5.魔法使いトラわれる

魔法使いのマホは己の魔力に絶対の自信を持っている。


事実、彼女の魔力は人間で最も強い。


大陸内でも魔王に次ぐ魔法の使い手である。


「はぁ……温泉気持ちいい」


マホは仲間から離れ、森の中で一人魔力の泉に浸かっている。


魔力の泉は地中から湧く温水で


魔力量の上昇と回復を効能としている。


マホの趣味である。


「カーシィは危険だから行くなって言うけど、心配しすぎなのよ」


戦士と賢者は近くの街にいる。


魔王城はあと二つ人里を越えた先である。


英気を養ってもバチは当たらないとマホは考えたのだ。


マホは地を這う虫を見てユーキのことを思い出す。


「ポケットから財布を取り出す時、触っちゃったのよね。洗っとこ」


ゴシゴシと手で、腕をこする。


「アタシはイケメンに囲まれて幸せに暮らすの。あの馬鹿の後ろを黙って歩くなんて考えられないわ」


魔王討伐後、本屋に並ぶ本の表紙に描かれる勇者とその隣に小さく描かれた自分を想像してマホは身震いを起こした。そんな不当な扱いは自分の輝かしい人生史にふさわしくない。


マホは伸びをすると輝かしい未来の自分を想像する。


王国から離れた場所に自分の国をもつこと。


魔導図書館の知識で国民を洗脳し自分を讃えさせること。


何より大陸中からイケメンを集めてハーレムを築くこと。


イケメンに自分をメグって殺し合いをさせるのもいいかもしれない。


「フフ」


思わず笑みがこぼれた時、背後で音がした。


瞬間、マホが爆炎魔法を起動する。


全方位、マホを中心とした爆発が巻き起こる。


爆音。


突風。


噴煙。


それら全てが止んだ時、マホの周囲から森は消えていた。


残っているのは、マホと地面の小虫だけである。


マホは念の為、目につく全ての生物を殺すことにした。


虫。


鳥。


獣。


周囲から動くモノを全て排除した時、彼女はようやく警戒を解いた。


「アタシの入浴を覗こうとしてんじゃないわよ」


バスンッ


音を立てて地中からゴブリンが飛び出した。


どうして


一瞬、疑問が浮かぶ。


炎は空気があるところでしか燃えない。


マホはその解答にすぐにたどり着く。


飛び出したゴブリンを一瞬で消し炭にすると


周囲、数十メートルの地面を凍らせた。


「……氷の厚さと範囲が足りない!」


魔力の泉からチカラを吸い上げるともう一度同じ魔法を放つ。


世界が凍った。


そう錯覚する程の銀世界。


彼女を中心とした地面が氷で覆われたのである。


「……」


大量の魔力の放出。


地図の書き直しが要求されるほどの地形の変動。


にも関わらず彼女は汗一つかく様子はない。


「ユーキィ!!あんたでしょ!出てきなさい」


マホは叫ぶ。


「ゴブリンと組むなんて醜いアンタらしいじゃない!」


返事はない。


「どうせ、お仲間のゴブリンにも虐められてるんでしょ!!」


瞬間、空から何かが振ってくる。


ドスンと音を立て降ってきたソレは


ゴブリンと呼ぶにはあまりに巨大な体躯をしている。


「魔王城の近くだからってヤケに発育がいいゴブリンじゃない!」


マホはそのゴブリンも一瞬で黒い粉へと変貌させる。


一体。


さらに一体。


さらにもう一体


たまらず空を見上げると何もない空間からゴブリンが出現している。


転移魔法?そんな超高等魔法一体だれが


マホは考えるが次第に、増え続けるゴブリンに手が追いつかなくなる。


マホの魔法は強力である。


強い威力、広い効果範囲をもつ。


しかし、決して


「……はぁ、はぁ」


燃費は良くなかった。


何分たった?


15分、30分……?


それとも、もっと。


汗をかき、呼吸を乱すマホに人影が近づく。


その影は数百の巨大ゴブリンの死体を避けマホの前に立った。


「随分と余裕がなさそうだな」


マホは魔力を人影に向けて放つ。


が、魔法は発動しなかった。


魔力切れ。


「……ユーキ」


言葉にした瞬間、勇者に殴られマホは昏倒する。


地面に叩きつけられる強い衝撃。


その時はじめて、マホは魔力の使いすぎで魔法の泉が枯れていたことに気がついたのだった。

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