第4話 試合を見に来てくれないですか?

真人まなとくん、明日私と一緒に出かけない?」

「せ〜んぱい! 明日私と2人で予行練習しませんか?」


 終わったと思っていた梅雨が戻ってきたかのようなジメジメとしていて、どんよりとした雲が空を覆っている中、俺は、美咲みさきのテニスの試合を見に来ていた。


 そして今、美女2人から出かけようと誘われている。なぜ急に試合を見に行くことになったのか、どうしてこんな状況になったのか、それは昨日に遡る。


***************


 朱莉に宿題を教えてもらった次の日の朝、ホームルーム開始5分前に席へ着く。昨日発売した漫画を読もうとリュックに手をかける。すると、俺の顔を覗き込んでくる顔があった。


「オッス!」


 今にもオラ悟○とか言いだしそうな彼の名前は西野にしのあきら。輝は名前の通り人生も輝いてる奴だ。顔立ちは整っていて、スポーツ万能。頭も良く、性格も良い。非の打ち所がないと言うのはコイツのことだろう。


「オッス!」


「今日も暑いなぁ」


 そう言いつつ、輝は汗を拭う。その姿ですら、無駄にかっこいい。しかも、汗かいたら普通の男子高校生なら多少なりともにおいはするが、輝はくさいどころか、爽やかな良い匂いがする。これは西野輝の七不思議の一つとなっている。


「今日も朝練?」


「おう! 真人は?」


「いつも文化部って言ってるやん!」


 俺がツッコミ、2人でケラケラと笑う。いつもの朝ならばこのくらいで会話は終了なのだが……


「そういやさ、真人って美咲と仲良かったの?」


 顔をグイッと寄せて、小さい声で聞いてくる。


「いや、仲良いってほどでは無いけど……昨日仲良くなったって感じ?」


「どう言うこと!?」


 輝に突っ込まれる。俺らは漫才コンビか。


「まあいいや。それでさ……」


 突如、輝の言葉が止まる。


「ん? どうした?」


「あぁ……いや、何でもない! ちょっとトイレ行ってくるわ!」


 猛ダッシュで輝が廊下に出て行く。なんだったんだ……


「真人くん」


 輝が出て行ってすぐに、横から声がする。


「ん? な、何かな? 綾瀬さん」


 突如呼ばれたことにビックリしたのと、美咲の可愛さに動揺してしまい、噛んでしまった。


「もう、美咲って呼んでって言ったのに!」


 美咲が軽く頬を膨らませて俺に近づいてきて、


「めっ」


 デコピンをしてきた。今日は痛くないな。ってそうじゃなくて!! また男子が噂していた美咲とは思えない行動だな。というか、そこまで怒られることした?


「ご、ごめん」


 なんとなく謝っておく。


「それで、何の用かな?」


「あぁ、えっと……明日って予定ある?」


 上目遣いで聞いてくる。ちょっ、谷間見えてるし!? え!? 急にデートかなんかのお誘い!? まだ心の準備が。ということは美咲が変にデレてたのって俺のことが好きだったからってことになるよね!? よし、心を落ち着かせて声が上擦らないように……


「な、ないよ」


 ふぅ。なんとか言えた。


「ほんと!? 良かった!!」


 美咲が俺の手を掴んでくる。それに気づいたのだろう。顔を真っ赤にして手を離す。そして咳払いをし、


「あ、明日、私のテニスの試合があるんだけど真人くんに見に来て欲しいなと思って。どうかな?」


 あっ……………デートじゃなくてテニスの試合ね。そうだよね! 美咲が俺のこと好きなわけないよね!? 自意識過剰、良くない。


「分かった。応援しに行く!」


「そうよね、ダメよね……ってえ! 来てくれるの!?」


「うん」


「ほんとに!? 嬉しい!」


 また美咲が俺の手を掴んでくる。そして先程と同じように顔を真っ赤にして手を離す。この人やっぱり天然だよね?


「本当は輝くんに真人くんを誘ってもらうおうと思ったんだけど、昨日も喋ったし、やっぱり自分で聞いてみようかなと思って」


「そうなんだ」


 なるほど。だからさっき俺の所に来たけど、美咲が自分で言いたいってことを察して誤魔化したわけか。本当に輝、無駄に察しがいいんだよな。これも西野輝の七不思議の一つである。


 ちなみに前に、美咲の試合を見に行こうと言ったのも輝だ。もしかしたらこの時も俺を誘ってと頼まれたていたのかもしれないな。ん? でも何で俺のことも誘おうとしたんだ? 輝の友達だし一応誘っておくか的な? まぁいいか。


**************


 時は変わり美咲の試合当日。今日の試合に勝てば全国大会に出場できる切符を手に入れることができるらしい。


「緊張するなぁ」


 俺の気持ちを代弁するように輝が言う。結局輝も来た。


「美咲は俺の家族……みたいなものだからな」


「ん? 輝何か言ったか?」


「いや、何でもねぇよ」


 もう一度聞き直そうかと思ったが、本人がこれ以上詮索しないでくれオーラを出していたので言葉を飲み込む。


「お、次は美咲の出番だぞ!」


「お! ついにか!」


 美咲と相手の選手がコート内に入ってくる。相手は昔、県大会で優勝したことのある強者らしい。周りからの声援にも応えず、精神を集中させようとしているように見える。一方で、美咲は仲の良い女子だろうか、一部の声援に手を振って応えている。


「美咲ー! 頑張れよー!」


 隣で輝が大声で応援の言葉を送る。その言葉に周りの女子達が反応。


「あれ、美咲の彼氏かな?」


「絶対そうだよ!」


 などの声が聞こえる。まぁ、側から見たらそう見えるよな。他方の女子から声をかけられ始めている輝のことはとりあえずそっとしておこう。輝も、


「すまん、俺の代わりに美咲の応援してやってくれ。俺はこっちの対処をしておくから」


 と言っているし。それに、今日は美咲の応援に来たのだ。しっかりと応援してあげなきゃいけないしな。


「美咲ー! 落ち着いてやれよー!」


 大きく息を吸ってコートに向かって叫ぶ。すると、俺の声に気が付いたのか美咲がキョロキョロと客席を見渡す。そして俺と目が合うと、満面の笑みで両手を振ってくる。試合があるからか、髪をポニーテールにしているので雰囲気も違い、いつもとはまた違った魅力があり、思わず目を逸らしてしまう。


 その後、試合開始の合図を告げるアナウンスが流れる。遂に試合が始まる。美咲はスマッシュを打ったりラインギリギリの所を狙ったりして徐々に点差を広げていく。彼女のプレイはテニスをあまり知らない俺から見ても美しかった。


 しかし、相手も県大会優勝経験がある強敵、巧みなプレイで少しずつ点差を縮めていき、とうとう美咲の得点を抜かし、マッチポイントとなる。これはまずいな……俺の魂の叫びを届けなければ。


「美咲ー! お前なら出来る! 諦めるなぁー!!」

「美咲先輩ー! 頑張ってくださーい!!」


 俺が叫ぶのと同時に、隣からも大きな叫び声が聞こえた。聞いたことがあるような声だったので気になり、隣を見る。相手も同じように俺のことが気になったのか相手もこちらを向いてくる。そして目があった瞬間……


「「あぁーーーー!!!」」


「お、お前は━━━━」


「あ、貴方は━━━━」


「━━か、香凜かりん!?」


「━━ま、真人先輩!?」


 テニス場に、俺と小柄なツインテール美少女の声が響くのであった。

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