11.勇者ギャングと交渉する(上)
翌日の午前。
「……」
オレは画用紙の前で腕を組み考え事をしていた。
場所はアエロプラノの郊外にある宿泊施設。
料金は格安だが、大通りからは遠く、静かである。
「今日、カーシィさん達と戦うんですよね」
「カーシィとセッシには、崩壊の魔法の効果が薄い」
「はぁ」
「だから、アエロプラノを統括するギャングと組む必要がある」
ザンシから「復讐なんてダメです」という声が飛んでくるかと思ったが約束は守るつもりらしく、代わりに質問を投げかけてくる。
「それでは、ギャングに会いに行くべきなのでは?」
「……」
そこが問題だった。
ギャングがどこにいるのかわからない。
今朝、早くに宿を出て
カジノ店
風俗店
に忍び込んだ。
この二つは間違いなくギャングが経営する店なのだが、どこを探しても本部の場所を特定する手がかりが見つからない。
それぞれの店のトップを脅してもいいが間違いなく騒ぎになる。
暴力で情報を聞き出すのは最終手段である。
そして、カーシィ達が街に到着するのは今日の夜。
残された時間は少ない。
オレは考える。
手にはカジノ店の会員カードと風俗店の会員カード。
それぞれを両手に持ち画用紙に貼った街の地図にかざしてみる。
……儲けてる割には、安っぽい作りの会員カードだな。
紙で作られたカードは薄く、わずかにカードが透けて見えた。
「……!」
オレは宿屋を飛び出し日の当たる通りに出る。
「見つけた」
陽に向けて二つの会員カードを重ねるとカジノ店の場所、風俗店の場所とは別の場所に果物のマークが浮き上がった。
◇
結論から言うと、そこはギャングの本部ではなかった。
珍しい果実を扱うらしいその店の若い女店主にギャングについて聞くと黙って、もう一枚カードを渡され、そのカードを含めもう一度重ねてみると、また別の場所が浮き上がる。
一連の流れを何回か繰り返している内に数時間がたった。
このトビラの先にいるのがギャングでなければ、店主を脅そう。
そう決意して酒場の店主が指差すトビラを開いた。
トビラの向こうには壁があった。
否、壁と見まがうような大男。
男はオレの存在に気付くと
「ごめんなー」
とマヌケな声を出し、入れ替わりに部屋を出て行った。
図体の割りに幼い顔立ち、どこか焦点の定まらない眼、垂れた鼻水。
彼が持つ掃除用具から彼が清掃の仕事に携わっていることがわかった。
「……」
オレは数秒思案した後、部屋に入った。
「お前がユーキか」
部屋には10数人のカタギの雰囲気ではない人間。
中央には大きな机と椅子があり、唯一座っている女が幹部であることが伺える。
気の強そうな若く美しい女である。
「そうだ。トップの人間と話がしたい」
オレが言うと左右の壁に立つ構成員が笑った。
幹部の女が軽く手を上げると笑いが止む。
「仲間になりに来たんだろ?ナメた口を効くな」
ギャングよりゴブリンの方が聞き分けがいいらしい。
オレが一歩踏み出そうとした時、声が割り込んだ。
「ソイツは勇者のユーキだ」
見ると、部屋の奥のトビラから二人の男性が入ってくる。
一人はガタイが良く、眼の細い男。
もう一人はガタイのいい男に車椅子を押されている老人。
眼の細い男が自己紹介をした。
「オレはアエロプラノのボス。ヤンだ」
◇
この街を統べるギャングのボスは多忙である。
国王と魔王、二人の王にゴマを擦り機嫌をとる必要があるからだ。
それに加えてカジノ、風俗店、地下闘技場の経営。
ヤンは先代からボスの座を引き継いだことを後悔した。
午前の業務が終わり、一息つこうと思った際
「怪しい男が下部組織の面談を望んでいる」
という報告が入った。
ヤンは思わずタメ息がでた。
その男が勇者だったからである。
今代の勇者はアマい事で有名。
「放っておけばいい」
ヤンがそう命令した瞬間
車椅子に座る先代のボスに頭を杖で叩かれた。
先代は街の監視カメラに映る勇者を杖で指す。
「勇者がどうかしましたか」
「お前に頭目の座は早かったのかもしれんな」
車椅子が音を立て、移動し始める。
「付いて行かせて下さい」
先代の車椅子を押しながら地下通路を通り下部組織の面接部屋に出る。
「仲間になりに来たんだろ?ナメた口を効くな」
女の声がした。
不穏な雰囲気である。
「ソイツは勇者のユーキだ」
ヤンが言うと、下部組織で幹部を務めている女が立ち上がり先代とヤンに礼をした後、壁のソバに移動した。
勇者を見る。
何てことはない20年も生きていない不健康そうなガキである。
ヤンはそう思うと低い声を意識して話した。
「オレはアエロプラノのボスだ」
「交渉がしたい」
勇者の言葉にヤンは先代の顔色をうかがう。
先代は車椅子に座り下を向いたままピクリとも動かない。
現在のボスであるヤンに任せるつもりなのだろう。
どうすれば諦めて帰ってくれるだろうか。
早く戻って昼メシを食べたい。
ヤンはそう考え無意識にポケットに手を入れると、趣味で集めている拳銃がそこにあることに気が付いた。
拳銃。
下級モンスターにすらあまり効果がなく
人間相手にも急所以外はダメージを期待できない武器である。
ヤンは勇者にバレないように小さく笑うと席に着いた。
「座れよ。話がしたいんだろ」
勇者が荷物を床に起き、入り口に近い椅子に腰掛けた。
「悪いが俺はオモシロイ奴としか組まない」
ダン
と、拳銃を机に投げてよこす。
「ソレを自分の眉間に突き付けて、トリガーを引け。弾倉は6つ弾は1発。ビビッて魔術防御壁なんてダサいものを出せば回れ右して帰ってもらう」
これで勇者は諦めて帰るはずである。
普段、持ち歩くときは危険なので弾倉から弾を抜いている。
机の上の拳銃にも弾は入っていないが、勇者はソレを知らない。
俺ならば絶対にトリガーを引けないだろう。
ヤンはそう考え、昼に何を食べるのかを考え始める。
「ッチ」
先代から舌打ちが飛んできた。
何かヘマをしたかと思い勇者を見ると、呆れた様子でこちらを見ていた。
「弾が入ってないだろ。拳銃を投げて暴発したら壁側にいる部下に当たる可能性がある。ギャングのボスなのにマヌケそうだから素だったのかも知れないけど」
勇者は言うと拳銃を手の甲で壁側に払った。
「な、なんだよ?」
「オモシロイ奴としか組みたくないんだろ?これじゃオモシロクない」
勇者の眼が怪しく光る。
目の前の青年が放つオーラは先代が有事の際に見せるソレに近い。
もしかして、俺はアマちゃん勇者じゃなくてもっとヤバイ奴と話をしているのか
ヤンは背中に嫌な汗が流れるのを感じる。
一触即発。
ドン
勇者が机に何かを置いた時、警戒していたヤンは飛び上がりそうになった。
「ケース?」
遮光用の布が巻かれ中は見えないがキシキシという生物がウゴメく音が聞こえる。
「今から手品をします」
勇者は年相応の笑顔を見せると両手を広げた。
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