4.
「うう、、ん」
いつの間にか眠ってしまっていた。
今 何時だろうか?
いや、その前に、風景がいつもと違う。
「ここは?」
身を起こして見回すと、ベッドのわきには大きなプロレスのリングがそびえ立っていた。
立ち上がったサトルがリングのまわりをぐるりとまわると、それは赤コーナーしかなかった。
「ここはミサの家か?」
ハっと気づいて自分の手を見ると、まん丸で指がなかった。
そしてブーツに上半身が裸のプロレスの格好をしているのを確認したころにはすべてを理解していた。
「つまり、オレは今どうぶつの町にいるってことだな?
ははっ、完全に夢じゃねえか。
くだらねえ・・・」
どうせ夢ならリアルバージョンの町でも見て回るかと、玄関に向かって歩き出したところで、そのドアがバタンと開いた。
「ミ、、、ミサ?」
パンクロッカーミサの登場である。もはや何の不思議もなかった。
「やあ、ひさしぶりだな。
夢でも会えるのはうれしいよ」
サトルがそう話しかけると、ミサは無言でサトルの手をつかんだ。
まん丸の手と手が重なり合っただけでも、ちゃんと手をつないだ感触がある。
「ミ、、、、サ???」
ミサはそのままサトルの手をぐいっと引っ張り、プロレスのリングに向かって歩き出した。
「ちょ、、、何を?」
ロープを押し上げてリングの上にサトルを引っ張り上げると、さらにそのまま対面のロープへ向かってサトルを放り投げた。
「うわっ!」
ロープに跳ね返ったサトルの胸にパンクロッカーミサは思いっきりチョップを叩き込んだ。
「げふっ! 」
咳込むサトルに背を向けて2、3歩離れたミサはくるりとサトルの方に向き直って構えた。
「目を」
サトルに向かって駆け出したミサは
「覚まして!!」
ジャンプとともに両足を揃えてサトルの顔面に飛び込んだ。
「うぐうっ!!!」
態勢を崩したサトルはそのまま後ろへ倒れ込む。
仰向けになったサトルの視界にパンクロッカーが現れるとまん丸な手を差し伸べた。
一体何が起きているのかわからないサトルは、それに応えるように手を差し出すと、ミサはその手をぎゅっと握った。
「ミサ、、一体どういう」
ミサはサトルの言葉を聞くこともなくつかんだ手を引っ張り上げると、その脇の下に首を突っ込んで、サトルを立たせた。
「え、、、?」
そしてサトルのパンツをへそのあたりでガシっとつかみ、そのままサトルの身体を大きく真上へと持ち上げた。
「うわーー〜〜〜っ!!!」
サトルの身体は逆さになるまで持ち上げられた後、そのまま背中からリングへと叩きつけられた。
「ごふっ!!」
サトルは苦悶の表情を浮かべながら仰向けで動くことができない。
いくら自分がプロレス好きといえど、何の脈絡もなくいきなり技をかけられるのは、
「バタっ!」
目を開けることのできないサトルの胸に何かが覆いかぶさってきた。ミサが上からサトルの両肩を押さえつけているのだ。
「ワン!」
プロレスでは、両肩を押さえつけられたままワン、ツー、スリーと、3つカウントを取られたら負けになってしまう。
「目を覚まして!」
「ミ、、ミサ、、」
人の上に乗っかって目を覚ませもへったくれもないだろ!
「ツー!!」
目を・・・?
「スリ、」
「がばっ!!」
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サトルは右肩を跳ね上げて目を覚ました。
プロレスでは、スリーを数え終わらないうちに片方でも肩がマットから持ち上がればセーフなのだ。
が、そんなことはどうでもよかった。
「ここは・・・?」
白いカーテンで仕切られた空間にせまいベッドが置いてある。
サトルが目を覚ましたのはリングの上でも自分の部屋でもなかった。
「病院?」
ぐいっと首を起こして足元を見ると、学生服姿のミサが目を丸くしてこちらを見ている。
そのうしろにはユーレイでもみるような顔をしたオカン、つまりサトルの母親が丸イスに座っていた。
「・・・・」
じわじわと状況がつかめつつあった。
母親はもつれるような足取りで病室を出て行った。父親を呼びに行ったのだ。
ミサは両手で口をおさえ、目には涙が表面張力限界までたまっている。
何か言葉を発せる状態ではなかった。
サトルには聞きたいことが山ほどあったが、何かがのどにつっかえて出てこない。
どのくらい時が止まっていただろうか?
やがて、その何かが口から出てきた。
「おはよう」
--- END -----
「おはよう」はいつもボクから。 鈴木KAZ @kazsuz
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