22.悪逆勇者

22.悪逆勇者


「……はぁ、はぁ」


国王の娘


姫である少女は部屋を飛び出した。


ようやく部屋を出る許可が国王からおりた。


何でも勇者の仲間である戦士がとんだ悪道者だったらしい。


「勇者、ユーキ」


魔王を討伐した勇者は国王となる権利を得る。


代々、姫は魔王を討伐した勇者と結婚してきた。


自分の夫になる男の顔をはやく見たい


その一心で姫は廊下を走った。


「……ユーキ様!」


はしたないと思われないだろうか


叫んだ後に気がついて口を押さえる。


「どうかしましたか」


優しい声が室内に響いた。


身長は平均ほどだがガッシリとした体躯。


旅の経験からか大人びた表情を見せる青年の姿に姫は安心した。


この人ならば安心して国を任せられそうだ。


「ユーキ様、何をなされていたんですか」


「戦士の余罪を紙にまとめていました」


姫の親指から人差し指ほどの厚さの量の紙が積まれている。


「辛い旅をなされたのですね」


勇者は少ない荷物をまとめて担ぐと立ち上がった。


一体どこに行くというのだろう。


「今日からココがアナタの家です。国王として国を導いてください。その隣でわたしもアナタを支えます」


姫は勇者に手を伸ばす。


この手は彼を栄光へと導く手だ。


国王の地位は子孫の繁栄を約束し


魔道図書館で得た知識は人生の確かな道標となり


魔王討伐の栄誉は彼の武勇伝を永遠に語り継ぐだろう


勇者はその手をじっと観察する


そして、意を決したように


姫の手を取ろうとするが、直前で動きを止めた


手首を回転させ


今度は自分の手を観察する。


「……」


彼には一体なにが見えているのだろうか


勇者は一度、ふと寂しそうな表情を見せた後


姫の隣を通り過ぎ部屋を出た。


姫は数秒あっけに取られたが、すぐにその背中を追う


「ユーキ様!」


しかし、廊下に勇者の姿はなかった。


姫は眼を閉じる


彼はきっと帰ってくる


姫はそう信じ、自室へと戻った。


しかし、姫の思いとは裏腹に


勇者が城に戻ることは二度と無かった。



その後、国王のスピーチを聞いた者の中で勇者を見たモノはいない。


謎の多い彼の冒険の軌跡は結果として多くの本を残すことになる。


曰く、歴代最強の勇者

曰く、もっとも優しい男

曰く、仲間から虐げられた青年


多くの彼を語る本が書かれ

多くの人がその本を読んだ


何十年も過ぎた後


一人のギャングを名乗る眼の細い老人が一冊の本を世に送り出した。


その本は多くの人に読まれる事は無かったが


最も『ありのまま』の彼が描かれていた。


本のタイトルは悪逆勇者。


復讐を果たした男の物語だ。

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悪逆勇者~勇者、陰湿な嫌がらせの末パーティから追放される。元仲間の皆さん、良心を捨てた最強勇者に「殺さないで」と言ってももう遅いです~ @Bonpu-Obuchi-Ken

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