16.元仲間ゴールを目指す
16.元仲間ゴールを目指す
思い返せばカーシィもグズだった。
セッシはそう考えるとベッドの上で寝返りをうった。
セッシはあの後、黒い服の集団と戦闘を続けていたが、あるタイミングで敵の集団が撤退を開始した。
一人を縛り上げた後、カーシィを探したが連絡がとれない。
拘束した男は錠剤をかみ砕いて自害しており情報を聞き出せなかった。
その翌日
ギャングが一枚噛んでいることは容易に想像できたのでカジノと風俗の店の店員を脅したが有益な情報は得られない。
一応、会員カードのヒミツには気づく事ができたが数時間タライ回しにされた後、スタート地点の果実屋に戻ってきたタイミングで堪忍袋の緒が切れ女店主を殴り飛ばした。
「……ッチ」
今、思い出しても腹が立つ。
街に火をつけようかとも考えたがこれ以上の悪行は汚名が残る。
どうしたものかと考えながらふて寝をした結果、今に至る。
「……カーシィ」
セッシはカーシィの強さを信用していた。
使える魔法の種類の豊富さ。
時間を停止させる人間の域を越えた魔力。
中でも心を読む能力と近接格闘の組み合わせはセッシも認めているほどだ。
しかし
カーシィは人をナメている節がある。
セッシも軽薄な態度をとることが多いが、いざ戦闘になれば慎重に戦う事を心がけている。
例え耐魔力の鎧を装備していても攻撃魔法を鎧で受けるような横着はしない。
だが、カーシィは違う。
技を出し惜しみして、あたかも五分五分の勝負であるかのように演出した上であえて隙を作り、相手が勝ちを確信したところを一気に叩く。
全力を出さないことで、自分が優れた人間であることを確認したい。
カーシィの悪い癖である。
「その結果、狩られてるんじゃザマぁないけどな」
おそらく、カーシィは既に殺されている。
そうでなくとも戦闘不能の状態ではあるだろう。
ならば、助ける必要はない。
今、必要なのは魔王討伐の戦力だけなのだ。
「魔王討伐」
一字一字丁寧に発音し自分の中でハンスウする。
マホ
カーシィ
有力な仲間はもういない。
果たして自分は旅の目的を完遂できるだろうか。
「……」
自分の奥底から湧き上がるのは自信。
誰が相手であろうと殺し合いでは負けないという自負。
「俺は戦士だ。勇者には選ばれなかった」
セッシが強く憧れを持ったのは城下町の勇者の銅像。
死してなお雄々しく人々に勇気を与えるその姿。
「だが、歴史に名を残すのはユーキじゃない。この俺だ」
言葉にすると活力が湧いた。
セッシが時間を確認すると出発の時間を疾うに過ぎていた。
「おい、武闘家くん。待ち合わせの時間だぞ」
優しい声色を意識しながら部屋の隅で小さくなっている武闘家に声をかけた。
武闘家は頑強な肉体からは想像できないほどヨロヨロとした足取りで部屋を出た。
セッシも後に続く。
「もー!セッシさん遅いじゃないですか」
女性の高い声。
セッシが宿泊施設の入り口を見ると武闘家の彼女である僧侶がいる。
時間になっても二人がこないから業を煮やして迎えに来たのだろう。
セッシは女性特有の高い声に頭痛がした。
「……大丈夫ですか」
僧侶が心配そうにセッシに近づいた。
「君と似た可愛い声の女の子の知り合いを思い出しただけだよ」
とっさに取り繕う。
マホの声で免疫がついたかと思っていたが苦手なものは苦手である。
「でも、その女の子は旅の中で死んでしまったんだ。彼女のことを思い出すから出来るだけ落ち着いた声で話してもらってもいいかな」
セッシは女性大半の声が苦手である。
カーシィのように低く落ち着いた話し方をする女性以外は咄嗟に殴りそうになる。
「わかりました。でも、二人共仲良くなってくれたみたいでワタシ嬉しいです」
セッシは女性と一緒にいて楽しいとは感じない。
「1時間も二人で部屋に閉じこもって何をしていたんですか?」
セッシは優しく微笑むと武闘家の背をたたいた。
「男同士親睦を深めあっていただけだよ、な?」
武闘家は力なく微笑む。
彼の背を叩いた手が下にスライドし、その輪郭をなぞるように撫でた。
「……!」
声にならない悲鳴を上げる武闘家をよそに
セッシは魔王城攻略に意識を切り替えた。
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