第7話 これって、デートってことでいいですか?〜香凜編〜

「…………」


 人生最大の黒歴史製造日から一変、俺は待ち合わせ時間の1時間ほど前に、駅前に到着していた。

 家に1人でいると、悶絶しすぎて死にそうなので、昨日よりも早めに来たのだ。


「どうせ香凜かりんは遅れてくるはずだし、座って寝てようかなぁ」


「誰がどうせ遅れてくるんですか!」


「うぉっ!?」


 見上げると、そこには見知った後輩の顔があった。

 上下同じ柄のトップスと少し短めのパンツに、靴は白のスニーカー、背中にはリュックを背負い、帽子を被っている。

 お洒落というよりは、"スポーティー女子"って感じの格好だが、素材が良いのだろう。凄く可愛く、魅力的に見える。

 香凜のとてもメリハリのある健康的な身体のラインに思わず見惚れてしまいそうになる。


「先輩早すぎじゃないですか? もしかして、私とのデート、楽しみにしてたんじゃないんですか?」


「ちげぇよ。てかお前こそ、なんで1時間前に来てるんだよ」


 俺は朝からグイグイ攻めてくる後輩に反撃を仕掛ける。


「!? それは、楽しみ…………じゃなくて、"楽シーチキンの大冒険"の新刊を買って、読みながら先輩を待ってようと思ったからです!」


「どんなタイトルだよ!? 絶対面白くねぇだろそれ!?」


 ストーリーが全く思い付かないんだが。


「まぁその話は置いといて……早速行きましょう!」


「分かったよ。で、どこに行くんだ?」


「ショッピングモールです!」


「ショッピングモール?」


 そう言って香凜がスマホで見せてきたのは、知らない人はいないであろう、映画館も併設したデカいショッピングモールの写真だった。


「そうですけど…………嫌でしたか?」


「嫌とかじゃなくて……意外だなぁと思って」


「意外?」


「うん。香凜ってショッピングってイメージないからさ」


 俺的には、美咲がショッピングモールに来て、香凜とはFirst round に行くかと思っていたんだけど……見事に真逆になったな。


「…………先輩って私のこと、ピチピチの美少女JKだと思ってないですよね?」


「自分で美少女とか言うな! しかも真顔で!」


「え? だって、美少女でしょう?」


 自己評価高くね!?

 まぁ事実、可愛いとは思うけど。

 それより、俺を『え? 先輩、目腐ってません?』みたいな感じで見ないで! 俺がオカシイみたいじゃん!


「はぁ…………もういいです。予定を変更します! 先輩には私のこと、可愛いって思ってもらいますからね!」


 可愛くないなんて一言も言ってないんだけど…………まぁ、いいか。


         *


 気持ちご機嫌斜めな香凜に連れられ、ショッピングモールに到着する。


「うぉ、相変わらず人が多いな……それで? まずは何をするんだ?」


「まずは、洋服屋に行きます! とりあえず、私のことをピチピチの美少女JKって思ってもらいます!」


「いやそのワード好きだなおい! 絶対誰かの台詞セリフだろ!」


「楽シーチキンの大冒険に出てくるヒロインの真似です!」


 え? それって本当にある本なんだ……

 てか余計ストーリーが分からないんだが!?


「まぁその話は置いといて」


 また置いとかれたよ。一生置いて置かれそう。


「とりあえず、行きましょうか!」


 香凜はそう言って、俺の腕に抱きついてくる。

 分かっているのかいないのか、彼女の柔らかい部分が俺に押し当てられる。


「勘違いしないでくださいよ先輩! 人が多いからこうしてるだけです。って、あれぇ〜? もしかして、また私の胸堪能しちゃってます〜?」


 ニヤニヤと笑う香凜。

 こいつ絶対わざとやってるな?

 クソゥ。こんな後輩なんかに負けてたまるか!


「ん〜…………そんなにない胸なんぞじゃ堪能できないなぁ」


 ニヤニヤと笑い返す俺。


「あ〜っ! 今先輩、世の中の女子を敵に回しましたね! こう見えても私、結構大きいんですよ? 美咲先輩は私よりも少し大きいからEカッ…………」


「ごめん俺が悪かったからそれ以上は言うなぁぁぁ!」


 なんか色々と知ってはいけないことを知ってしまいそうだったので止めたが…………でもそうか、美咲はEカップなのか……ふむふむ。

 てことは、少し小さい香凜はDカップ…………じゃなくて!


「本人のいないところで勝手にサイズを教えようとするな!」


「え? 先輩が知りたいって言ったじゃないですか」


「捏造ってそうやって生まれていくんだな」


 まぁ、知りたいっちゃ知りたいけども。


「本当に男子って夢を見過ぎです」


 知ってるか? 夢を見ている男子は現実主義者なんだぞ? 知らんけど。


         *


 何件か服屋を回って疲れた俺たちは、休憩するために、海外発の有名なコーヒーやフラペチーノを扱うお店、スターダックス、通称:スタダへと向かう。

 服屋で香凜は


『どうです先輩? 似合ってますか?』


 って、俺にドストライクの服を着ながら聞いてくるから心臓がドキドキしっぱなしだった。

 否応なしにも異性であることを感じさせるくらい、とても魅力的だった。


「どれにしようかな〜」


「何だこれ…………何を頼めばいいのか全然分からねぇ…………」


 なんて回想してる俺の隣でウキウキで飲み物を選ぶ香凜。

 一方の俺は、初めて来たスタダに困惑していた。

 サイズって大中小だろ普通! なんだよTallって! サイズ感分かんねぇよ!


「私は決めましたけど、先輩はどれにします?」


「じゃあ俺はこれにしようかな」


 俺は1番上にあったメニューを選ぶ。

 サイズもTallしかないし、堂々と店舗前にも看板があったから、多分限定メニューなんだろう。


「私はこれにホイップを追加して、チョコソースも追加で!」


「コチラとコチラですね。お会計は2点で1300円となります」


「さっき、私が観たい映画観ちゃったんで、ここは奢られてください!」


 そう言って香凜は俺の分のお金も払う。

 てか、ただの飲み物でそんなにするの!?

 なんか申し訳ないから後でちゃんとお金返そう……

 そんなことを考えていたら飲み物が出来たので受け取り、適当な店内の席へ座る。


「いただきま〜す」


 しっかりと挨拶をし、香凜はストローで飲み物を吸う。


「んっ〜美味しい!」


「じゃ、俺もいただきます」


 俺もストローで飲み物を飲む。


「甘っ!!! いけど美味っ!」


 限定らしいこのフラペチーノは、桃味のようだ。

 まるで本物の桃を丸ごと齧っているかのようなフレッシュさ、果肉も入っていたり、ホイップクリームも桃味のようで楽しさもある。

 これは、少し高いお金出しても買ってしまうJKの気持ちが分かるな。


 「うわぁ! 先輩のフラペチーノ美味しそ〜! ひと口ください!」


「えぇ……」


「こんなに可愛い後輩からのお願いをそんなに嫌がる先輩います?」


「普通の後輩ならいいんだが、香凜だからなぁ……」


「何ですその私だからって!?」


「いやぁ〜香凜だから。その〜」


 俺が渋っていると、横に座る香凜が身を寄せてきて…………


「えい!」


「あっ!」


 俺のストローに口を付けて飲んでしまう。


「ん! これも美味しい! 今度はこれにしよ!」


「………………」


「? 先輩、どうしたんですか? 顔真っ赤ですよ……?」


 俺が黙っていると、香凜は何か思いついたように俺にさらに話しかけてくる。


「もしかして……『それっ……! 間接キスじゃないか……!"』とか思ってません?」


 こいつ、エスパーか。


「だから嫌だったんだよ!」


「そんな恥ずかしがって……はっ! さては真人先輩、正真正銘の童貞ですね! キリッ!」


「いやキリッ! じゃねぇよ! 自分で効果音言うやつ初めて見たわ! てか、正真正銘の童貞ってなんだよ!」


「…………それで先輩、実際のところどうなんですか?」


 こいつ……話を逸らしやがった!? 策士か!?

 俺は迷った挙句……


「…………童貞だよ。それの何が悪い」


「別に悪いなんて一言も言ってないですよ。私もまだ処女なんで大丈夫です!」


「やっぱお前痴女じゃん!?」


 こいつ、羞恥心ないのか……?


「違いますって!? 先輩だけなんか可哀想だなぁって思ったから……私も言っただけです!」


「てか、最初に童貞だの言い出したの香凜だからな?」


「じゃあ…………彼女いたことはありますか?」


「………………ねぇよ」


「へぇ! 先輩って彼女いたことないんだ……ならばまだ私にも……」


「ん? 何か言ったか?」


「いえいえ何も。負け犬だなぁって言っただけです」


「普通に言ってんじゃねえか! しかも悪口!」


 そんな感じで話に夢中になりすぎた俺らがうるさすぎて店員に怒られたるのは、また別のお話。

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