第2話 宿題やり忘れたら、隣の席の女の子と仲良くなれるって本当ですか?
一時間目の授業が終わり、休み時間に突入する。
ある者は次の授業の準備をし、ある者は机に突っ伏して眠り、ある者は青春トークに華を咲かせている。
そんな中、俺は一人、次の授業で提出しなければならない宿題に追われていた。
昨日夜遅くまでゲームに熱中していたのがまずかったな。このまま自分で考えながら解いていたら絶対間に合わねぇ!!
こうなったら友達に、後方三回転捻りからのジャンピング土下座をして、宿題を見せてもらうしか無いぞ!? でも男友達はやってるとは思えないし、いつも宿題やってきてる真面目な友達は今日に限って休んでるし! なぜか朱莉も教室にいないし。こうなったら……
チラリと横目で、隣の席で静かに本を読んでいる女子を見る。
背中半分くらいまで伸びていて清潔感のある艶々とした黒い長髪、瞳は凛としていて、鼻筋は細く高い。スカートの裾から覗くスラリとした細い脚は、乳児の肌のように真っ白。そして、美しいくらいに背筋がシャキッと伸びている。
「あの〜」
「何?」
俺が声をかけると、読書を邪魔されたからか、少し不機嫌そうな声ではあったが返事が返ってきた。
彼女の名前は
綾瀬さんは、定期テストでは入学からずっと不動の学年トップの優等生。孤高な雰囲気を醸し出しているので話しかけづらいオーラがあり、
「宿題くらい自分でやりなさよ。やってこなかった自分が悪いと思いなさい」
みたいな感じで怒られそうな気がするけど、背に腹はかえられない。今回の宿題はやらないと放課後居残りさせられるらしいし。
「綾瀬さんに、次の授業で提出する宿題を見せて欲しいんだけど……」
「いいわよ」
「え? マジ!?」
「ええ」
「ありがとう! 綾瀬さん!」
自分から声をかけておいてアレだが、まさか見せてくれるとは思わなかった。
綾瀬さんとは去年はクラスが違ったが、今年は同じクラスになり、昨日行われた席替えにより、席が隣となったのだ。なので、ちゃんと関わるのは初めてだ。
「ねぇ、
「ひゃ、ひゃい!」
急に美女に名前で呼ばれたので噛んでしまった。
初めてちゃんと話すのにいきなり名前で呼んでくる人いる? しかも異性だよ?
そもそもなんで俺の名前を知ってるの!?
まぁ、俺も関わりなかった異性にいきなり宿題見せてとか言ってるから何とも言えないんだけどさ。
「うふふ。何噛んでるの? 可愛い」
そう言って俺の頭を撫でてくる綾瀬さん。
え? 綾瀬さんってこんなことしてくる人なの? 噂で聞いた限りだと男子には結構冷たいって聞いたんだけど。
ほら、なんか男子からの嫉妬や驚きの視線。女子からは生暖かい視線が……。その視線に気づいたのか、綾瀬さんは頬を赤らめて手を離し、
「ゴ、ゴミがついていただけよ!」
うるさかった教室が一瞬静まり返るくらい大きな声で言う。
さっきと言ってること全然違うじゃん!
俺も気恥ずかしくなったので、
「で、さっき俺を呼んだのは何かな?」
と話を無理やり戻す。
「あ、そうそう。私のこと"綾瀬さん"じゃなくて"美咲"って呼んでくれない?」
ようやく俺も落ち着いてきて綾瀬さんも落ち着きを取り戻したと思ったら、またちょっとした爆弾をぶっ込んできた。
「え?」
「いや、そんな深い意味はないんだけど……ほら! 隣の席だし?」
「謎理論すぎる!」
この人少し天然なのかな? それとも俺のこと……
「ダメ……かな?」
「ぜ、全然ダメじゃないよ!」
「そう! ありがとうね!」
なんか流れで名前で呼ぶことに決定してしまった。嫌ではないけど、やっぱり恥ずかしい。まぁ、本人が嬉しそうだからいいか。
「これからよろしくね!」
「うん、よろしくね。み、美咲」
ふぅ、なんとか言えた。
「そ、それで宿題を……」
「あ、そうだね!」
と、美咲が机の中からプリントを出す。
彼女の手から俺の手へとプリントが渡ろうとしたその時……
キーンコーンカーンコーン
「「あっ」」
結局俺は宿題を出せず、放課後、居残りすることとなった。
*****************
放課後となり、足早にみんながそれぞれの帰路につく。
「また明日ね、真人くん」
「お、おう」
美咲が声をかけてきたので返事をする。
「さっきはごめんね。私のせいで」
「いや、宿題やってこなかった俺が悪いだけだから美咲は気を遣わなくて大丈夫だよ」
「そ、そう。なら良かったわ」
上機嫌そうに美咲が微笑む。
そこまで気にしていてくれたのだろうか。
まぁ、考えても分からないことか……
「それじゃ!」
話を終えた美咲が去っていく。テニスラケットを背負っていたので、部活へ行くらしい。美咲はテニス部だったのか。知らなかった……
そういえば一年生の頃、友達に綾瀬さんの試合を見に行かないかと誘われたことがあった気もする。当時はあまり気にしてなかったから見に行かなかったけど。今度誰か誘って見に行こうかな。
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