第7話 二度目のお誘い
叶野との花見キャンプは楽しく、一生忘れないかもしれないと立夏の胸にしっかり刻まれたが、すぐに現実がやってくる。
自分たちでやっていいという後押しの元、一汰と手分けして詳細設計のフェーズを立ち上げ、なんとかゴールデンウィークまでに軌道に乗せることができた。
そんな中、叶野からゴールデンウィークの4日から一泊でもう一度キャンプに行かないか、という誘いが入る。
邪魔にならないかと思ったものの、折角の誘いで予定も空いていたことから、前回と同様の駅で待ち合わせをして叶野と合流する。
「どうして誘ってくれたんですか?」
叶野の運転するさまを隣で観察しながら、今日の誘いの理由を立夏は尋ねる。
「ゴールデンウィークってね、家族連れがとにかく多いの。なんか独りだと視線が痛いなって思う敏感な年頃なのよ」
口元が笑っている所を見ると、冗談かもしれないと立夏は思いながらも誘ってくれたことは純粋に嬉しかった。
「じゃあゴールデンウィーク避けたらいいんじゃないんですか?」
「無理。そんなに家に篭もっていられない」
「叶野さんって全然アウトドア好きに見えないのに、ギャップありすぎですよ」
「まあ要は仕事のストレスを発散するものが何かだけで、それって人からどう見られようが自分を活性させるものだから、否定できないってことじゃないかな」
「そうですね。すみません」
「謝らなくていいから。わたしはくにちゃんより少しだけ長く生きてるから、その分だけ自分を分かるようになったってことかな。
なんか最近自分ってこういう存在なんだなって、いうのがちょっとずつ分かってきた気がするって、年寄り臭い?」
自虐のように言う存在は自然体で、どうしてこの人を抱き締めて理解できる人がいないのか、と世間の男の見る目のなさに嘆きたくなった。
私が男なら抱き締めて思いっきり甘やかしてあげたいのに、と思った所で立夏は現実に返った。
何を考えているんだろうか、と頬が少し赤くなるのを感じる。
「くにちゃん?」
「すみません。ちょっとぼうっとしてました」
「眠いなら寝ていいよ。今日はちょっと渋滞に捕まるかもだし」
「すみません、私が免許を持っていたら代わるとも言えるんですけど」
「都会っこだからね、最近の子は持ってなくて普通か」
「叶野さんはいつ免許取ったんですか?」
「高校三年の冬、受験が終わってすぐ。思えばあの頃からレンタカー借りてでも休みは出かけることが多かったかな」
「アクティブなのは昔からってことですね」
そうかなと笑う存在につられて立夏も笑いを返していた。
目的地に着くと、今日のキャンプ場は前回と一目で違う人の多さが目についた。
前回よりも広いキャンプ場でテント設営場所は平地にあって、すぐ側まで車で入ることができた。そのおかげで荷運びも楽だったが、晴天に恵まれたせいかテント設営までをすると、流石に汗びっしょりだった。
「シャワー浴びたい」
「簡易だけどこのキャンプ場はあるよ。男女別だし、交代で行こうか」
その提案に乗って、まずは立夏から行くことになり、戻ると叶野は既に夕食の下ごしらえを終えていた。
「すみません。私、全然手伝えていません」
「大丈夫、この後火の番お願いするから」
「承知しました」
火の扱いの注意事項だけ伝えると叶野はシャワーを浴びに向かい、周囲のテントの様子を探っている内に叶野が戻って来る。
「じゃあちょっと早いけど始めようか」
山の夕暮れは早いこともあり、二つ返事で頷いて酒宴を開始する。
「叶野さんって、キャンプに行かずにずっと仕事だけをする生活と、独りでキャンプをずっとする生活ならどっちがいいですか?」
「なに、その究極の選択」
「なんとなくです」
「どっちだろう。もし今の会社を辞めることになったら、一ヶ月とか二ヶ月はずっとキャンプで全国を回ったりしてもいいかも、とは思ってるけど、ずっとは自信ないな。でも、キャンプに行かないと死ぬかもしれないしな」
「冬はどうしてるんですか? 行けないですよね?」
「どうして? 行ってるけど」
「えっ? 前に冬だから行けないって言いませんでしたっけ?」
初めのキャンプが春に持ち越しになったのは、叶野のその言葉からだった。
「ごめんごめん、ビギナーをそんな上級者コースにいきなり突っ込むわけにはいかないから言っただけで、わたし自身は月一くらいでは行ってたかな」
「そうだったんですね。すみません、いろいろご配慮いただいて」
「前から思っていたんだけど、くにちゃんの『すみません』はいらないと思うんだよね」
「えっ?」
「ここでは先輩も後輩もなくない? プライベートで来てるんだし、もしくにちゃんが義理でつき合っているならもう誘わないから」
「すみま……えと、ごめんなさい。えっ? ごめんなさいも駄目ですか?」
何を言えばいいかわからず混乱したまま叶野に解を求める。
「そういうところ、くにちゃん真面目で可愛いよね。なでなでしちゃおう」
叶野は酔いがかなり回っているのかもしれないと思いながらも、背後から叶野に抱き締められ頭をなでなでされる。
「叶野さん酔ってます?」
「全然」
背に叶野の柔らかい胸がぴったりくっついているのがわかる。不思議だった。女性と冗談で抱き合うくらいはしたことがあるのに、それが叶野だと思うだけで焦りがある。
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