55:アンティエルの威迫~前編~
竜の祭壇____
竜の祭壇には、ユージィンの手筈に寄って、厳選されたメンバーのみの顔触れとなった。竜との会合という事から、箝口令も敷かれていた。
「ふむ、仰々しいな。まぁ『竜の祖』と相見えるとなれば、当然か。」
「ディーン、妹君から何も聞いていなかったのか?」
「あぁ、何も聞いていないな。」
この場には、フェルディナント王子の近衛騎士である、セレスティアの兄のディーンも同席していた。前回は実家の所要でフェルディナント王子の竜騎士団の視察には付いてこれなかったのだ。今回ブルーノ・ヘルモントは同席していなかった。
ディーンにしてみれば、寝耳に水であった。妹が竜騎士になっただけでも、注目であったのに、『竜の祖』の番になっていると聞かされて、いつもは冷静なディーンもさすがに鳩が豆鉄砲を食ったような顔になったらしい。
この場には、コルネリウス王、宰相、王の近衛騎士3名、フェルディナント王子、王子の近衛騎士3名がいた。竜騎士団から、ユージィン、副官のライモンド、セレスティア、ハインツの4名だ。4名はそれぞれの飛竜も一緒に待機していた。あとは、セレスティアの父である、セス・ローエングリン伯爵も同席していた。少人数で、極秘の会合が行われようとしていた。
ライモンドが前にでて、初めの言葉を述べた。
「皆さま、お集まりいただきありがとうございます。私は竜騎士団の副官の任についております、ライモンド・マンシェと申します。事前にお話はあったとは思いますが、再度念押しの為に通告させていただきます。ここで見たことは他言無用でお願いいたします。もし他言した場合には、それ相応の処罰が下ることになりますので、努々お忘れなきようお願いいたします。」
そう言っているライモンドではあるが、実はライモンドも聞いたばかりなのだ。ユージィンから番の話を聞いた時、驚きはしたもののイシュタルたる紅玉の飛竜イールが昔から能力が突出していていたので、逆に聞いて納得はしたのだ。
「では、『竜の祖』たる、アンティエル様とラーファイル様のご入場です。」
ライモンドがそう声をかけると、観客席下の登場口から、アンティエル(大人バージョンである。)とラーファイル(女の子バージョンである。)の二人が出てきた。その瞬間、王も含む全員が跪いた。
「うむ、皆の者、来るしゅうない。面をあげよ。」
「やだな、なんか皆余所余所しいね?」
ラーファイルはマイペースで緊張感は全くなかった。
顔を上げた面々は、アンティエルとラーファイルを見るなり息を飲んだ。何せ、二人とも、突出して美しいからだ。竜の人の身とは、こんなにも見目麗しいとは想像もしていなかったのである。それに正直なところ、竜の身を見ていないのもあり、話は聞いてはいても多少半信半疑なところもあった。
『ギュルル』
「そうだね、ではイールもお願いできるかい?」
『キュル!』
イールは飛竜のまま前にでて、アンティエル達と並んだ。そして眩い光を放ったかと思うと、そこには赤毛の妖艶な女が現れた。
「んふふふ。」
「おぉ!!本当に飛竜が女人の姿に!」
「女神がいる・・・」
「なんと美しい!」
「竜というものは斯くも端麗とは・・・」
飛竜から人へと変化をするのを目の当たりしたことで、その場は騒然とし、驚きと感嘆が入り混じっていた。先ほどまでの疑心暗鬼がイシュタルの変化を見て、吹き飛ばされてしまったのだ。勿論これは、ユージィンがわざとそういう演出を狙ってやったのだ。やはり目の当たりにした視覚に訴えるほうが効果的であることはわかっていたからだ。
「カイエルも行ける?」
『ギュウ~~・・・』
カイエルの返事の仕方で、セレスティアはわかった。気乗りはしないんだなと。だが事前に必要なことだと、ユージィンからも番として必要なことだから、協力してほしいと言われていたので、渋々カイエルは承諾したのだ。
「お願いね。」
『ギャウ!』
カイエルはヤケクソ気味で、アンティエル達のところに行き並んだ。そして、イシュタルと同じように、飛竜から人の姿となった。だが、その様子は不貞腐れていた。
「おぉ~男もいるのか!」
「イケメンじゃないか。」
「ガタイがいいな。」
「愛想がないな・・・」
セレスティアはカイエルの気が進まないのはわからないでもなかった。見世物になっているようで嫌なのであろうと。だが、フェルディナント王子がアンティエルの番であるならば、隠し通せる案件ではないので、クリアしなければいけない問題であったのだ。
ディーンとセスもかなり驚いていた。この黒い飛竜から人に変わった男がカイエル、セレスティアの番と称するものだということに。だが、セスもディーンも心は決まっていたのだ。
コルネリウス王は、かなり高揚してた。自分の息子が王子が、目の前にいる『竜の祖』の番に選ばれたということに。アルス・アーツ大陸の国は他にもあるのに、このフェリス王国に『竜の祖』が集約している現実が目の前にあることから、興奮が止まらなかったのだ。フェルディナント王子から、注意は受けてはいたのにも関わらず、コルネリウス王はつい言ってはいけないことを口走ってしまったのだ。
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