54:フェルディナント王子の憂鬱
フェルディナント王子は悩んでいた。
初めてアンティエルに会った時、確かに胸が高まるモノはあったのだ。だが、初めての出会いが幼児姿だったために、認めたくなかった。しかしそれは杞憂でアンティエルの大人の姿を見た時に、胸の高まりは間違いではなかったと、納得することはできたのだ。しかし、元々はセレスティアを意識していたのに、己の変わり身の早さに自分で呆れなくもなかったが、番の縁とはそういうものだと、ユージィンに言われたことで少し心は軽くなった。
ただ、展開があまりにも急すぎて、いきなり番と言われたことに戸惑いはあった。聞けば、セレスティアもローエングリン団長もハインツとかいう新人竜騎士も、竜の番になっていると聞いて驚いた。まさか自国で『竜の祖』がこんなにも続々と現れているなど、どう考えても異常事態としか思えなかったからだ。
もしコルネリウス王がこのことを知れば、竜の加護がフェリス王国にあると思い込んで大いに喜ぶであろうことは想像に難しくなかった。何せ、自分でさえも一瞬そう思ったほどだったからだ。だが、それを見透かしたユージィンにフェリス王国に竜の加護がある訳でも何でもないから、勘違いしようにと釘を刺された。
コルネリウス王は、権力を誇示したがる傾向があることは、周りにいるものなら誰しも知っていたからだ。フェルディナント王子は、ダメ元であろうと話さない訳にはいかないことから、意を決してコルネリウス王に話をした。
あれから、しばらくして、ユージィンの元にフェルディナント王子は竜騎士団支部にやってきた。
団長室____
「結論をいうと、父上からは『信じがたい。事実であるなら竜を見せてみろ。』とのお達しだった。」
フェルディナント王子は、少々疲れた様子であった。
「ふふ、まぁそうでしょうね。にわかに口頭だでけでは、信じられない話ですからね。」
ユージィンは、何となくコルネリウス王とフェルディナント王子のやり取りが想像できたため、少し笑ってしまった。
「あぁ、そう言うわけで、『竜の祭壇』の手筈を頼むよ。」
「わかりました。早速段取りをしましょう。」
「すまないが、よろしく頼むよ。」
「あぁ、もしアンティエルに会いたいのでしたら、私の家にいますから、寄ってくださって結構ですよ。」
「!なんで、わかったんだ・・・」
数日しか間は空いていないが、フェルディナント王子はアンティエルに会いたいと願っていた。それを何も素振りを見せても口にもしていなかったのに、心の内がバレていたことに驚いた。
「そりゃ、ね。番ですから、そういうものなんですよ。僕がそうなので、わかります。」
ユージィンがにっこりというと、
「そうか、ローエングリン団長もだったものな。お気遣い感謝する。帰りに少し寄らせてもらうよ。」
「えぇ、ご遠慮なく時間の許す限りごゆっくりしてください。」
まさかのユージィンの申し出にフェルディナント王子は素直に嬉しかった。
そうして、そう間も空けずに『竜の祭壇』にて、コルネリウス王とアンティエルの会合の日となった。この日は、セレスティアもハインツも同席することになっていた。
だが、セレスティアはまさかここで、カイエルとの関係性が変わるなど、夢にも思っていなかったのである。
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