第35話 メイリオは、今日も夢を見る
「ほぉ~ら、可愛いクマさんですよぉ~」
子供の遊び相手をしている、自称・お世話の達人。
クマさんパンツを掲げているあたりが微妙ではあるが、自信作であれば、自慢したくもなるだろう。それは、見事なクマさんパンツであった。
自慢する相手が子供ならば、可愛らしいと評して問題はあるまい。
周りから見れば。
「もぉ、駄犬、お座りぃ~」
ご本人となれば話しは別らしい、リーシアちゃんは顔を真っ赤にして叫んでいた。クマさんパンツを取り上げようと、必死に背伸びをしていた。
今すぐほしい、そういう理由ではない。一秒でも早く周りの目から隠そうとしているのだ。
「あぁ~………いつもの日々って気がするよ」
赤毛のお姉さん、レイーゼはどこかを見ていた。
見ている分には、本当に可愛らしい、いつもの光景であった。ライネに抱きしめられ、空を駆けて戻ってみればこの光景だったのだ、仕方ない。
「ほんと、いつもの光景ね」
ライネは笑いを必死にこらえていた。これはどう見ても、戦いから帰ってきた仲間を出迎える雰囲気ではなかった。
「本当に、いつもの日々でしょ」
出迎えたマッチョエプロンのダガルトも、にっこり笑顔。
聞けば、リーシアは戻るなり、駄犬に抱きつかれたという。
それはよい。
そこまでは、まぁ、よい。心配していたのだから、許しもある。だが、次の瞬間、駄犬メイリオはクマさんパンツが完成したと、自慢を始めたのだ。
感動の再会が、その瞬間にぶち壊しになったという。
「リーシアは一杯がんばったんだから、何かご褒美あげたいなって、お兄ちゃん張り切ったんだからな~」
「はずかしいから、やめて、やめて、やめてっ」
十歳の子供といえど、女の子は、女の子である。リーシアちゃんは、真っ赤になってメイリオの胸元にパンチを見舞っていた。
ポカポカと、可愛らしい
哀れである。
いつもの日々である。
守ることの出来た、日々である。
「クマさん以外にも、様々なアップリケを作れる自信がある。さぁ、任せてもらいましょうっ」
誰に向けてなのか、パンツを高らかに掲げて、宣言するメイリオ。恋人と町を歩く日々を夢見て、夢で終わっている気のいいヤツである。
リーシアちゃんは、手が届かない場所にパンツが掲げられて、絶望の瞳だ。
なぜかみんなの目線もパンツに向かう。
「クマさんパンツの山か、ちょっと見てみたいわね」
女王ライネが、何かを仰せだ。威厳ある女性に見えて、実は子供っぽく、細かなことにこだわらない御仁なのだ。
「なら、ライネもどうだ」
牙のアガットまでが、何かを仰せだ。女性の下着の話題であるのだが、なぜかいやらしさは感じない。それは中性的な顔立ち、姿のおかげだろう、ねたましい。
あせったのは、乙女なレイーゼだった。
「え、ちょ………ライネがクマさんなら、私も」
大好きな友人とはおそろいが、女の子の鉄則らしい。私のものをとるなと言う独占欲も丸出しに、ライネを抱きしめる赤い獅子。
年齢は、二つ上のお姉さん。普段は怖い姉さんで、時々乙女で、忙しいことだ。
そんな大人たちの攻防を背後に、リーシアは心に誓う。いつかきっと立派な女性となって、メイリオを打ち負かしてやろうと。
いや、今からでも出来ることがあると、立ち上がった。
「もうっ、駄犬、デリカシーなし、そんなんだから彼女出来ないんだよっ」
真っ赤になって叫ぶ女の子。
遠慮無しの、心の叫びである。だが、これで目が覚めるメイリオではない。ふんぞり返って、宣言した。
「ははは、何とでも言うがいい。それに、いつか彼女がほめてくれるのだ、子育ての達人であると。この、クマさんパンツにかけて――ははははは」
逆効果だったようだ。
あるいは、お返しと言うことだろうか、高らかにクマさんパンツを大きく掲げて、高笑いをしていた。
本当に、お調子者のピエロであった。
夢見る夢は、夢で見ろ 柿咲三造 @turezure-kakizaki
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