第23話 リーシアちゃんと、作戦会議
作戦会議は、知識の共有を、まずは優先としていた。
リーシアは、父親であるリョーグ・メイゼ博士の生み出したエネルギーシステムの危険性と、背負った未来の重さについてを話した。
「今の反応炉心の正体は、古代兵器なの。力が漏れ始めてるって気づいたパパたちは、せっかくだから、みんなに使ってもらおうって、今の供給システムを作ったの」
一般には、おそらく中継施設の責任者すら知らない真実だった。
まるで、一定以上使ってもらわなければいけないような、そんな違和感を覚えるほど、豊かで平等な今の世界。
それは、綱渡りだった。
女王ライネは、つぶやいた。
「………『神殺しの兵器』、まだ残っていたのね」
驚いたのは、リーシアだった。
全ての秘密を知っているつもりであったのだが、古代兵器としか知らないその正体を、女王はご存知であったのだ。
『神殺しの兵器』と、女王ライネは口にした。
魔法と言う力が実在した。それだけでも十分に驚いていたのだが、ドートム政府が隠してしまった真実は、いくらでもあるらしい。
リーシアは、
「………いたの?神様」
『神殺しの兵器』
すなわち、神と呼ばれる存在を殺すために生み出されたということだ。
ライネは、静かにうなずいた。
「リーシアのお父様………そういえば、私が魔法使いかもしれないって言ってたのよね。ばれないようにしてきたつもりだけど………」
「ライネって、ハデだから………」
「それでも、
女王ライネに、ナイフのレイーゼ、そして牙のアガットが、大人同士で会話していた。
才女リーシアは、好奇心に突き動かされるまま、質問攻めにしたかった。同時に、途方もなさ過ぎて、どうしようと言う気持ちにもなっていた。
つぶらなお口は、こういった。
「………反応炉心の話に戻すね」
部屋の全員は、うなずくことで同意した。
「予定なら、そろそろ無害化されるはずだったの。だけど、供給出力は変わってない。だから、今新しい炉心に取り替えようとしたら大変な事になるって、パパは言ってたの」
幹部会議であったり、偉い方々の私的な会合であったりと、どうしても色々と耳にしてしまうのだ。
まして、研究施設を遊び場代わりにしていたリーシアには、色々と教えてくれていた。
「パパは、苦しんでた。古代兵器の無力化に、失敗したかもしれないって。もし活性させただけだとしたら、もし、今の接続を全部切ったり………それが逆流したら――」
メイゼ博士が、新型炉心に批判的と言われる、真相だった。
『神殺しの兵器』にどれほどの威力があるのかは、分からない。ただ、無力化させるために力を奪い続けた。それだけで、どれほどの恩恵が与えられたのか。
過去数十年にわたって、大陸中の人々に熱と光をもたらしたのだ。その力が、一度に開放されれば、どれほどの被害がもたらされるのだろうか。
「前にも話したけど、バカな大人たちは、町を真っ暗にして、混乱させるつもりなの。大騒ぎになるけど、その程度の被害しかないって、思い込んでる」
結果として、人が死ぬかもしれないが、被害が大きいほどに、責任者への処罰感情が強くなる。その責任者は誰か、政府も邪魔に思っている、リョーグ・メイゼ博士である。
裏で糸を引いているのが、わからない。だが、メイゼ博士のこの町での味方を黙らせることが出来る。それほどの力のある人物であることは、確からしい。
リーシアが、そう判断する出来事があったのだ。
雷の女王ライネ、ナイフのレイーゼ、そして、牙のアガットがそろってため息をついた。
「その程度じゃ、すまないんだよね」
「厄介だな………諜報員がいるのかよ………」
「保安部とは別権限………っていうか、局長でも、下手すりゃ首が飛ぶぜ。物理的にさ」
リーシアが目にした資料と、手にしたニセモノの制御基盤と、それを探しに来た大人たちの会話と………
リーシアの抱いた危機感を、『牙と爪』の幹部の方々は、等しく抱いた。ニセモノの制御基盤の役割は、博士が調べたところでは、停止ではない。
「ニセモノの命令は、全部の安全装置をだまして、都市に供給されるエネルギーを送り返すの。停電は、その副作用だから、実験しても気付かない………そういう風に作られてたの」
停電は、小さな余波に過ぎない。都市に供給されるエネルギーが逆流、暴発を促せばどうなるのか………
メイゼ博士は、今回の黒幕に叫んだはずだ。どうなるか、分からないのかと、連鎖反応で、中央エネルギープラントが暴走するかもしれないと。
「大人たちは言ったの、だまされないって、メイゼ連合をそそのかして、自分の地位を守りたいだけだろうって………諜報員のおじさんも、命令にはそんなの関係ないって………」
語り終えたリーシアは、うつむいた。
大人の事情だと言うらしいが、危険を知らされても、信じようとしなかった。そもそも、聞くつもりがないのだ。
子供でも、大人の社会が理解できるリーシアである。ドートム政府の命令に逆らえる人間など、表の社会で生き延びているはずがないのだと。
ここへ来た理由だった。
「まぁ、私の実家でもそうだったからね~………ドートム政府に逆らうことは、今の社会を否定すること、みんなの敵だぁ~――ってね?」
「あぁ~………一部のバカがバカをやって、みんな巻き込まれたものな、バカをやったご本人は、何をやったのかわからないまま………」
雷の女王ライネは、黄金の髪の毛を書き上げて、嘆きを演じていた。そばに控える子猫ちゃん――ではなく、波打つ赤毛のナイフのレイーゼは、腰に抱きついたまま、その様子を寂しげに見つめる。おふざけに見えるが、おふざけをする事で、悲しみを隠しているのだ。
リーシアは、こっそりとダガルトに教えられた話を思い出し、口を閉ざした。悲しい過去は、気安くふれていいものではないのだから。
腕を組んでたたずんでいたアガットは、銀のストレートロングをなびかせていた。室内に風が吹いていないのに、魔法とは便利だ。
最近は、駄犬まで真似を始めたが、なぜか、駄犬はバカに見える不思議であった。
「………リーシアのお父様、やっぱりすごい人だよ。『神殺しの兵器』を安全に無力化する方法って、考えたら今の方法しかないから」
「ライネの実家に伝わる話だと、そこかしこで使われてた………だったか」
「そして、大陸の大半が無人の砂漠になりましたとさ………今度は、どうなるんだろうな」
今回の騒ぎは、都市の混乱程度で終わらない、その先に待つものは、世界の危機だった。
もしくは、滅亡。
リーシアは、周囲の景色が、おぼろげになる錯覚を覚えた。 全てがある日、突然に消えるかもしれない。それほどの力を抑えようとしたのが、リーシアの父親だったのだ。
リーシアは、父の偉大さを、改めて思い知った。
どれほどの恐怖を抱えて、今まで生きてきたのか。それでも、戦いをやめることなく、今を守ってきたのだ。
リーシアは思った。
今度は、自分の番だと。
そう思ったのは、リーシアだけではなかった。
「まぁ、逆流させなきゃいいなら、いざとなれば――」
「だめっ、そのペンダントは、ライネ」
新たな単語が、リーシアの耳に飛び込んだ。
ライネの胸に飾られているペンダントを、レイーゼが両手で守るようにつかんでいた。必死に、泣きそうな顔だった。普段の怖いお姉さんでも、甘えん坊の子猫ちゃんでもない、すがるように叫んだ。
「そうしないように、オレたちががんばればいいって話だ、レイーゼ」
アガットが、優しくなだめた。
聞いてはならない話だと思って、リーシアは待った。
すぐに会議は再開され、襲撃メンバーや、解散のタイミングなどを話し合った。後日、あらためて襲撃メンバーにも説明が行われるだろう。
ただ、駄犬まで参加するとは、思ってもいなかった。
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