20.戦士トラわれる

20.戦士トラわれる


魔王討伐から一時間近くが経過した。


予定ではセッシが到着するはずなのだが


思ったよりも苦戦しているのかもしれない。


「人間とモンスターは通じ合えたと思うか」


オレは魔王のアゴをカタカタと上下させる。


「人間同士でも通じ合えないのに?」


「……だよな」


モンスターと通じ合うことなど不可能。


ましてや、世界中から愛される勇者になることなど土台無理な話。


母が俺に託した思いはココに置いていくことにしよう。


そして、オレの夢は……


バタン


と大きな音を立ててトビラが開いた。


「遅かったじゃないか……セッシ」


オレは魔王の首を床に投げ捨てた。



「ひっでぇ、臭いだな」


セッシが足音を鳴らして部屋に入ってくる。


「キングオーガを殺して、マホを殺して、カーシィを殺して、魔王を殺して、随分と楽しそうな顔をするようになったじゃないか」


セッシはテーブルに飾り付けられているドクロを手に取った。


「……お互い随分と遠くまで来ちまったな」


オレは無言でセッシを見つめる。


予想通りセッシは耐魔の鎧を装備している。


「無駄だぜ、種は割れてるんだ。どうせ強力な魔術書を拾うなりして復讐を計画したんだろうがオレに魔法は効かない」


「……」


「俺達を襲うのにギャングを使ったのがいい例だ。魔法は効かない、剣は使えないんじゃ人の力を借りるしかないもんな」


「……」


「知ってるんだぜ?カーシィに毎晩注射されて剣を振れないことも、教皇の呪いで剣技が上達していないことも」


ドクロを放っては掴み


放っては掴みを繰り返している。


一見、機嫌が良さそうに思える。


でも


「……何を怯えているんだ?」


「あ?」


セッシがドクロを落とした。


「本当は気づいているんだろ、自分がオレに勝てないことに」


長い付き合いのオレには分かる。


セッシは強く警戒している。


「お前が逃げ出さない理由は一つ。認めたくないんだ。自分がオレより劣っていることを」


「……!」


セッシの体が一瞬揺らいだ。


白刃の光。


体幹のブレが一切無い力の乗った一撃。


その攻撃をオレは剣で受け止めた。


剣身をコントロールし、力を膝から逃がす。


「教皇は死に、オレの呪いは解呪された」


セッシの筋肉が収縮し、その力を開放する。


鍔迫り合い。


力と力のぶつかり合い。


オレはセッシの剣を押し切ると、勢いそのまま弾き飛ばした。


「……クソッ!」


「数日で筋力が戻った事にはオレも驚いたよ。勇者のチカラだろうな」


地面に倒れコチラを睨むセッシの喉元に剣を向けた。


「終わりだ」


「……俺を殺せば故郷の取り巻きが黙ってないぞ。ナジミが俺の子を孕んだと書いてある手紙には写しがある。ソレを持ってお前を訴えればお前は殺人の罪でオリの中だ」


馬鹿らしい


誰が良いとか、悪いとか


罪に問われるとか、問われないとか


そんな段階の話は、トうに過ぎていることに気がついていないらしい。


「お前が最後だ」


剣を構え直すと、鎧ごとセッシの意識を刈り取った。

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