルさんやカイエルの兄弟ではないかと思っています。」
セレスティアは自分の見解を述べた。
「うん。間違いないよ。『竜の祖』だね。特徴を聞くに『ダンフィール』だろう。昨夜ラーファイルからも聞いてはいるんだ。ハインツがダンフィールと接触したらしいとね。」
「団長、もしかして、『竜の祖』がフェリス王国にまた来るのですか?」
ライモンドは、困惑した顔でユージィンに聞いてみた。
「んー現段階では、なんともいえないけど、可能性としてはないこともないだろうね。」
「なぜ、こんなにもフェリス王国に集中しているのか・・・」
ライモンドは独り言のように、小声で言っていたが、ユージィンは敢えて聞かなかった振りをした。
「ダンフィールのことは一応注意はしておいたほうがいいだろうね。何か目的があって来るのか、それともただ姉弟会いたさにくるだけなのか、どうなることやらだね。」
ユージィンはやれやれといった表情であった。
「・・・ま、ただその獣人の女性は少々気になるところだけどねぇ・・・」
「「?」」
番らしい獣人の女に、ユージィンは何やら思うことがあるようであった。
ペルニツァ王国に隣接している山の森の中にて、二人の男女の姿があった。一人はガタイのいい褐色の肌を持つダンフィール、土を司る『竜の祖』である。一緒に行動している獣人の女は、黒い猫のような耳に長い黒の尻尾を持つ、ロングの黒髪にオレンジ色の瞳を持つ、目のパッチリとした美女であった。女は溜息まじりに、
「はぁ、本当は人間なんて下賤な生き物は接触するのも嫌だけど、この際仕方ないものね~」
獣人の女は嫌々ながらも、フェリス王国に足を向けていた。
「この方角であっているのか?」
ダンフィールは確認していた。
「えぇ、あたしの眷属がソレを持った人物がフェリス王国の方向に行ったと教えてくれたの。ただ・・・」
「ただ?」
「もう数年前のことらしいのね。今も持っているのかはわからないの。」
ダンフィールは少し驚いたが、
「フーム、しかし他に情報がないなら、取り敢えず向かうしかないんじゃないか?」
「うん、何も手がかりがないよりはマシだものね。とにかく向こうに着いたらそれらしい人に確認しましょ。ただ正直話してくれるかはわからないけど。その時は・・・ダン、お願いね♪」
女は上目遣いに、ダンフィールを見たが、男もまんざらではなかったらしく、
「あぁ、任せろ!それに、」
「それに?」
「こちらの方が国は懐かしい気配があるんだ。楽しみだな。」
「懐かしいってどういうこと?」
獣人の女は怪訝な表情をした。
「あぁ、恐らく姉弟がいると思う。」
「!」
獣人の女は一瞬驚いたが、
「どうした?」
「・・・へぇ~そうなのね。『竜の祖』が他にもいるということなのね。」
「あぁ、会ったら是非お前を紹介しないとな!」
「うふふ、嬉しいわ。『ダンフィール』ちゃんと、他の『竜の祖』にあたしを紹介してね。」
「勿論だ!」
「・・・これは、チャンスかもしれないわね。」
「ん?何か言ったか?」
「うん、こんな機会滅多とないから、てね?」
「あぁ、楽しみだ!」
女は男に向かって微笑んだのでダンフィールは、都合よく解釈して頬を赤らめていたが、実際その目の意味は、愛しい人を見るソレではなく、嘲笑の意味が含まれていることにダンフィールは気付いていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます