第24話 襲撃の、当日



 中継施設。

 それは、都市の心臓とも呼ばれる施設である。

 中央エネルギープラントから送られるエネルギーを受け取り、都市全体にいきわたらせるための、重要施設である。

 都市の心臓とも呼ばれながらも、都市の外れにあった。万が一の事故を考えて、都市から徒歩一時間の、山の向こうであった。

 そこは五本の管理タワーがある正方形の、城塞都市の印象がある巨大施設だ。

 四方を三メートルほどのレンガの塀が囲み、施設内の建物を周囲から隔絶している。その四隅に一つずつ、そして中央に一本の、あわせて五本の管理タワーがそびえ立つ。

 山を越えて目にする城塞都市は、どこか異様な印象をうける。

 夜の帳が落ちた今は、全体が光り輝いて、繁栄の証と言うよりも、不気味な怪物の住まいのようにも思える。

 その施設の屋根の上に、侵入者たちが降り立った。


「ここならいいでしょ、みんな、衝撃に注意ね」


 ふわふわと、輝く金髪のお姉さん、雷の女王ライネが注意をする。無言でうなずく銀髪ロングヘアーのアガットは、リーシアの手を握った。


「リーシア、腰をかがめろ」

「うん」


 唯一、この手の作戦になれていないリーシアへの気遣いだ。天才少女と呼ばれても、小さな女の子なのだから。

 野生の獣の印象の、波打つ赤いロングヘアーのレイーゼさんは、しなやかに降り立つ。赤い獅子ししと言うよりも、ひょうであろうか。


「久しぶりの大仕事、ワクワクするな」


 犯罪者集団『牙と爪』の精鋭部隊だ。

 率いるのは、我らが雷の女王ライネ。古い貴族の血を引くライネリア様であるが、仲間内はライネと呼ぶ。

 屋根の上へ降り立つと、最終確認に入った。


「リーシア、制御装置はおねがいね」


 今回の作戦の要であるリーシアは、大きくうなずいて、紙袋を抱き締める。

 ちなみに、ここまでは雷の女王ライネの魔法で、皆様がまとめて空を飛んできた。魔法の不思議であり、上を見上げても、ぼんやりと揺らぐ程度だという。今まで、ハデに空を飛ぶライネ様の姿が、一般市民の噂話にも上らなかった理由らしい。

 本当に、便利だとリーシアちゃんは思った。


「アガットは、リーシアの護衛」


 片腕でリーシアを抱きしめつつ、銀髪のロングヘアーを、きざっぽく後ろに撫で付けた。

 任せろという仕草である。駄犬メイリオがすれば、笑いを誘うか、調子に乗るなとこぶしが炸裂するか、見た目はとっても大切だ。

 今からはリーシアの護衛をする『牙』のリーダーである。


「そして、レイーゼは見張りを………一番危ない事をさせて、悪いわね」


 女王の微笑みに、ナイフへの口付けで答える。アガットさんの影響を受けたのか、芝居がかったかっこいい仕草であるが、とっても絵になる。

 夜空に波打ったロングヘアーがなびいて、屋根に降り立つ姿は、狩人の女王だ。

 ここに、防衛責任者でもあるマッチョなお姉さん、ダガルトを除いた、『牙と爪』の四天王が動く。

 なお、四天王は、かっこいい、箔がつくと、アガットの提案である。

 きざっぽい仕草を含め、そういうことがお好きなようだ。見た目が美人なかれだから許されるのだ。美女と言われても納得だが、すらっとした、かっこいいお兄さんだ。

 改めて、全員の顔を見回した女王ライネは、微笑んだ。


「じゃ、予定通りに」


 瞬間、ライネは消えた。

 驚きに目を見開くリーシアだったが、すぐに我に帰る。

 魔法と言う力だと、知ったためだ。瞬時に上空へと飛び去ったために、認識が追いつかず、消えたと勘違いしているのだと………おそらく、上空の、数百メートル地点に到達しているだろう。魔法の不思議である。


「リーシア、俺たちも」

「うん」


 そして、アガットもリーシアを背負い、風のように屋根の上を飛び跳ねる。いくら子供とはいえ、人一人を背負っているのに、体重を感じさせない軽やかさ。

 それもまた、魔法の作用だと聞かされた。


「飛んでるみたい………」

「あぁ、魔法の作用らしい………お前の飼い犬が、手品で遊ぶだろ?とにかく、浮かぶんだってさ」


 リーシアとアガットは、声を抑えている。それでも、屋根を走れば大きく物音がしそうだが、足音など、聞こえない。

 重さを感じさせないと言うか、本当に、重さはなくなっているのだろう。風船が屋根の上をはねるように軽やかと言うか、重さのない速さだ。

 身軽であるほかに、アガットは怪力の持ち主でもある。

 2メートルオーバーのマッチョのダガルトお姉さんより、はるかに怪力なのだ。

 ダガルトお姉さんは、だって、女の子ですもの(はーとまーく)と、か弱さをアピールできて、楽しそうだ。

 雷の女王ライネなどは、雷を発生させるという、分かりやすい魔法の力を操る。貴族の末裔と言う血筋を忌み嫌う政策の、本当の理由かもしれない。

 誰も逆らわない。

 逆らった者は、消されていく。命であったり、自由であったり、犯罪者を収容する施設の正体だ。何が犯罪であるのか、それは、ドートム政府が決めるのだから。

 だからこそ、リーシアは思う。

 滅ぼされてたまるかと。


「時間になれば、表の陽動ようどう部隊も動く………まぁ、リーシア………駄犬なんだが」

「お願い、言わないで………」


 必死な覚悟をしていたリーシアちゃんが、うなだれる。

 駄犬メイリオこと、お世話の達人を自称する十七歳男子は、ささやかな魔法の力を操る。手品と口にすることで、魔法の力を隠していた。その力は、今回の陽動作戦で役立つのだと、とっても張り切っていたのだ。

 不安しかない、リーシアだった。


 なんか、やらかしそうだと………


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