第6話 これって、デートってことでいいですか?〜美咲編〜

「…………」


 昨日のテニスの試合観戦から一変、俺は待ち合わせ時間の30分前には駅前に到着していた。


(べ、別に楽しみだったわけではないぞ? ただ、あきらにドヤ顔で"女の子を待たせてはいけないからな"って言われただけだ!)


 うん、やっぱり男のツンデレは需要ないな。

 そんなアホみたいなことを考えている俺だが、内心、とても緊張していた。

 だって、女の子と2人きりで出掛けるなんて初めてなんだもの。しかも、2日間連続なんだもの。真人まなと


「あ、いた! お〜い! 真人く〜ん!」


「おはよ、みさ…………き?」


 後ろからいつもの美咲のイメージとは少し違う感じの声がしたので振り返ると、俺は思わず言葉を失う。


「? どうしたの?」


「いや…………」


 少し濃い緑色の大きなトップスの中には、彼女の肌と同じくらい白いTシャツを重ねている。すっきりとしたシルエットの紺色のショートパンツを穿き、白いゴツメのスニーカーでしっかりとしたバランスになっており、更に、黒い小さめの肩掛けのバッグを持つことによって、彼女の良さがより引き立てられている。

 昨日のカッコいいイメージを残しつつも、とても可愛い。

 まるで、絵本の中から飛び出した天使のようだった。


「美咲が……凄く綺麗で……見惚れてた」


「っ………! あ、ありがとう」


 顔を真っ赤にして俯く美咲。

 1つ1つの動きが可愛い。


(輝には"女子の服装は褒めてやれ"だの"誤魔化さないで正直な気持ちを伝えろよ"って言ってたから実践してみたんだが……この反応は、恥ずかしがってるってことでいいんだよな?)


 でも、何とも思ってない男子の言葉にそんなに反応するかなぁ。これってやっぱり俺のこと……


「それじゃ、行こっか!」


「お、おう」


 美咲に声をかけられたので疑念を振り払い、2人で歩き出す。

 休日の都会だからか、凄く人が多い。

 てか、周りの視線エグいな!

 みんな美咲のこと見てるぞ!?

 そんな様子も気にすることなく、美咲はご機嫌そうに歩みを進める。


「おっと」


 俺の気のせいかもしれないが、前から来る人と美咲がぶつかりそうなので、少しだけだけ寄せると、美咲が呆然としたような表情を浮かべ、こっちを見てきた。


「ほ、ほら、人が多いから美咲がぶつからないようにさ……いや、すまん。嫌だったよな」


「…………嫌じゃないよ。むしろ嬉しいかった」


 そう言って、美咲は俺の腕に自分の腕を絡ませる。

 うぉぉぉぉぉぉぉぉ可愛いぃぃぃぃぃぃ!

 これって脈アリだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 周りの人たちには、俺たちって彼氏彼女の関係に見えるのか?

 あれ? ていうか男女2人で出掛けているこの状況って……所謂いわゆるデートというものなのでは!?

 うぉ、今更ながら更に緊張してきたぞ。


「それで、どこへ行くんだ?」


 緊張が伝わらないよう、努めて自然に言う。


「ええっとね、私、1度好きなひ…………じゃなくて好きな友達と一緒に行ってみたいところがあるんだけど……」


「最近できたばかりのタピオカ屋とか?」


「それだったら他の女子達と一緒に行くよ。しかもその前にタピオカとか古!」


 真人に会心の一撃。

 美咲の天然により、タピオカ屋に行くならば、俺<<友達の女子、という不等式が成立した。

 え? てかタピオカってもう古いの……


「新しいお店でもなくて……私、First Roundに行ってみたくて!」


「おぉ、それは意外だな」


 First Roundとは、スポッチャやらカラオケやらボウリングやらで1日中遊べる、有名な屋内型娯楽施設だ。


「それはどっちの意味で?」


「行ったことないって言うのも意外だし、行きたいって言うのも意外だな。スポーツのイメージはあるけど、"優等生"ってイメージだから、屋内とかでゲームやってるイメージは全く湧かないし」


「あ〜。私、ゲームやらないどころか大好きだよ! 私の大好きが詰まってるし楽しみだなぁ」


「でもそれこそ、他の女子と一緒に行けばよくね?」


 無粋だったかもしれないが、疑問に思ったので聞いてみる。


「真人くんじゃないと……」


 え? それって……


「ほら、女子って色々あるからさ。私、凄く仲良い友達とかあんまりいないし、女子って買い物とかお茶とかが多いからさ……男子ならばそういう所、好きかなって」


 ですよねー。一瞬でも俺のこと……とか思った俺が馬鹿でした。

 どうも、自意識過剰馬鹿です。


「確かに女子ってそういうイメージあるな」


「でしょ? だから……今日は、改めてよろしくね! 真人くん!」


 美咲の花が咲いたかのような美しい笑顔に、俺は微笑み返すのであった。


          *


 少しばかり電車やバスに乗り、お目当てのスポットに着いた。

 電車でもバスでも特に何もなく、普通の会話をしているだけだった。

 ラブコメの神様、仕事してくれ。


「おぉ……! これが噂のFirst Round! こんなに賑やかなんだね!」


「驚くにはまだ早いぞ。それより、チケット買っちゃおうか」


「う、うん! そうしよ!」


「えぇっと……とりあえずスポッチャも、カラオケもボーリングとかも全部やるってことでいいよね?」


「それがいいな」


「じゃあ……時間は……どうしようか?」


「私は……真人くんがいいなら、いつまででも一緒にいるよ?」


 グハッ! 美咲の天然が炸裂した。何その告白みたいなやつ!? 勘違いしちゃうだろ。やめてくれ。(理由:俺の心がもたないから。)


「じゃ、じゃあ無制限にしようか」


「うん! じゃあ行こっか!」


 どのチケットを買うか、2人で決めてからレジへ向かう。


「らっしゃいやせ〜。どれしやすかぁ」


 レジで出迎えてくれたのは、金髪の女子大生(?)で、やる気がなさそうにしてる人だった。


「えっと……この時間の無制限のやつで」


「かしこまりやした〜。あっ、ちなみに今月限定で、カップル割というやつをやってて、彼女さんが彼氏さんに愛を囁き合ったら割引になるんですけど〜。どーします?」


 カップル割!? 今までそんなキャンペーンやったことなかったやん!?

 夏休みにリア充が多く湧くのってもしかしてコレのせい!?


「えぇっとぉ……」


 俺はどーする? と美咲に視線で訴えてみる。まあ、付き合ってもないし、流石にこんなのやらないだr…………


「あ、じゃあそれでお願いします!」


 何でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?

 え? この人天然超えて馬鹿でしょ!?

 人前で、しかも友達の男女がこんなのやるっておかしくない!?


『いいじゃない。安くなるんだし』


 すると、俺の心境を察してか、美咲が声を控えめにして俺に話しかけてくる。

 てか、よく考えたら俺にはメリットしかないか。


『それとも…………私じゃ、嫌?』


『全然そんなことないよ!』


 むしろこんな美少女の愛の囁きを聞けるんでしょ? ありがとうございます。ご馳走様です。


「ゲフン。では、彼女さん、おなしゃ〜す」


「はい…………」


 ごくり。




「──────真人、大好きだよ」


「──────俺も、大好きだ。美咲」




 やっちまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 美咲が可愛すぎて思わず脊髄反射で俺も言わなくてもいい余計なこと言っちまった……

 あれれ〜? おかしぃぞぉ? なんか身体が熱いぞぉ。でも、美咲も顔真っ赤だから、この室内が暑いんだよね。うん多分そうだ。Q.E.D.証明終了☆


「あざま〜す。では、この金額から20%割引で〜す。チッ、〇ねよこの脳内お花畑の猿ども」


 んん!? 最後に小さい声でとんでもない事言ってませんか!?


「よよよ、良かったね真人くん。わ、割引になったよ」


「あ、あぁ。良かったな」


 個人的には穴に入りたいくらい恥ずかしくてよろしくないです。


「では、ごゆっくり爆発してくださ〜い」


 ん? 今爆発って言ったよね?


「いいい、行こっか。真人くん」


「お、おう。そうだな」


 そんなこんなで、チケットを安く買うことに成功(?)した俺ら。

 しかし、2人とも恥ずかしすぎてすぐに帰ることになったのは、また別のお話。

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