3.元仲間称えあう

男女の笑い声が響いている。


ここは勇者達が依頼を達成した村の酒場。


会計は村長持ちで貸し切り状態である。


「おい、カーシィ。巻き戻してもう一回見せてくれよ」


「何回も見ているでしょう」


そう言いつつもカーシィは小型の撮影機を操作する。


『ユーキ。泣くほど辛いなら故郷に帰ったらどうだ?』


撮影機には醜く顔を歪め涙を流す勇者の姿が映し出される。


「ウフ、フ……アハハハハハハハ!!」


「お前が一番笑ってんじゃねぇか」


笑いあうセッシとカーシィにマホが言う。


「アタシが冤罪を仕掛けたのが効いたわね」


マホはうんうんと一人頷く。


「演技は下手だったが、いい仕事だったぜマホ」


「撮影機に手元が映らないようにするのが大変でした」


カーシィは内心、馬鹿にするつもりで言ったのだがマホは気づいていないのか


「そうでしょ!そうでしょ!」


と嬉しそうに酒を飲んでいる。


「馬鹿よねー。村を救う為に渡した金で雇われた役人に責められるんだから」


モンスター討伐に出発する直前。


料金が高すぎると金を渡してきた勇者が気に食わなかった三人は村の役人を何人か雇い会議室で勇者を責め立てさせたのである。


セッシは「アイツの馬鹿は今に始まったことじゃなねぇよ」と笑う。


「役人に払った出費は痛いが、魔王を倒せば一生遊んで暮らせるだけの金が手に入るんだ。旅の思い出映像を買ったと思えば安いもんだよな」


「取り分が増えたしね」


「この映像には、小金以上の価値があります」


カーシィは撮影機を撫でた。


魔王を倒したあと国王に勇者の所在を尋ねられる可能性がある。


その時、これを提出すれば魔王討伐の報酬は3人で独占できることになる。


下手に勇者を殺せば、名誉の戦死という扱いを受けかねない以上これが最善だ。


「アイツ、首吊ってねーかな」


セッシの品が無い笑い声が響く。


「ナジミちゃんだっけ?セッシが脅してユーキと付き合わせたんだよね。手紙も指示してたみたいだし。でも、よく今日の為に仕込んだよね」


「バーカ、孕んだのは俺のガキじゃねーよ。誰のガキかも分からないけどな」


「そっかセッシのタイプじゃないもんね」


「ま、あの中の誰かだろうな」


二人の下種な会話にカーシィが割り込む。


「ユーキさん。もう殺されてると思いますよ」


驚く二人に、カーシィは魔王城に果たし状を送ったことを話した。


「『オーガは間抜けだから100匹いても余裕』なんて書き方されたらプライドの高いキングオーガは絶対に指定場所に来るぞ。そんで、殺される」


「えー、じゃあユーキの奴。童貞のまま死んじゃったんだ」


「あの男に愛を感じる人間なんているとは思えませんしね」


「……」


セッシは黙って何かを考えた後、口を開いた。


「万一だ。万一、アイツが生きていて俺たちに復讐を考えていたらどうする」


セッシは真剣な顔で二人の顔をしばらく見たがスグにふきだした。


釣られてマホも笑う。


「ないない。モンスターすら殺したがらない博愛馬鹿が人間を攻撃なんて」


「そもそも、1対1でも負けねぇよな!あんなカス相手に」


この言葉にはカーシィは笑わなかった。


カーシィは人の心が読める。


勇者が戦闘中にいつも手加減していることには気が付いていた。


1対1では負ける可能性もある。


それがカーシィの結論。


念の為、一定時間後に起動する時限魔法が勇者から仕掛けられていないか教会に確認しに行ったのもカーシィの案だった。


「どうしたんだよカーシィ。浮かない顔して」


「いえ、計画に支障がないか考えていたんです」


勇者一行が魔王を倒せば手柄は勇者のモノになる。


3人は話し合い


勇者を追放することにした。


次期女王になる権利をカーシィが


魔王討伐の栄誉をセッシが


魔道図書館の知識をマホが


金は等分で受け取るという取り決めを魔法の契約書でかわしたのだ。


そして今、勇者は死に残る課題は魔王を倒すだけとなった。


問題ない。魔将キングオーガは、どう見積もってもユーキよりも強い。


カーシィはそう考えると思考を打ち切った。


「何も問題ありません。」


カーシィが言い切る前にマホが立ち上がった。


「さっさと魔王を倒して洗脳したイケメンでハーレムをつくるわよ」


セッシは何だコイツという目を一瞬向けたが、グラスを持ち上げ後に続く。


「後世に俺の活躍が書かれた魔王討伐の本を残す。ユーキはボロカスに書くぞ」


二人とも、相当酔っているらしい。


あの気持ちの悪いユーキを亡き者にできたのだ


酔いが回る気持ちは分かると、カーシィはわずかに口角を上げた。


心残りは自らの手でユーキを殺せなかったことくらいか。


そう、考えるとカーシィは長い脚を組みなおした。


馬鹿共の夢の語らいに付き合うのも一興だろう。


「私は女王になって全ての人間を見下ろせる立場を手に入れる」


魔王討伐後のことを考える三人の脳内は己の欲望で満たされている。


彼女らの心には散々追い詰めた勇者に対する謝罪の気持ちは一切なかった。

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